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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
二話:鎖の|友情《フレンドシップ》
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翌日、あたしは野球部部室小屋のミーティングルームのテーブル下に隠れていた。

大きなテーブルの下、その先には監督室のドアが見えた。

チャンスは一回、しかもそれをできるのが小さいあたし。

ロッカールームにも保険があるけれど、警戒されたらそこで終わり。


今は放課後、そして野球部は練習の真っただ中。そばの談笑室では、生徒たちが集まって談笑中だ。

屈みこんだあたしは、息を殺してその時を待っていた。

(絶対来るはず、この時間に)

大東君にも確認した。だからあたしはひたすら待っていた。

身をひそめて、作戦決行のその時を待つ。


そして、奥の通路から一人の生徒が来る足音が聞こえた。

(来た!)

テーブルの下に隠れたあたしは、一人の足を確認した。ビニールの袋の包みが見えた。

よく見ると二重ビニールで、中が透けて見えない。

足音は、テーブルのあたしに気づくことなく素通りして監督室の方に向かっていた。


(間違いない、あそこにあるのは……)

小柄なあたしは、テーブルの下から監督室のドアを確認した。

マネージャーが監督室のドアのカギを、ガチャガチャと動かしていた。

あたしは、ゆっくり屈んだテーブルから腹ばいになってドアが開くのをうかがった。

そして、マネージャーが鍵を開けた。


マネージャーが中に入った瞬間、あたしは立ち上がった。

閉まるドアに、あたしは手を伸ばした。

「届けっ!」あたしは、必死な顔で手を伸ばしてドアノブに手をかけた。

「ああっ、なんですか?」おののく男子マネージャーの声。

「話があるわ、聞きなさい!」

あたしは必死にドアを、開こうとしていた。

このドア閉まったら、こちら側から開けられない。

確実に警戒されて、証拠隠蔽の時間の猶予を与えてしまう。


「くうっ、ダメです」男子マネージャーが、力であたしの持っているドアを閉めようとした。

「北小路!」あたしは大声で叫んだ。


あたしの声に、バンと後ろから大きな音がした。

だけど、あたしの持っているドアノブが徐々に引っ張られてしまう。

(ダメ、もう少し持って)

ドアの隙間が、ほとんど閉じられようとしていた。

あたしは、顔を強張らせて必死にドアノブを引っ張った。


男子と女子の力の差、それは歴然だ。

閉まっていくドアを必死でこじ開けるあたしは、歯をくいしばっていた。

だけど、ドアが五センチ、いや三センチほどまで閉まっていく。


「何するんですか!」

「ああっ、ダメっ!」

「よくやった」

その声と同時に、ドアが急に広がっていた。

あたしは上を振り返るとそこには北小路。口を真一文字に、あたしのつかんでいるドアノブを握っていた。

かぶさった北小路の手はとても厚かった。そして温かかった。


「わっ、ダメです!」

「そうはいかねえんだよ」

そして、北小路とあたしの力でドアは完全に開いた。

ドアノブを持ってきた男子マネージャーは、前につっかけてきた。

その男子マネージャーは、防犯カメラに映っていたあの男子学生だった。


そのまま、あたしは力いっぱいドアを開いて仁王立ちをした。

「やっと入れたわね、北小路」

「俺のおかげだ、ブス理事長。感謝しろ」

「何よ、北小路。この作戦考えたの、あたしよ」

「そいつはブスな無い知恵でよく考えたな。もっといい方法があったんじゃないか?」

そう言いながら、北小路は無理矢理こじ開けた監督室の中へと入っていった。


「あの……理事長……その……」

「さて、目的のものを探させてもらうわ。あんたは人質よ」

逃げる男子マネージャーを、あたしは学ランの襟をつかんだ。

あら、意外とあたしの握力が残っていたわね。


「ご、ごめんなさい……」青ざめた顔の男子マネージャーは平謝り。

だけど、あたしはそのままマネージャーを連れて行った。

「おい、ブス理事長。早速見つけたぜ」

そう言いながら、北小路があるものを見つけた。それですべてがつながった。


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