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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
三話:学校の|怪物《モンスター》
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40

二日後の理事長室、期限の四日目。

ソファーに座ったあたしは、こわばった顔で横断幕を見ていた。

ソファーにいたのが北小路。あたしの顔も北小路の顔もさえない。


理事長室の窓は曇っていた。ここ一週間は、雨や雪が降るらしいと天気予報。

寒い理事長室の暖房をつけて、ガンガン暖かくしていた。あたしは冷え症なのよ。


「もうすぐ来るぞ、あいつ」

「そうね……来るわね」

鬼気迫る顔であたしはドアを見た。

モンスターペアレンツ、じゃなかったPTA役員の有働君のお母さんが来るのを。


「お前、結局やるのかよ」

「ええ、あのお母さんがやっていることは間違っているわ」

あたしはファイルを持って前を向いていた。


有働君の母親が、いじめの調査を要請してきた。

だけどいじめの事実はなかった。それどころか、逆に学内での被害が報告された。


「それで、説得というわけか。おまえも好きだな、説得」

「そうかもしれない。言って分かりあえないことは無いもの!」

「平和主義者なことで、さすがお嬢様」

「馬鹿にしているの?」

「もちろんだ、お前は甘ちゃんだな」

北小路はあたしを嘲笑していた。馬鹿にされて、眉をひそめたあたしは北小路に向き合っていた。


「甘いって、あんたはどうなの?この前だって、有働君のお母さんから逃げていたくせに。

卑怯者じゃない、臆病者よ、チキン北小路!」

「チキンだあ、ブス理事長!」拳を構えて、北小路が立ち上がった。彼のプライドに触れたらしい。

あたしも北小路を立ち上がって、睨み返した。


「そうよ、あんたはチキンよ、チキン南蛮よ、照り焼きチキンよ!

臆病者、女の子を置いて逃げるなんて最低」

「クソッ、俺としたことが……お前の下等な言い合いにつき合うとは」

「言い返せないとは、図星ね、北小路はチキンよ、チキン!」

「黙れよ、ブス!」

そう言いながら、北小路は拳を引っ込めてソファーに座った。

勝ち誇ったようにあたしは、満足そうな笑みで北小路を見下ろした。


「あんたもガキね」

「お前よりガキじゃない、さっさと座れ!」

「へへん、あんたって『チキン』って言葉に弱いのね。いい気味だわ」

「さっさと座れよ!このブス」北小路はあたしを避けるように横を向いた。

あたしは、しばらく負け面の北小路を満足げに覗きながらソファーに座っていた。


「あたしの方がもちろん一枚上手のようね」

「一つ言っておく。今のお前じゃあ、あのモンスターはどうにもならない」

「何よ、負け惜しみ?」

「結局大人の問題は、大人しか解決できないということだ。お前には、どうすることもできないってこと」

そう言いがら不機嫌な顔のままで北小路は立ち上がった。

ポケットに手を突っこんで、あたしに背を向けた。


「何、アンタ?また逃げるの?」

「だったら、お前があのモンスターをやっつけてみせろよ!」

「言われなくたって、あたしはこう見えても口げんかは得意だから」

「そいつは楽しみだ」右手を挙げて、北小路はドアから出て行った。

あたしは、北小路の背中に向けてあかんべーをしていた。

結局北小路は逃げたのね、やっぱりチキンだわ。


そして、一人きりの理事長室。あたしは憮然とした顔でいなくなったソファーを眺めた。

(何よ、北小路なんかいなくなって……)

ソファーの上で体育座りになったあたしは、テーブルの上にあったファイルの目を通していた。


(あたし一人で、何とかするんだから)

そう決意すると、まるでタイミングを計ったかのように理事長室のドアが開いた。



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