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あれから数時間後、戻った学校の理事長室。
リクルートスーツ姿で、あたしは理事長室で怒っていた。
理事長室の窓から見える場所は、夕日が見えていた。
「ねえ、あれはどういう意味?」
早速、あたしは立ったまま前のソファーに座る北小路を腕組んではっきり睨んだ。
あたしの前にいる北小路は、だらしなくソファーに座っていた。それを向き合うように座ったのが露木さん。
「てか、ブス!何勝手に宣言しているんだよ!」
「なによ、北小路。あんたがあの資料を作ったんでしょ。
あたしに相談もしないで、適当なことしないでよね!」
「それはこっちのセリフだ!なんだよ『いじめ百件解決宣言』って、馬鹿じゃねえの?」
「馬鹿じゃないわ、あたしの考えだから。あたしの方針よ!」
「うるせえ、年上の俺様にちゃんと敬語を使いやがれ!」
「桃香理事長代理」
あたしと北小路のやり取りを、苦笑いで見ていた露木さんが口を挟んできた。
「露木さん、ちょっと聞いてよ。北小路のヤツ!」
「桃香理事長代理、これはあなたが悪いです」
露木さんの目はいつになく冷たかった。あたしは思わずおののいていた。
「な、なんでよ!」
「あなたがやっていることは、学校をつぶすことです。
今ならまだ間に合います、今すぐ謝罪文を学校法人に提出してください!」
「それは絶対にできないわ!」
「なぜです?私はこれを職員会議で報告することはできません。
私のメンツもありますから」
「それは、大丈夫よ」
うろたえる露木さんの前に、あたしは立ち上がって胸を張った。
「そんなもん、宣言通りにいじめを百件解決すればいいのよ。宇喜高はまだ、ほかにもいじめがあるんでしょ」
「な、何を言っているんですか?」
「では、この学校にはいじめがないって断言できるんですか?」
あたしの追及に、ニコニコと笑っていた露木さん。
「やだなぁ、あるわけないじゃないですか?」
「そうやって隠蔽すると思うのは、よくないと思うわ。
これにだって結果が出ているんだから」
そう言いながら理事長室の席の机、引き出しの中にある書類の束を取り出した。
それは、あたしが就任する前に生徒たちに行ったアンケート結果。
「これは、学校で前に取ったアンケート結果でしょ。
これによると、いじめの目撃例が匿名で報告されているわ。
前回のアンケートは一学期末の七月。
いじめの目撃例は最低でも、露木さん担当の二年生でも三十件ほど確認されている。これはどういうこと?」
「いつの間に……」
「あたしに隠し事はできないわよ」ドヤ顔であたしは書類を叩きつけ、露木さんは困惑した。
「怖い女、完璧に脅しじゃねぇかよ」
北小路が冷やかしにも似た顔で、あたしに怯えるしぐさを見せた。
「これだけアンケートで出ているなら、百件も少なくないはずよ!うん」
「てかこの女……マジウザいんだけど」
「なによ、文句ある?あたしが理事長代理だから、偉いんだからねっ!」
「……ですね。はぁっ……これで終わりだぁ。この学校」
悪びれる北小路と、落胆する露木。
あたしは、そんな二人を見ながら新しい横断幕を筆ペンで書き始めた。
そして、あたしはあることを思いだした。
「そうと決まれば、早速生徒指導の先生を呼ばないと……」
「そういや、俺も見たことないな。飲み会の時もいなかったしな」
「それがですね……」
あたしと北小路の質問に、露木さんは視線を逸らして困った顔を見せていた。
「どうしたの?この学校に、まさかいないってわけじゃあ」
「そのまさかです、三年前に失踪しましたから」
「なんだって!」
あたしは驚いたし、北小路も少し驚いた顔を見せていた。
それでも、横断幕には『いじめ百件解決宣言』という文字を書きあげていた。




