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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
二話:鎖の|友情《フレンドシップ》
17/80

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あれから数時間後、戻った学校の理事長室。

リクルートスーツ姿で、あたしは理事長室で怒っていた。

理事長室の窓から見える場所は、夕日が見えていた。


「ねえ、あれはどういう意味?」

早速、あたしは立ったまま前のソファーに座る北小路を腕組んではっきり睨んだ。

あたしの前にいる北小路は、だらしなくソファーに座っていた。それを向き合うように座ったのが露木さん。


「てか、ブス!何勝手に宣言しているんだよ!」

「なによ、北小路。あんたがあの資料を作ったんでしょ。

あたしに相談もしないで、適当なことしないでよね!」

「それはこっちのセリフだ!なんだよ『いじめ百件解決宣言』って、馬鹿じゃねえの?」

「馬鹿じゃないわ、あたしの考えだから。あたしの方針よ!」

「うるせえ、年上の俺様にちゃんと敬語を使いやがれ!」

「桃香理事長代理」

あたしと北小路のやり取りを、苦笑いで見ていた露木さんが口を挟んできた。


「露木さん、ちょっと聞いてよ。北小路のヤツ!」

「桃香理事長代理、これはあなたが悪いです」

露木さんの目はいつになく冷たかった。あたしは思わずおののいていた。


「な、なんでよ!」

「あなたがやっていることは、学校をつぶすことです。

今ならまだ間に合います、今すぐ謝罪文を学校法人に提出してください!」

「それは絶対にできないわ!」

「なぜです?私はこれを職員会議で報告することはできません。

私のメンツもありますから」

「それは、大丈夫よ」

うろたえる露木さんの前に、あたしは立ち上がって胸を張った。


「そんなもん、宣言通りにいじめを百件解決すればいいのよ。宇喜高はまだ、ほかにもいじめがあるんでしょ」

「な、何を言っているんですか?」

「では、この学校にはいじめがないって断言できるんですか?」

あたしの追及に、ニコニコと笑っていた露木さん。


「やだなぁ、あるわけないじゃないですか?」

「そうやって隠蔽すると思うのは、よくないと思うわ。

これにだって結果が出ているんだから」

そう言いながら理事長室の席の机、引き出しの中にある書類の束を取り出した。

それは、あたしが就任する前に生徒たちに行ったアンケート結果。


「これは、学校で前に取ったアンケート結果でしょ。

これによると、いじめの目撃例が匿名で報告されているわ。

前回のアンケートは一学期末の七月。

いじめの目撃例は最低でも、露木さん担当の二年生でも三十件ほど確認されている。これはどういうこと?」

「いつの間に……」

「あたしに隠し事はできないわよ」ドヤ顔であたしは書類を叩きつけ、露木さんは困惑した。

「怖い女、完璧に脅しじゃねぇかよ」

北小路が冷やかしにも似た顔で、あたしに怯えるしぐさを見せた。


「これだけアンケートで出ているなら、百件も少なくないはずよ!うん」

「てかこの女……マジウザいんだけど」

「なによ、文句ある?あたしが理事長代理だから、偉いんだからねっ!」

「……ですね。はぁっ……これで終わりだぁ。この学校」

悪びれる北小路と、落胆する露木。

あたしは、そんな二人を見ながら新しい横断幕を筆ペンで書き始めた。

そして、あたしはあることを思いだした。


「そうと決まれば、早速生徒指導の先生を呼ばないと……」

「そういや、俺も見たことないな。飲み会の時もいなかったしな」

「それがですね……」

あたしと北小路の質問に、露木さんは視線を逸らして困った顔を見せていた。


「どうしたの?この学校に、まさかいないってわけじゃあ」

「そのまさかです、三年前に失踪しましたから」

「なんだって!」

あたしは驚いたし、北小路も少し驚いた顔を見せていた。

それでも、横断幕には『いじめ百件解決宣言』という文字を書きあげていた。


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