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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
二話:鎖の|友情《フレンドシップ》
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露木さんが言った『大東君』は、分かりやすく宇喜高の野球部のユニホームを着ていた。

坊主姿で縦縞が入ったユニホーム、完全に野球部だ。

廊下で少しだけ話した後、あたしとさっき知りあった大東君の二人でパソコン室に来ていた。

今日はパソコン部の活動はないみたいで、誰もいない。


廊下で、あたしは大東君のことを聞いた。

彼は『大東 竜平』、野球部の部長。

「早速だけど、監督に見せたあの防犯カメラの映像を、見せてくれ?じゃなくて見せてほしいんだ」

「見せてって言われても……」

「俺は知っている、麻生のいじめの事。大丈夫、俺はあんたを助けに……その……来たんだ。

だから、俺に見せてくれ、いや……ください」

なぜか恥らった大東君だけど、顔は真剣だった。

赤く硬直した顔に真摯さを感じて、あたしは了承したから。


とまあ、こんな感じであたしはパソコン室に来ていた。

あたしのそばで、大東君がパソコンを左手で慣れた手つきで立ち上げていた。

だけど彼の顔はとても堅い。緊張でもしているのかな。

あたしは、持ってきたDVDを大東君に渡した。大東君が慣れない手つきで左手で受け取った。

骨折は、秋の地方予選でけがしたものらしい。全治四か月、本人がそう紹介してくれた。


「パソコンは得意なのね。器用なのね」

「えっ、まあ……」

「あたし、家電関係がどうも苦手で。男性が、こういうのをテキパキやるとなんかかっこいいよね」

あたしの言葉に、大東君がなぜかビクっと大きな体で身震いした。

なぜ、身震い?などと思っていると、パソコンの画面で防犯カメラの映像が始まった。

野球部部室小屋前に、行き交う野球部のメンバー。


「始まったね」

「ああ、そうだな。問題のシーンは?」

「問題のシーン?」

「七月十日、この日はよく覚えている。夏の大会の前日だったからな」

「監督さんもそう言っていたわ」

「もうすぐ、あいつが出てくるんだろ。サングラスをした生徒」

「見てないのに詳しいのね」

「俺は野球部部長、つまりキャプテンだ。百人の部員の動向は知っているさ。これが俺だよ」

そして、画面には彼とよく似た男がいた。しいて言えば、右手の包帯が無いぐらい。

彼は、すぐに小屋の中へと消えて行った。


「部員の動向?」

「はっきり言おう、麻生のいじめは発端が俺なんだ」

「どういうこと?」

「俺たち特待生は寮暮らしだ。野球部には野球部専用の寮がある。

福岡から来た俺も、大阪から来た麻生も一緒に寮で暮らしていた」

「そう……なんだ」

「寮は当番ルールがある。掃除当番、食事当番、それからゴミ捨て当番が交代制で決められていた。

それは、寮生全員が等しくこなすルールだ。俺も、エースの麻生もそのルールに従わないといけない。

だけど、麻生は二年になってから寮の当番を毎回サボっていたんだ。

サボっていた理由は分かるが、それは今関係ない。ルールを破ったことがここでは問題だ」

「そこで、注意したのね。大東君」

「ああ、俺は怒った。それがちょうど七月なんだ。だけど麻生はこう言った。

『天才は何をしても許される』と。俺はそれでも納得できなかった。

確かに麻生は天才だ。彼が野球部における存在感は、誰よりも大きい。俺なんかよりも。

彼がいなければ、この夏も全国制覇どころか甲子園にさえ行けなかったのは間違いなかろう。

そんな麻生のサボリを俺は注意して麻生と喧嘩になった。でもサボリをやめなかった。

寮長と相談したが、「話はする」って言って改善はされていない」

大東君は眉をひそめながら言っていた。

あたしは、彼の顔を見ながら話を真剣に聞いていた。


「ルールね、それは麻生君が悪いわね。寮長にはあたしが言っておくわ」

「頼む……じゃなくて……」

「?」あたしが覗き込むなり、顔をなぜかそらしてくる大東君。視線を合わせようとしない。

「なに、なんなの?」

「いや、も……メスは……その……」

「メスって、失礼しちゃうわね!」

あたしがそっぽを向くと、大東君は慌てた顔であたふたしていた。

なんなのよ大東君。真面目なことを言っていたかと思うと急に変なことを言うし、よく分かんない人。


「大東君、麻生君の話はそれだけ?」

「いや……そのあたりか、これだな」

そう言いながら、大東君はマウスをクリックして画面を止めた。

画面に映ったのはサングラスをした男子生徒と、していない生徒の二人組。

大東君は真剣に画面を見比べていた。


「やっぱり……」

「やっぱりって?」

「この二人とも、ウチのマネージャーだ」

「どういうこと?」

「もう少し進めて見れば分かる。おそらく、そこで俺と麻生が出てくるはずだ。喧嘩をした後だからな」


サングラスをつけた男とそうでない男は、小屋の中へと消えて行った。

それから間もなくして、大東君が小屋の奥から出てきた。

その大東君は、小屋の外に出るときに不機嫌顔になっていた。不機嫌顔の理由はすぐに出てきた。


「麻生君だ」

「そうだ麻生、俺はここで麻生を見ていた」

麻生君は、小走りで大東君と睨んだ後に小屋の奥へと消えて行った。


「う~ん、何があったの?気になるわ」

「残念ながら、すぐに俺は出て行ったから分からない。

ただ、麻生はこのマネージャーと話をしていたからな。二年だから、今も俺たちの部活にいる」

「ねえ、一人は転校したマネージャーでしょ。もう一人は?」

「簡単な話、そこでいじめがあった。俺もあの掲示板を見たから間違いない」

「掲示板?」

「学内ネットだよ。そこで『女の子が助けを求めている、助けてほしいって』ね」

「そっかぁ……ありがとね」あたしは、満面の笑みを浮かべた。

「ううっ……おう」

たまに言葉が(つか)えるけど、福岡の方言だろうか。

それと、大東君は時折故意に目を逸らすのが気になるなぁ。初対面だけどあたしなにかしたかな。


「じゃあ、さ。転校した生徒って知っている?」

「おお、麻生の親友だったらしいな。どこの学校に行ったのかわからないけど」

「そっか……」

「そういえば夏休みの時には、両親も学校に来ていた。

麻生と、転校生、それから監督がなにか監督室で話をしていたみたいだ。

麻生が謝っていた姿を、俺は始めて見たかもしれない」

「麻生君が謝った?なんか、怪しいわね」

「俺もそう思う。転校先の学校を明かさないし、理由も『一身上』の理由だけ。

よくわからないよ、あの転校」

ちょっと顔の赤い大東君は、それでも真っ直ぐにパソコン画面を見ていた。。


「ねえ、もう一度現場を見て見ない?」

「う~ん、それなら日曜にしないか?今度の日曜は、練習試合で監督と控えの選手だけ遠征するから。

俺はこの日、部室で留守番することになっているから。まあ、見ての通りケガしているからな」

「そうね、閉じ込められたロッカーも気になるし」

あたしは大東君に同意した。


しかし、その時はまだ気づいていなかった。

あたしたちがいたパソコン室を、ある人物に覗かれていたことを。


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