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あれから二週間、あたしは出迎えていた。
それは『学校法人・宇喜学園』。その学園長と、十一人いるほかの付属学校の理事長が全員集合。
宇喜高では、ある意味一大イベントでもある。
前にあたしにイチャモンをつけてきた中学の理事長も、そこにはいた。
中先生と一緒に一つ一つ家庭訪問を繰りかえして、昨日の夕方にようやく百件を解決できた。
だけど、まだ終わりではない。
すぐさま報告書作成が待っていた。徹夜で職員総出をして報告書にあたった。
一部の臨時職員も全員緊急出動させて報告書をまとめた。
苦労の末に完成させた報告書と視察に参加していたあたし。
学校を一回り視察した後、会議室に集まっていた。
学校内にある会議室は、とても静かで水を打ったような空気。
あたしは、会場に設定されてプレゼンの用意をしていた。
多くの理事長たちを前にしたあたしは、緊張感ある中で大きく深呼吸。
「では、お願いします」
学校法人側が連れてきた司会役の教員に促されて、あたしは発表を始めた。
あたしの隣には、黒髪に染めた北小路がスーツ姿で立っていた。
「私たち宇喜高は、いじめ百件解決を目標に活動してきました。
そして私たちは、一つ一つ丁寧に対策していって百件の解決に成功しました。
まずは、こちらをご覧ください」
そう言いながら、北小路がUSBをセットしていた。中央のパソコン画面に報告書を出した。
そばにあった原稿を暗記しながらあたしは話を続けた。
「これが、一月十八日に起きた集団リンチ事件です。
この事件は、一人の生徒を三人の特待生がいじめるというものです。
いじめ内容は暴行事件です。場所は野球部の寮で、いじめ時刻は放課後四時十三分と報告がありました。
原因は、親友がいじめられたことによる仕返しです」
「解決はどうなっているんだ?」
すると聞いてくるのが、奥にいる男。
初老の男は、風格のある目であたしを見てきた。しわの深い顔は年輪を感じさせた。
「この件も解決しています。加害者、被害者ともに話を聞いて加害者に厳重注意をしています。
最初は指導を与えまして次の指導を停学処分という通達を本人にもしました」
「なるほど、それが百件か」
「ええ、では次の説明をしますね」
何件か説明した。いつの間にかプレゼンがうまくなっていたとあたしは感じていた。
これも慣れなのね、などと自分で結論づけていた。流暢な言葉でプレゼンを進めた。
「このように、あたしたちの学校は多くのいじめを解決してきました」
「では質問です」
そう言いながら、髪が立っている男が立ち上がった。
前の会議であたしたちの学校に、いちゃもんをつけてきた中学の理事長だ。
北小路の顔が自然と険しくなるけど、あたしはそれを落ち着いてみていた。
「あなた方の学校は、なんでこんなにいじめがあるんですか?」
「それは……」
「おかしいじゃないですか!それとも、今までずっと理事長はいじめを黙認していたのですか?」
「そうですよ、それが問題で今の数字が正確です」
「ならば、こんな学校は廃校にすべきで!」」
「だからこそ、いじめを私たちはこれだけ解決したんです!
これからもいじめ解決に全力を注いでいきます!」
胸を張って堂々とあたしは言いきった。その言葉に静まり返る会場内。
全ての視線があたしに注がれた、だけど臆することはない。
「あたしの学校は、とてもいじめが多かったです。
それは間違いありません。でも、いじめは解決しないといけません。
みんなは学校にいじめがあるのが怖いんですよ、だからいじめの数を変えて隠蔽しようとする。
他の学校も、公表している数字だけではないはずです。
私は、ほかの学校も同じように再調査をするべきだと思います。
そして、どれぐらいのいじめが解決されたかを評価するべきなのです!」
あたしの言葉は重かった、静かな会場内に響いていた。
多くの学校関係者の目が、あたしに向けられるままあたしは静かに座った。
「そうだな」
奥にいた初老の男がつぶやいた。目を開いてあたしをしっかり見ていた。
「彼女の言うとおり、本来の信念を忘れていたのかもしれない。我らが目指していた教育を」
「学園長!何を言っているんですが……いじめが多いのも事実です」
「だけど、解決した実績がある。それがすべてだ」
初老の男が言うと、文句を言っていた髪が突っ立た男がひるんでいた。
あたしは、そのやり取りをじっと見ていた。後ろの北小路も固まって初老の男を見ていた。
「今までのシステムは間違っていることに気づかせてくれた。今一度、考え直した方がいいだろう。
学校の評価システムを再考する時代が来たというわけだな」
「はい、そのようですね」
「しかし……」髪が突っ立った中学の理事長は全く食い下がらない。
「それとも、自信がないのかな?北九州宇喜中学校」
「いえ、そんなことあるはずもないですよ。こんな小娘のところに負けるはずが無いですよ」
「本当ね、じゃああなたの学校も百件解決できるわね」
あたしが言うと、男は負けじと「できますとも」と張り合っていた。
そう、この瞬間にあたしは勝った。
この男に、いじめ問題にあたしは勝ったんだ。




