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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
一話:新米の|理事長《ディレクター》
3/80

あれから一週間、あたしは茶褐色のブレザーを着て見知らぬ高校の門の前に立っていた。

それはとても大きな校門の前。

奥には大きな校舎、それから野球場のようなものが見えた。

地図と確認して、あたしは門に掘られた文字を読んだ。


「『私立宇喜高等学校』って、本当に来ちゃった」

校門の前を見て、あたしはため息をついた。立派な校門の前に、生徒が入学の時間で校門を目指して歩く。

黒襟の学ラン姿の男子生徒は、あたしを物珍しそうにチラチラと見てきた。


「えと……どうすればいいんだっけ?」

「ようこそ、我が宇喜高へ」

そう言いながら、一人の男性が近づいてきた。

丁寧にお辞儀するその人と、あたしは二回目に会った。

あたしはその男が来るなり、背筋をぴんとして姿勢よくしていた。

口髭がトレードマークのダンディな男は、病院であった露木さん。


挨拶そこそこに彼はあたしを先導してくれた。

校門そばの守衛に挨拶して、話しこんだ後に校舎に入ったあたしと露木さん。

奥に見える白い壁の新しい鉄筋の校舎に入って露木さんと歩く。

歩きながらあたしは、あることに気づいた。


「えと、露木さん」

「はい、理事長代理」

あたしが声を出すなり、露木さんは畏まってあたしの方に振り返った。

『理事長代理』という言葉に、あたしは少しむずかゆさがあった。


「あのさ、ここって女子はいないんですか?」

「はい、宇喜高は全日制の男子高校です」

「ええっ、聞いていないよ~!」

あたしは、校門と校舎の間の道で思わず叫んでしまった。

当然、すれ違う男たちの視線を集めてしまった。そう、学校には男子の姿しかなかった。

慌てて、あたしは小さくなって露木さんの裾に隠れた。


「あの、あたし女ですけど……」

「あっ、大丈夫です。生徒は学生ですが……えと……」

「露木さん?」

「ウチの学校、全員職員も教員も男だけだった」はにかんだ露木さん。

「ええっ、嘘でしょ!」

あたしはまた叫んでしまった。当然男生徒の視線が、あたしにグサグサ刺さっていた。

震えたあたしは、露木さんの背中にひっついていた。露木さんは困惑した顔を見せていたが。


「おやおや、どうしました?」

「あんた、鬼でしょ、悪魔でしょ!」

「何のことです?周りは、ただみんな男ってだけじゃないですか。

別に皆さん親切ですし、それに必要な時だけ、来ていただくだけですから」

露木さんはなぜかのんきにあたしに言ってきた。

でも、それが問題よ。なんかあたしは騙されたような気がした。


それでも始めて見る男子校の校舎の中は、意外ときれいだった。

廊下もあたしの行っていた女子高よりずっと広いし、玄関も立派なつくりだ。まるでホテルみたい。


「なんか、そわそわするなぁ」

「そうですか、すいません。そんなに気にされるとは思いませんでした」

いやいや、普通は気にすると思うけどな。高校生って、多感だし。

露木さんにあたしはついていく。知ってしまったから、男子の視線が気になってしょうがない。


中に入った校舎では、学校の話をしてくれた露木さん。

基本的には宇喜高が、スポーツ有名校で男子校な説明。露木さんの一通りの説明をあたしは聞いていた。

仕事をしなくていい、おいしい話。そういう話は何かがあって、すでに騙された気もするし。


二階の階段を上がったあたしたち。二階の廊下は、生徒の数は少なく教師の方が多い。

近くの窓からはサッカー部が、グラウンドで練習していてその掛け声が聞こえた。

あらかた質問を終えた露木さんは、あたしに笑顔を見せていた。


「というわけですが、何か質問は?」

「質問、いいですか?」

「はい、どうぞ」

「なぜあたしの父さんは、あたしに理事長代理をやらせようとしたのかご存知ですか?」

あたしの質問に、逆に驚いたのが露木さんだった。


「ええっ、私は理事長から聞いただけですから……」

「いろいろ不思議なのよ。

あたしの家では父は帰ってこないし、いきなり倒れてあたしに理事長をやらせるって絶対に変だわ」

「さあ、それを言われても困ります。ただ、あらかじめ決めていたみたいですよ。

理事長は、自分が倒れた時の対処法として一人娘の桃香さんを理事長代理にするように……」

「でもあまりにも不自然よ。それより露木さん、理事長の仕事をあたしがやらないとしたら誰がやるの?」

「それは、教頭です」露木さんが笑顔で言った。

「教頭?」

「ええ、教頭です。これから行く理事長室に一緒で仕事をしてくれる人ですよ。

少し見た目は怖いかもしれませんが……あっ」


そう言いながら、かしこまった顔を見せた露木さん。

そんな職員室のそばの廊下で、一人の男が近づいてきた。

男はひときわ威圧感を放っているかのように肩を怒らせて歩いていた。


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