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大東君の前には、金髪があった。
金髪の姿に鋭い目つき。見慣れた北小路が、黒いジャージ姿で腕を組んで立っていた。
当然のことながら、北小路は不機嫌な顔を見せていた。
大東君が出た前に、あたしはゆっくりと見上げていた。
「やはり、お前らか」
ジャージ姿で、睨んだ北小路は腕を組んで大東君の後ろにいるあたしを見ていた。
「おはようございます、北小路教頭」
南条君と大東君は、礼儀正しくあいさつした。
北小路も、「おう」とあいさつを返した。
だけど、あたしには相も変らぬ冷たい目を送った。
あたしもいきなり出てきた北小路から目を逸らさない。
「それにしても、こんなところで何しているんだよ」
「今日は、部室で留守番です」これは大東君、緊張の面持ちで話していた。
「留守番って今日は試合だろ。行かなくていいのか、野球部部長」
「はい、主力組は静養ですよ」
腕を組んだ北小路。あたしの隣の南条君は北小路から顔をそむけているようにも見えた。
なんていうか、大東君はあたしより北小路に喋る時の方が丁寧な気がするなぁ。
あたしは不審な北小路の方を向く。
「それより、北小路『さん』は何しに来たの?」もちろん、『さん』を強めに言って。
「ああ、遊びに来た」
北小路は、キョロキョロしながらミーティングルームを見ていた。どう考えても、遊びに来た様子はない。
「まるで、仕事をさぼって煙草でも吸いにきたみたい」
「……理事長代理、何を言っているんですか?
煙草や酒はこの学校に売っていない。仮にもここは教育現場で、生徒の前では心外ですよ」
そう言いながらも、北小路の眉は斜めに吊り上っていた。
大東君は少し怯えている様子だ。
「それより理事長代理、ちょっと軽く話をしたいのだが」北小路が、あたしの方に近づく。
「あら、ここでもよいんじゃない?」
「そうはいかない。大東、悪いがうちの理事長代理を連れて行くぞ」
北小路は、あたしを無視して大東君と話していた。
少しむっとした顔で、あたしは北小路が差し出した見ていた。鋭く目つきで大東君を脅していた。
「はい、分かりました」大東君はすぐに了承した。
あたしは北小路の顔を見上げて、引っ張る手を離そうとした。だけど、北小路があたしの耳元に顔を近づけた
「ほら、行くぞ。こいつらに聞かれたらまずい話だ」
小声でそう囁きながら。その言葉は、何となく重いと感じた。
あたしは、北小路の言葉に従うことにした。
手を引かれたあたしは、うつむいたまま北小路についていく。
「ごめんね、二人とも」振り返ってあたし。
「うん、仕方ない。大事なお話があるみたいだから」
「そうだね、仕方ないよ」南条君は爽やかな笑顔を見せていた。
だけど、一瞬だけ目つきが変わった。
その目は、はっきりとあたしの上で隣の北小路に向けられていた。
「君も汚い」南条君は、北小路に向けられていた。
「そいつは、どうも」
「どうしたの、北小路?」
「なんでもねえ、行くぞ」
そして、北小路に手を引っ張られてあたしは部室を出ていくことにした。
最後の南条君の言葉も、あたしはやっぱり気になっていた。




