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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
四話:いじめられっこの|幽霊《ゴースト》
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翌日、あたしは朝早くに画像の写ったあの場所に来ていた。

朝早くでも野球部はやはり練習していた。朝練、野球部のスケジュール表にそれが書かれていた。

朝五時、一糸乱れぬ走り込みがあたしの後ろを通り過ぎた。


(やっているな、あたしも頑張らないと)

そういいながら、携帯カメラを構えていた。

ここは野球部の小屋の近く、そばには歩道が見えた。近くに防犯カメラがあるけど、このあたりを映していない。

そばには、ベンチ、噴水と時計台が見えた。

あたしは携帯のカメラ機能で、同じような画面を携帯電話に映し出されていた。


(現場はここ、カメラアングルはここで間違いなさそうね)

携帯のカメラ機能で覗き込んだ動画は、あのいじめ画像と同じ。

そんなあたしはあることが気になった。


(そう言えば、まだここは日陰だからちょっと白いわね……ん)

そこには雪があった。一月十九日は雪が降っていた。

この事件は一月十九日。

雪が降ったのも一月十九日。朝から雪が降っていたとなると、そうか。


「なにしている、お前?」

あたしが、ひらめいたときに奥から声がした。

そこにはジャンパー姿で、金髪の北小路がいた。当然目つきが悪くあたしをみてきた。


「な、なによ北小路」

「相変わらず、悪あがきか?」

「そ、そうよ。なんか文句ある?」

「もうあきらめろ、昨日も夜遅くまでやったんだろ。単に大東一人処分すれば……」

「何もわからないくせに、勝手なこと言わないで!」

あたしは北小路に激しく怒った。顔を赤くして、すぐさま北小路に詰め寄った。

白い息を吐いてあたしの剣幕に、北小路もさすがにあきれ顔だ。


「お前も、頑固だな」

「当然よ、あなたは教育者としての考えが間違っている!あたしのパパが言ったことを忘れている」

「俺はそれでも守らないといけないんだ。学校を!」

「じゃあ、生徒も守らないといけないじゃない!」

あたしの言葉に北小路は唇をかんだ。

叫んだあたしと北小路の間に、気まずい空気が流れた。


「……そうだな。お前はおせっかいだったな」

「そうよ、あたしはパパ譲りのおせっかいなの!」

「真っ直ぐだな、お前は!」

ポケットに手を突っ込んで、北小路があたしに背を向けた。あたしは、それを携帯握りしめながら見ていた。


「そうよ、あたしは真っ直ぐよ!真っ直ぐいじめに向かっていくんだから!」

遠ざかる北小路の背中を見ながら、そう誓っていた。


「だけど、それがダメなんだ!お前はまだ素人なんだから」

「うるさい!」

あたしと北小路がいがみ合っていた。


「なあ、落ち着けよ。おまえあの時から、様子がおかしいぞ」

そう言いながら北小路が近づいてきた。そのままあたしの手を掴む。


「おかしくなんかない、むしろ北小路の方が……」

「俺は任務を請け負っているからな」

「前にも言っていたわね、父さんの依頼」

「俺は三つの指令を受けている。その一つに過ぎない、そんなことより理事長」

「な、なによ」

あたしの言葉に、北小路はちょっと恥らった顔を見せた。


「かわいくなったな」

「へ?」当然のことながらあたしは呆気にとられた。

「例の南条か?」

「な、なんで南条君がここで出てくるのよ!」

「お前、好きだろ。ストーカー理事長」

「……うん、だけど……」

「コクったのか?やったのか?ホテルの場所は……」

「うるさい!」

あたしは、顔を赤くして北小路の声を遮った。

ただ単にあたしは恥ずかしかっただけなのに叫んだことで、余計に恥ずかしくなったじゃない。


「……そか、すまん」珍しく申し訳なさそうな顔の北小路。

「い、いいわよ」

そのあと、やはり沈黙した時間が流れた。外の走り込みの掛け声が聞こえてくる。


「ねえ、北小路」

「なんだよ?」

「北小路の理想の女性ってどんなの?」

「さあな、少なくともあのババアでないことは確かだ。そんなことより……」

そう言い残して北小路が背を向けた。あたしは次の言葉を待つ。


「最後に一つだけ忠告してやる」

「何よ、北小路」

「諦めるなら今のうちだ。おまえに大東の無罪を証明することはできない」

「そんなこと、ないもん!」

背中を向けて歩いていく北小路に、あたしは声を張り上げて叫んでいた。

それでも北小路は、あたしから離れていった。


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