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翌日放課後の職員室は、あわただしかった。
あたしは、理事長室にいたけれどバタバタ走り回る教師を見ていた。
理事長室に入ろうとする廊下で、あたしはあること聞いて職員室に来ていた。それは、
「いじめ、またですか!」
その声を聞いて、あたしはスーツ姿で乗り込んで来た。早朝の職員室はあわただしい。
「どうしたの?」
あたしが入ると、職員室の教師は電話を持ったり走り回ったりする教師であふれていた。
まるでどこかの新聞社が、締め切り間近で慌ただしくしているかのような光景が広がっていた。
「理事長、お前に今絡んでいる暇はない」奥で走り回っているのが北小路だ。
「なによ、どういう意味?」
あたしは、すかさずおせっかいを発動させて北小路に詰め寄っていく。
だけど意にも返さず両手に資料を抱えた北小路は、電話している教師の机に資料の束を置いていく。
「忙しいんだ。後で……」
「全く、いじめがあったらあたしに報告しなさい」
「ブス理事長、お前は生徒指導じゃないだろ。これは俺たちの問題だ!」
「いじめ百件解決宣言中なの。だからあたしに報告。そうでしょ、露木さん」
あたしと北小路が言い合う中、そばを通りかかった露木さんに声をかけていた。
露木さんが、あたしの声に立ち止まって振り返った。
資料の束を持って、露木さんは少し気まずそうな顔を見せていた。
「どうしたんですか?」
「露木さん、どんないじめが起きたんですか?」
「これはいじめじゃありません、学校を二分化した戦争です。あの時みたいに」
普段は穏やかな露木さんが、珍しく厳しい口調で言ってきた。そのまますぐそばの教師に指示を出す。
指示を出された教師は、すぐに電話を受けて走り回っていた。
「戦争?あの時?」
「ええ、いじめは全部で把握しているだけで八件。
昨日の夜の野球部の寮での暴行から、登校中のリンチ。ほかにもリンチ、暴行……」
「なんで急にそんなに増えたのよ!」
「知りませんよ!だけど教師たちは、それに追われているんです。数が多すぎます」
そう言いながら、近くの誰もいない机では内線電話が鳴っていた。
露木さんは電話をとろうとすると、北小路がふさがっている露木さんの代わりに電話を取って耳に当てた。
「はい、もしもし……そうですか、はい……」
電話を受けながら、資料の束を持って露木さんはあたしから離れていった。
そのまま北小路が、険しい顔であたしを見ていた。
「というわけだ、邪魔するなブス理事長」
「なによ、あたしだって!」
「桃香理事長代理!」
そういうと、少し離れた席で露木さんが大きな声であたしに向かって叫んでいた。
北小路を置いてあたしは、振り返って露木さんのそばに駆け寄った。
「どうしたの?」
「こればかりは、あなたに頼むしかないです。お願いがあります。今から一緒に来てくれますか?
あなたは本当にいじめを解決しようというのならば……」
その時の露木さんは、いつもの穏やかでダンディな学年主任の顔ではなかった。
助けを求めるような目で、あたしを見てきたから。




