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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
三話:学校の|怪物《モンスター》
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翌日、あたしは理事長室で待っていた。

晴れた今日は、理事長室から野球部の練習がいつも通り見えた。

理事長の椅子に座って、あたしは待っていた。


今日の理事長室にはあたしだけ。北小路も仕事で外出していて、露木さんは職員会議。

だから、一人だけの理事長室は広く感じていた。

そして、間もなくして現れた一人の少年。


「君が有働君ね?」

「はい、有働です。お呼びですか、理事長」

少年はマッシュルームカットだけど、大きな目と大きな口の少年。

首が太く、学ランは来ているが、肩幅が大きな少年。でも背はそれほど高くはない。


「初めまして、理事長の宇喜永 桃香です。どうぞ、そちらに」

「はい、よろしくお願いします」

有働君をソファーに導いて、あたしがその前に座った。おとなしそうな彼の顔が、緊張しているように見えた。

テレビで見せた鬼気迫る顔とはまるで違う。


「さて、話があるのですが……」

「本当に申し訳ありません」立ち上がって、いきなり頭を下げた有働君。

「有働君?」

「母の事ですよね、申し訳ないです。

野球部の寮の話といい、生徒会の備品を持って行ったことといい重ね重ね申し訳ありません」

あまりにも拍子抜けだ。

有働君があっさり謝っていた。素早い反応だったので、あたしは驚いてしまった。


「有働君……頭あげて」

「はい、すいませんでした」何度も謝罪を口にしてこうべを垂れた有働君が、ようやく顔を上げていた。

「南条君に聞いたのね」

「ええ、いろいろ噂になっていますし」

「でもね、あたしが呼び出したのはそれじゃないの。

あのね、あなたのお母さんが、有働君がいじめられたって話を言っていたのでその真偽が知りたいんです。

おとといの深夜のバスを降りたときに、一般生徒にいじめられた話。

でもどういう状況か分からないし、誰かも分からない。だからあたしに教えてほしいの」

「いじめ?」不思議な顔を浮かべた有働君。

「うん、心当たりある?」

「何のことかわからないけど、おとといのバスで降りたときにサインを断ったことかな」

思い当たった有働君は、サインのジェスチャーをしていた。


「サイン?」

「うん、サイン。バスから降りたとき、一般の生徒からサインをせがまれたんだ」

「だけどね、サインできなかったんだ。サインペンがなかったし、夜中だったから。

で、丁度その時に僕の母親が迎えに来ていたんですよ。

口論になっているところを見て、多分いじめだって思い込んだと思う。今日、彼にはサインしたんだけど」

「そっかぁ。やっぱり、あの母親がやっていることは、全部ウソなのね」

「本当にごめんなさい」

またまた有働君は、申し訳なさそうに謝っていた。あたしは後ろめたい顔で有働君を見ていた。


「ごめんなさい、僕、まだこの学校でやりたいことがたくさんあります!」

「やり残したいこと?」

「そうです、僕はこの学校が好きでなんです!」

有働君は純粋に目を輝かせていた。その目は、大東君の真っ直ぐな瞳にも似ていた。


「この学校のサッカー部は、僕を一人の選手と認めてくれました。

僕は、ずっと求めていたんです。僕と同じ能力(レベル)の選手が集まるサッカーを」

「有働君、宇喜高サッカー部好き?」

「はい!この学校もサッカー部も好きです。まだ辞めたくない」

「うん……そうね。やりたいことがあるっていい事ね」

「そう。だけど、母さんはそれを奪うんだ!」

「なんで?」

「分からない!母さんは強引で嫌いだ!」

前にいる有働君は、悔しそうな顔を見せていた。あたしは有働君の顔を覗きこんでいた。


「ううん、でもいいなって。ちょっと羨ましいって」

「どういうことですか?」

「あたし、母親がいないから」

「理事長?」

「父も、ずっと仕事ばっかりであたしにかまってくれなかった。

あたしには、親というものをよく知らないの。だから有働君が羨ましい。

親が子を愛しむって、こんなにいい事なんだね」

「……でも、過保護ですよ」

「そうだよね」つぶやいたあたしは、ため息をついた。

「とりあえずありがと、大体わかったわ、あとは……」

「何やっているんだ、お前」

すると、奥のドアから一人の男が入って来た。仕事終わりで北小路がスーツ姿で入ってきていた。



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