19
二年A組は校舎の二階にあった。
昼休みの二年生の教室は、やはり男子生徒が多い。
校舎のあちこちでは男子生徒の談笑の声が弾む。
あたしと南条君が歩くと、南条君は声をかけられた。
「南条、それ理事長だろ」
「南条、今度ウチの部活手伝ってよ」
などと、南条君はいっぱい声をかけられた。そのたびに彼は気さくに声を返していた。
「南条君って、人気者なんだね」
「そうかな?桃香さん。僕はあまり意識したことがないよ。それよりも生徒会長の方が……ね」
南条君は、教室の一番前の席に座る男子学生を見つけていた。
長い髪に、眼鏡姿の男子学生は、知的なイケメンのオーラを出していた。
なんか、かっこいいかも。あたしと南条君は、彼の元に近づいた。
「葛西生徒会長」
「ああ、南条か。隣の彼女は、恋人じゃないな」
「ええっ、何を言っているの?」あたしはなぜかむきになって反論。
「いえ、あまりにも美しかったから」
そう言いながら、眼鏡の葛西生徒会長は立ち上がって規律正しくたっていた。
周りの生徒と違って、落ち着きがある冷静な生徒会長。周りの空気がとても冷たく感じた。
「初めまして、わたしは宇喜高生徒会長『葛西 将』と言います。以後、お見知りおきを」
「ああ、初めまして宇喜高の理事長代理の宇喜永 桃香といいます。
あなたにお話があってきまし……」
そんな時、あたしは葛西君の机が視界に入って口を手で抑えた。
「なに、それ?なんかすごいんだけど」
「すいません、理事長代理。本当に見苦しいところを見せてしまって」
机には『死ね』、『キモイ』などと書かれていた。それを見たあたしは、怖くて震えていた。
「あたし、いじめの調査に来たのですけど協力してもらえますか?」
「……いいのですか?」
「誰にも言ったりしないから、ちゃんと勇気をもって答えてほしいの」
「葛西先輩、かわいい理事長さんは僕達の悩みを叶えてくれる女神なんだよ。
僕の悩みだって解決してくれた。大丈夫ですから」と笑顔の南条君。
それを見て、眼鏡の耳あてをいじりながら葛西君は顔を上げた。
「私のですか?」
「そう、葛西君のです。話してくれますか?」
「うーん……どの件の事かな?」
「食堂の事です、どうなんでしょうか?」
「ああ、あれか。見られていたのか、なんと格好が悪い」
気まずそうに葛西君は、首をひねって眼鏡の耳あてをいじっていた。
それを見た南条君は、相変わらず爽やかな笑顔を見せていた。
「うん、ごめんね。葛西生徒会長のいじめを見過ごせないから」
「相変わらずやさしいな、君も」
葛西君は南条君の頭を撫でいた。南条君は無邪気な笑顔を見せた。
「それで、どうなの?」
「あれは、我がクラスの生徒です。私の見解が正しければこのいじめにはクラスの致命的欠陥が関わっています」
「致命的欠陥?」
「そう、致命的欠陥。このクラスには欠陥があります。それはあなたが理事長代理ならば考えてください」
眼鏡の奥から、鋭い眼光であたしを見てきた葛西君。
その目はとても冷たかった、氷のように冷たい目。
「なによ……それ」
「そのままの意味です」
葛西君がそういいながら教科書を開いたときに、タイミングよくチャイムが鳴った。
それと同時に、教壇の方には教師の露木さんが来ていた。




