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翌日、あたしは朝早くに画像の写ったあの場所に来ていた。
朝早くでも野球部はやはり練習していた。朝練、野球部のスケジュール表にそれが書かれていた。
朝五時、一糸乱れぬ走り込みがあたしの後ろを通り過ぎた。
(やっているな、あたしも頑張らないと)
そういいながら、携帯カメラを構えていた。
ここは野球部の小屋の近く、そばには歩道が見えた。近くに防犯カメラがあるけど、このあたりを映していない。
そばには、ベンチ、噴水と時計台が見えた。
あたしは携帯のカメラ機能で、同じような画面を携帯電話に映し出されていた。
(現場はここ、カメラアングルはここで間違いなさそうね)
携帯のカメラ機能で覗き込んだ動画は、あのいじめ画像と同じ。
そんなあたしはあることが気になった。
(そう言えば、まだここは日陰だからちょっと白いわね……ん)
そこには雪があった。一月十九日は雪が降っていた。
この事件は一月十九日。
雪が降ったのも一月十九日。朝から雪が降っていたとなると、そうか。
「なにしている、お前?」
あたしが、ひらめいたときに奥から声がした。
そこにはジャンパー姿で、金髪の北小路がいた。当然目つきが悪くあたしをみてきた。
「な、なによ北小路」
「相変わらず、悪あがきか?」
「そ、そうよ。なんか文句ある?」
「もうあきらめろ、昨日も夜遅くまでやったんだろ。単に大東一人処分すれば……」
「何もわからないくせに、勝手なこと言わないで!」
あたしは北小路に激しく怒った。顔を赤くして、すぐさま北小路に詰め寄った。
白い息を吐いてあたしの剣幕に、北小路もさすがにあきれ顔だ。
「お前も、頑固だな」
「当然よ、あなたは教育者としての考えが間違っている!あたしのパパが言ったことを忘れている」
「俺はそれでも守らないといけないんだ。学校を!」
「じゃあ、生徒も守らないといけないじゃない!」
あたしの言葉に北小路は唇をかんだ。
叫んだあたしと北小路の間に、気まずい空気が流れた。
「……そうだな。お前はおせっかいだったな」
「そうよ、あたしはパパ譲りのおせっかいなの!」
「真っ直ぐだな、お前は!」
ポケットに手を突っ込んで、北小路があたしに背を向けた。あたしは、それを携帯握りしめながら見ていた。
「そうよ、あたしは真っ直ぐよ!真っ直ぐいじめに向かっていくんだから!」
遠ざかる北小路の背中を見ながら、そう誓っていた。
「だけど、それがダメなんだ!お前はまだ素人なんだから」
「うるさい!」
あたしと北小路がいがみ合っていた。
「なあ、落ち着けよ。おまえあの時から、様子がおかしいぞ」
そう言いながら北小路が近づいてきた。そのままあたしの手を掴む。
「おかしくなんかない、むしろ北小路の方が……」
「俺は任務を請け負っているからな」
「前にも言っていたわね、父さんの依頼」
「俺は三つの指令を受けている。その一つに過ぎない、そんなことより理事長」
「な、なによ」
あたしの言葉に、北小路はちょっと恥らった顔を見せた。
「かわいくなったな」
「へ?」当然のことながらあたしは呆気にとられた。
「例の南条か?」
「な、なんで南条君がここで出てくるのよ!」
「お前、好きだろ。ストーカー理事長」
「……うん、だけど……」
「コクったのか?やったのか?ホテルの場所は……」
「うるさい!」
あたしは、顔を赤くして北小路の声を遮った。
ただ単にあたしは恥ずかしかっただけなのに叫んだことで、余計に恥ずかしくなったじゃない。
「……そか、すまん」珍しく申し訳なさそうな顔の北小路。
「い、いいわよ」
そのあと、やはり沈黙した時間が流れた。外の走り込みの掛け声が聞こえてくる。
「ねえ、北小路」
「なんだよ?」
「北小路の理想の女性ってどんなの?」
「さあな、少なくともあのババアでないことは確かだ。そんなことより……」
そう言い残して北小路が背を向けた。あたしは次の言葉を待つ。
「最後に一つだけ忠告してやる」
「何よ、北小路」
「諦めるなら今のうちだ。おまえに大東の無罪を証明することはできない」
「そんなこと、ないもん!」
背中を向けて歩いていく北小路に、あたしは声を張り上げて叫んでいた。
それでも北小路は、あたしから離れていった。




