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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
一話:新米の|理事長《ディレクター》
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宇喜高守衛室、それは職員用校門の方にあった。生徒が入る校門の真裏。

近くには教職員用の駐車場も見えて、広い駐車場には車がびっしり止まっていた。

その駐車場のそばに白い小さな建物があった。あたしはそこで待っていた。


数分前、あたしは理事長室から放送を流した。

『理事長放送です、陸上部の『南条 涼』君。校内に残っていましたら、至急守衛室に来てください』

あたしが、待って五分ぐらいしたら南条君が爽やかにやってきた。額には大きな絆創膏があった。


「お待たせ」それでも笑顔を絶やさない彼は、きれいな走りのフォームでやってきた。輝く汗は眩しい。

「ああっ、うん」あたしは顔を少し赤くして、すぐに凛とした顔に戻した。

「どうしたんですか、かわいい理事長さん」

「うん、実は南条君のいじめに関して協力してほしいの。守衛室に来てもらえる?」

あたしは、そう言いながら南条君を守衛室の小屋に招き入れた。


守衛室の中は、古い黒板と、机、無線にいくつものモニターがあった。

モニターはあちこちのカメラと繋がっていた。

先に来ていたあたしは、奥で座る警備服を着ていた初老の守衛さんに話をつけていた。もちろん男。


「これは……」

「ここ、学校にある防犯カメラの数です。こっちのビデオデッキで過去の記憶も見ることができるの」

「へえ、始めてきました」

目を輝かせた南条君の横顔、純粋に驚いてかわいい。あたしの胸がやはりドキドキしていた。


「で……見てほしいものがあるんだけど……」

「はい、いいです」

「昨日……だったよね。いじめられたの。嫌なことを思い出すようで、苦痛だけどお願いできる?」

「かわいい理事長さんのためなら、いいよ。僕は大丈夫だから」

爽やかすぎる笑顔に、あたしはキュンとしていた。やばい、あたし恋している。

この学校に入るきっかけを作った父には、感謝しないといけないわ。

だけど、守衛さんの顔を見るなり真剣な顔に戻った。そうよあたしは、いじめ対策しているのよ。


「すいません、女子トイレの前にあるカメラは……」

「これだよ」経緯を見ていた年老いた守衛が、不愛想な顔であたしにDVDを渡してきた。


「ど、どうも……」

「ありがとうございます」南条君がジャ○―ズのアイドルばりの笑顔で感謝を言った。

初老の守衛は、また退屈そうな顔でそばの椅子に座っていた。


あたしと南条君は、奥のビデオルームでDVDをつけた。

そう言って映し出されたのが、女子トイレ前にある定点カメラの映像。

時間をどんどん早送りで進めていった。それにしても女子トイレの前、さすがに人通りは少ない。

やがて、南条君が出てくるところで画像を止めた。


「この人は……ストップ」

あたしが止めた画像には、南条君のほかに三人の男がいた。

写っていた南条君も、ほかの三人も同じラグビー部のユニホームとヘッドギアをつけていた。

その三人組は、あたしが女子トイレで背中を見た三人組とほぼ同じ。大きな背中でよく目立つし。


「ごめんね、南条君。彼の事を調べたいんだけど」

「うん、彼は末松部長だよ」

「末松部長?部長ってことは……」

「彼はラグビー部の部長なんだ。ほかの二人も末松部長の友達だね。

僕は残念だけど彼らの詳しいことは知らないよ。この部活には一週間前に応援に来たばかりだから」

「そう、その前に因縁つけられることは?」

「あまり面識がないからね。ただ入った時から感じは悪いけど。

いつのまにか女子トイレに連れて行かれて、暴行されて……」

「そっか、ひどいね。末松部長がいじめたのね」

その件に関しては、南条君は首を縦に振った。だけど、一つ気になることもあった。

それならば、何故彼がいじめられるかということ。それが原因解決の糸口になることもあるから。


「ありがとね、南条君。だけど変な話、ラグビー部の応援しない方がいいんじゃ……」

「うん、ありがと。でもこれも陸上部の伝統だから」

「そうなんだ。分かったわ、あたしに任せて」

「本当にありがとう、かわいい理事長さん」

南条君にあのキラキラ眩しい笑顔で言われると、あたしは瞬間に顔が赤く、胸がドキドキした。

それでも理事長としての責任を感じて顔を上げた。


「うん、解決しないとね」

「でも、どうやって?」

「そりゃあ、決まっているわ」あたしは一呼吸だけ間を置いた。南条君があたしを見ていた。


「彼と話をして理解させます。いじめは絶対に許されないから」

あたしは、モニターに映る末松部長の顔を指さした。その時の顔は、完全にいつものあたしの顔に戻っていた。


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