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宇喜高守衛室、それは職員用校門の方にあった。生徒が入る校門の真裏。
近くには教職員用の駐車場も見えて、広い駐車場には車がびっしり止まっていた。
その駐車場のそばに白い小さな建物があった。あたしはそこで待っていた。
数分前、あたしは理事長室から放送を流した。
『理事長放送です、陸上部の『南条 涼』君。校内に残っていましたら、至急守衛室に来てください』
あたしが、待って五分ぐらいしたら南条君が爽やかにやってきた。額には大きな絆創膏があった。
「お待たせ」それでも笑顔を絶やさない彼は、きれいな走りのフォームでやってきた。輝く汗は眩しい。
「ああっ、うん」あたしは顔を少し赤くして、すぐに凛とした顔に戻した。
「どうしたんですか、かわいい理事長さん」
「うん、実は南条君のいじめに関して協力してほしいの。守衛室に来てもらえる?」
あたしは、そう言いながら南条君を守衛室の小屋に招き入れた。
守衛室の中は、古い黒板と、机、無線にいくつものモニターがあった。
モニターはあちこちのカメラと繋がっていた。
先に来ていたあたしは、奥で座る警備服を着ていた初老の守衛さんに話をつけていた。もちろん男。
「これは……」
「ここ、学校にある防犯カメラの数です。こっちのビデオデッキで過去の記憶も見ることができるの」
「へえ、始めてきました」
目を輝かせた南条君の横顔、純粋に驚いてかわいい。あたしの胸がやはりドキドキしていた。
「で……見てほしいものがあるんだけど……」
「はい、いいです」
「昨日……だったよね。いじめられたの。嫌なことを思い出すようで、苦痛だけどお願いできる?」
「かわいい理事長さんのためなら、いいよ。僕は大丈夫だから」
爽やかすぎる笑顔に、あたしはキュンとしていた。やばい、あたし恋している。
この学校に入るきっかけを作った父には、感謝しないといけないわ。
だけど、守衛さんの顔を見るなり真剣な顔に戻った。そうよあたしは、いじめ対策しているのよ。
「すいません、女子トイレの前にあるカメラは……」
「これだよ」経緯を見ていた年老いた守衛が、不愛想な顔であたしにDVDを渡してきた。
「ど、どうも……」
「ありがとうございます」南条君がジャ○―ズのアイドルばりの笑顔で感謝を言った。
初老の守衛は、また退屈そうな顔でそばの椅子に座っていた。
あたしと南条君は、奥のビデオルームでDVDをつけた。
そう言って映し出されたのが、女子トイレ前にある定点カメラの映像。
時間をどんどん早送りで進めていった。それにしても女子トイレの前、さすがに人通りは少ない。
やがて、南条君が出てくるところで画像を止めた。
「この人は……ストップ」
あたしが止めた画像には、南条君のほかに三人の男がいた。
写っていた南条君も、ほかの三人も同じラグビー部のユニホームとヘッドギアをつけていた。
その三人組は、あたしが女子トイレで背中を見た三人組とほぼ同じ。大きな背中でよく目立つし。
「ごめんね、南条君。彼の事を調べたいんだけど」
「うん、彼は末松部長だよ」
「末松部長?部長ってことは……」
「彼はラグビー部の部長なんだ。ほかの二人も末松部長の友達だね。
僕は残念だけど彼らの詳しいことは知らないよ。この部活には一週間前に応援に来たばかりだから」
「そう、その前に因縁つけられることは?」
「あまり面識がないからね。ただ入った時から感じは悪いけど。
いつのまにか女子トイレに連れて行かれて、暴行されて……」
「そっか、ひどいね。末松部長がいじめたのね」
その件に関しては、南条君は首を縦に振った。だけど、一つ気になることもあった。
それならば、何故彼がいじめられるかということ。それが原因解決の糸口になることもあるから。
「ありがとね、南条君。だけど変な話、ラグビー部の応援しない方がいいんじゃ……」
「うん、ありがと。でもこれも陸上部の伝統だから」
「そうなんだ。分かったわ、あたしに任せて」
「本当にありがとう、かわいい理事長さん」
南条君にあのキラキラ眩しい笑顔で言われると、あたしは瞬間に顔が赤く、胸がドキドキした。
それでも理事長としての責任を感じて顔を上げた。
「うん、解決しないとね」
「でも、どうやって?」
「そりゃあ、決まっているわ」あたしは一呼吸だけ間を置いた。南条君があたしを見ていた。
「彼と話をして理解させます。いじめは絶対に許されないから」
あたしは、モニターに映る末松部長の顔を指さした。その時の顔は、完全にいつものあたしの顔に戻っていた。




