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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
四話:いじめられっこの|幽霊《ゴースト》
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翌日、あたしは待っていた。昨日の雪が残って、今日も寒い。

曇り空が見える理事長室の窓、一人きりのあたしはあれから何度も画像を見ていた。

露木さんの置いて行ったノートパソコンにあたしは釘づけだ。

それ故に北小路はあたしのかわりに、今日も雑誌の取材を受けていた。

なんでも高校野球の特集らしい。皮肉なものね。


放課後になったあたしは、早速行動に移していた。

単純にあれだけ大きないじめをしている。だとしたらいじめを目撃した人間がいるかもしれない。ならば……

そして、理事長室のドアがノックされた。


「失礼します」

そこにいたのが生徒会長の葛西君。眼鏡姿で、インテリ風の葛西君が紙袋を持っていた。

「あれ?葛西君、どうしたの?」

「急に先生がこれ無くなって、代理できました。これ、アンケートです」

「そう、ありがと」

葛西君の言葉と同時に、ゆっくりとあたしの席の方に近づいてきた。


「それより、どうしたんですか?急にアンケートなんて」

「えっと……ちょっとした事件があってね」

いじめや画像のことを生徒には話してはいけない。生徒に不安や混乱を招くから。

あたしの小さな隠蔽(いんぺい)。したくないけどちょっと心が痛む。


「そうですか、またいじめでもあったのかと……」

「まあ……あまり大げさに言えないんだけど、ね。葛西君、最近は生徒間で何か変わったこと起きていない?」

「特には……ないですね、いじめとかもないですし」

「そう、じゃあ葛西君もう一つ聞いていい?」

「はい?」

「渡瀬君って名前、知っている?」

「渡瀬……ですか?なんですか、それ」

葛西君は眼鏡の耳あてを触りながら、首を傾げていた。


「ごめんなさい、忘れて」

「そうはいわれても……とても気になりますよ」

そう言いながら、葛西君が座っているあたしに顔を近づけた。

思わずノートパソコンの電源を落としてしまうあたし。

いきなり近づけて鼻息がかかるほどの距離に葛西君の顔、あたしは目をそむけた。

こうしてみると、葛西君ってちょっとかっこいいかも。


「な、何?」

「いえ、なんでもありません。では私からも質問です。理事長は南条のことをどう思いますか?」

「えっ、な、南条君?」

「そうです」理事長席のそばで葛西君が、あたしをじっと見ていた。


「どうも生徒会には、いろいろタレこみが入っていますよ。

よく理事長代理が一年のクラスを巡回しているとか、陸上部の部室に遊びに行っているとか」

「ええっ、なんで……違うの、違うわ!」

あたしは、顔を赤くして猛反対した。だって、本当の事だから。

だけど、葛西君がクスリと笑ってくれた。

前に歓楽街の北小路をつけてから、最近はストーカーにはまってしまったらしい。

なんというかあのドキドキ感、味わったら病みつきなのよね。


「本当のところ、どうなんですか?南条の事が……」

「うん……南条君って……かわいいっていうか」

「理事長が言いたいことは分かります。南条は確かに人懐っこいですからね、かわいいですよ」

「そーそー、そういうところ。あたしはかわいい南条君が大好きで……かわいい子犬みたいで」

「なるほど、じゃあ学内ネットに……」

「わーっ、それはダメ!絶対、なんでも、とにかく!理事長命令です!」

あたしは、顔を完全に赤くして反対した。手をバタバタさせて、顔から湯気が出ていた。

それを見て、ほくそ笑む葛西君。なんか弱みを握られた気分。


「いいでしょう、理事長も女性なんですね」

「失礼ね、れっきとした女よ。全く、なんだと思っているの?」言いながら拗ねた。

「からかったお詫びといってはなんですけど、来週から南条は陸上部に戻るそうです」

「ホント?」

「ええ、部活の応援も一区切りついたって本人言っていましたから」

葛西君は、いつも通りのクールな表情であたしに言ってくれた。真剣な顔で思わずメモをしていた。


「それにしても陸上部って、南条君がいつもいなくて大丈夫なの」

「大丈夫みたいですよ。陸上部は秋と春の予選、それから新人戦以外では試合がないみたいですから。

それに、陸上部は特殊な立場ですし」

「特殊な立場?」

「部員が少ないのもありますけど、あちこちの部の応援を行くことですね。

その応援さえも、陸上部の昔ながらの伝統みたいですが」

「へえ~。そうなんだ、今度南条君探しの参考にするね」

「あまり、ストーカーしないでくださいよ」

「何言っているの、あたしは応援よ、南条君個別の応援」

あたしは、そう言いながらも顔がやっぱり赤いままだった。

呆れたのか、軽く笑った葛西君はアンケート結果を置いて背を向けた。


「それでは、失礼しますよ理事長」

彼は行儀よくお辞儀して理事長室のドアから出て行った。あたしは、不機嫌な顔で理事長室の窓を覗き込んだ。

(ストーカーじゃない……のかな?)

ちょっとだけ心の中で引っかかっていた。



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