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北小路に連れて行かれた場所は、小屋の裏。
野球部の小屋の裏は、日陰でコケなんかが繁殖していた。人通りもなくて冬にしてちょっと寒い。
ジャージ姿の北小路は上を見上げていた。
上には学校を仕分けるフェンスがあって、そのフェンスの鉄塔には防犯カメラがついていた。
あたしは、不機嫌な顔でついてきて北小路が手を離した。
「何よ、北小路。なんなの?」
「さて、それじゃあブス理事長……」
「相変わらずね、北小路。煙草でも吸おうと思っているの?」
「馬鹿だな、酒だよ。酒」
「何言っているの?あたし未成年よ」
「当然だ、飲んだら学校として問題大有りだな。宇喜高の校則で、学校内全面は喫煙、飲酒どちらも禁止だ」
北小路は腕を組んであたしを見ていた。
あたしも負けないように北小路を見返す。なんだかにらみ合いで負けたくない、特に北小路には。
「本題を話そう。今から言う話は、野球部に聞かれるのがまずいからお前を引き離した」
「それはいいから、ちゃんと説明しなさい。理事長命令よ!」
「ブス理事長命令か?」
「北小路、悪態言っていないでさっさと白状しなさい」
あたしは北小路の頬を強引に引っ張った。
北小路の頬が膨れて、それでも目だけを逸らさない。
「お前は、この前の露木の話を覚えているか?」北小路が、あたしの手をはねた。
「ええ、野球部寮の缶ビールの件でしょ」
「そう、帰宅部が手に入れた缶ビールは嘘の供述だ」
「で、分かったの?」
「そしたら大物にぶち当たったんだよ。誰だと思う?」
「う~ん、監督かな」
「なんでわかった?ハズせよ。面白みがない」
北小路はご不満な様子、勝ち誇ったようにあたしは胸をはった。
「だって、監督室を見ていたじゃない」
「そう、そしてその監督室だけど……」
「ここから見えないわね」
小屋のそばには大きな窓があった。
意外と大きな窓だけど、カーテンがかかっていた。
「栗林監督、俺が嫌いなタイプだ」
「あら、北小路が男嫌い?珍しいわね」
「ブス理事長ほどじゃないがな」
「そんなことより、証拠は?」
「おそらくは、監督室に答えがあるだろう。知っているだろ、二学期初めに野球部のマネージャーが転校した話」
北小路の言葉にあたしは息を呑んだ。
「な、なんでそれを?」
「声がデカイ。マネージャーの転校の話、俺が調べている監督の飲酒疑惑。
ある情報筋から聞いて、この二つって関連性を知った。
だが証拠はない、いやあるが、証拠は手が出せないところにある。お前は、あそこの鍵の入手法を知らないのか?」
「合鍵とかは?」
「作ってないというか、正確には作らせなかった。あの監督が、一個持っているだろう。
お前はあそこの鍵の入手法が分かると睨んだ。いじめから、あそこまで嗅ぎつけたぐらいだからな」
「なによそれ……」
そう思いながら、あたしはずっと今までのことを整理していた。
鍵、監督室、いじめ、転校生、飲酒。
大東君、麻生君、マネージャー、あたしは思いついた。
「一個だけならあるわ」
「ほう、やはりな。なら取引と行こうじゃないか」
「いいわよ、あたしもあんたたちに頼みたかったことがあるから」
そう言いながら、あたしは不敵に笑っていた。北小路も負けじと怪しく笑みを浮かべていた。
そして、あたしはある作戦を考えた。




