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宇喜高理事長室、そこはきれいで大きな部屋だった。
木造の壁、大きな窓、黒革の立派なソファーに大きな桐のテーブル。
着ていたブレザーから藍色のリクルートスーツに着替えたあたしは、理事長の椅子に腰かけていた。
これは露木さんが用意したもの、なんか仕事できます系OLって感じじゃない。
あとは伊達眼鏡あれば完璧ね。
窓を背にある、理事長の席にはマイク。
そして、両脇の大きな棚にはトロフィーがいっぱい飾られていた。
「甲子園準優勝、国体優勝、世界大会出場、本当にすごい学校ねぇ」
椅子に座ったままであたしは、トロフィーを見ながらため息ばかりついていた。
露木さんが置いていった学校の資料や、理事長の仕事の本をパラパラとめくりながら露木さんを待つ。
目的は、十二月の学校法人の会合。今のあたしが、理事長代理である理由。
(飾りだけの理事長って、言われてもなぁ。
具体的にはいろいろあるじゃない、要人の相手とか、報告書の作成とか。ああ、あの不良教頭がやるのね)
そんな資料を見ていると、あたしの前にあるドアが開いた。
「露木さん、お帰りなさい」と、声をかけようとしたときに入って来たのが北小路だった。
相変わらず目つき鋭くあたしを睨むと、あたしも不快な顔を見せた。
そのまま、不機嫌極まりない顔で彼は前のソファーにどっしりと座った。
「なんで、ここに来るのよ」
「教頭だからな、当然だろ。嫌ならお前が出ていけ」
ネクタイをゆるめて、だらしなく座ってあたしと目を合わせない。もちろんあたしは許していない。
「ねえ、あんた。あたしに謝んなさいよ」
「なんでだよ?俺が謝る理由がない、理由があるならちゃんと説明しろ」
「理由って、あんだけ侮辱したら誰だって怒るわよ!」
「それを侮辱というのか?俺は正論を言ったまでだ。女ってのは、感情的で言葉をよく吟味しない」
「なによ、それが侮辱なのよ!世界中の女を全て、敵に回したからね」
「ほう、そいつはご苦労なこった。だけど残念だな、この学校に女はお前以外いない。よって俺が正しい」
「なんなのよ、あんた……もう!」
あたしはとても悔しかった、泣き出したくなるぐらい悔しかった。
だけど、あたしは向かっていった。『気になったことを言う』それが唯一父から教わった言葉。
グッと右手を握って、泣き出しそうな感情を抑えて視線を逸らした北小路を睨みつけた。
「すいません、理事長代理、教頭」
そして、その緊迫した空気を破るように助け舟が来た。露木さんが理事長室に入って来た。
「露木さん、聞いてください」
「ええ、本当にすいません。それじゃあ理事長代理、行きましょうか」
その時の露木さんは、菩薩の様に笑顔を見せていた。北小路はそれでも視線を合わせなかった。




