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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
一話:新米の|理事長《ディレクター》
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宇喜高理事長室、そこはきれいで大きな部屋だった。

木造の壁、大きな窓、黒革の立派なソファーに大きな桐のテーブル。

着ていたブレザーから藍色のリクルートスーツに着替えたあたしは、理事長の椅子に腰かけていた。

これは露木さんが用意したもの、なんか仕事できます系OLって感じじゃない。

あとは伊達眼鏡あれば完璧ね。


窓を背にある、理事長の席にはマイク。

そして、両脇の大きな棚にはトロフィーがいっぱい飾られていた。

「甲子園準優勝、国体優勝、世界大会出場、本当にすごい学校ねぇ」

椅子に座ったままであたしは、トロフィーを見ながらため息ばかりついていた。


露木さんが置いていった学校の資料や、理事長の仕事の本をパラパラとめくりながら露木さんを待つ。

目的は、十二月の学校法人の会合。今のあたしが、理事長代理である理由。


(飾りだけの理事長って、言われてもなぁ。

具体的にはいろいろあるじゃない、要人の相手とか、報告書の作成とか。ああ、あの不良教頭がやるのね)

そんな資料を見ていると、あたしの前にあるドアが開いた。


「露木さん、お帰りなさい」と、声をかけようとしたときに入って来たのが北小路だった。

相変わらず目つき鋭くあたしを睨むと、あたしも不快な顔を見せた。

そのまま、不機嫌極まりない顔で彼は前のソファーにどっしりと座った。


「なんで、ここに来るのよ」

「教頭だからな、当然だろ。嫌ならお前が出ていけ」

ネクタイをゆるめて、だらしなく座ってあたしと目を合わせない。もちろんあたしは許していない。


「ねえ、あんた。あたしに謝んなさいよ」

「なんでだよ?俺が謝る理由がない、理由があるならちゃんと説明しろ」

「理由って、あんだけ侮辱したら誰だって怒るわよ!」

「それを侮辱というのか?俺は正論を言ったまでだ。女ってのは、感情的で言葉をよく吟味しない」

「なによ、それが侮辱なのよ!世界中の女を全て、敵に回したからね」

「ほう、そいつはご苦労なこった。だけど残念だな、この学校に女はお前以外いない。よって俺が正しい」

「なんなのよ、あんた……もう!」

あたしはとても悔しかった、泣き出したくなるぐらい悔しかった。

だけど、あたしは向かっていった。『気になったことを言う』それが唯一父から教わった言葉。

グッと右手を握って、泣き出しそうな感情を抑えて視線を逸らした北小路を睨みつけた。


「すいません、理事長代理、教頭」

そして、その緊迫した空気を破るように助け舟が来た。露木さんが理事長室に入って来た。

「露木さん、聞いてください」

「ええ、本当にすいません。それじゃあ理事長代理、行きましょうか」

その時の露木さんは、菩薩の様に笑顔を見せていた。北小路はそれでも視線を合わせなかった。


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