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一瞬にして、理事長室の空気は静まり返った。
北小路も露木さんも、動画を見て言葉が出ない。だけど、あたしは不思議な感じがした。
(嫌な感じ、だけどなんかおかしい……)
三分ほど続くの静寂の中、露木さんが口を開く。
「この画像、昨日の夕方からネット上にアップされたそうだ」
「ネット?」
「そう……ネットだ。生徒の告発によって明らかになった。
いじめている人間は、野球部のキャプテン『大東 竜平、二年生』。
おそらくほかのメンバーは、野球部の部員ということになる」
北小路の言葉に、あたしの背筋が凍っていた。
すぐに大東君の坊主頭の顔が、あたしの頭に浮かんだ。あたしに野球グラウンドで告白をした、大東君の顔。
生まれて初めて告白された彼が、こんないじめをすることがショックだった。
「……そう」
「元気ないぞ、お前はいじめ撲滅が目的じゃなかったのか?」
「……そうね」
大きなため息をついたあたしは、理事長室の横断幕を見て自分を奮い立たせていた。
もちろんあたしはいじめが大嫌いだ。幼いころの環境があたしの気持ちをそうさせていた。
この学校に来て、初めて南条君のいじめを目の当たりにしてどうしても許せなかった。
あの時の感情を呼び覚まさましてはいけない、あたしは理事長代理だから。だから動いていたんだ。
そう自分に言い聞かせながら、大東君の顔を頭の中でもみ消した。
「ごめんなさい、席を外します」
露木さんが携帯片手に席を外す。それが沈黙を破る発言だ。
あたしはうつろな顔であの画面をずっと見ていた。
「これはヤバイな」
「ええ、早速だけど……」
「渡瀬というやつはいない、見ろ!」
そう言いながらそばにあったノートパソコンを起動していた北小路。
出てきたのが、野球部の部員リスト。人数にして百名ほどだ。
一人一人名前を見ていて、確かに『渡瀬』という名字はない。
「どういうこと?」
「そんなの簡単だ、大東を呼んで問いつめる。できるだろう、理事長」
北小路があたしに迫ってきた。まるで、今すぐにやれと言わんばかりに。
強張った顔で鼻息がかかる彼に、あたしは圧されてしまった。
「何よ、当然じゃない」
断る理由もないあたしは、そう言いながら理事長席のマイクに呼びかけた。




