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東京戦争 ~the end of world~  作者: 紅月雪夜
7/13

~決意と絆と~ phase7

アメリカは退かない。分かりきっていたこと。無血開城はその場しのぎで、その後は国民が食い物にされて終わりだ。



なら、汚名を着ようとも抗戦するしかない。自分は最高責任位にいるのだから。



彼から貰った守り刀を胸に抱く。



自分だけが後方で安穏としている訳にはいかない。



全ての衣服を脱ぐ。麻紐で髪を結わえる。



守り刀を抜いて髪にあてがい。



思い切り引いた。セミロングの髪がショートカットになる。刀では上手くいかないけど仕方ない。ある程度整える。



クローゼットの奥から桐箱を引っ張り出して、開ける。中に入っていた物に着替えて侍女と中里准将を呼び出した。



数分で来るはずだ。守り刀を懐に仕舞い、部屋の中央で正座をする。目を閉じて、心を落ち着かせる。感じるのは、心地いい春風。そして、彼から貰った守り刀。



自分でも驚くほど落ち着いていた。彼と共に居る、そのせいだろうか?



「国家皇族警務隊中里、参りました」



来たようだ。入室を促す。侍女も一緒に入ってくる。



「失礼致します。御用で…陛下、それは…!」



驚いた顔を見ていたら、何だか可笑しくなってしまった。別に変な格好をしているわけではないのに。それとも髪型がおかしいのかな?それなりに整えたつもりなんだけど。



「陛下、まさか先陣を切るおつもりですか?」



ああ、驚いていたのは服のことか。



「そんなことはしません。私がいても足手まといになるだけですから」



20半ばの小娘が戦場に出てもただのお荷物。訓練等はやってはいるけれど、実戦は無理だ。



「では、何故戦衣を?」



戦衣。歴代の天皇が戦いの場において着るものだ。正確には装備の下に着る。お飾り的な物ではなくて、実用性重視。最前線でも充分に耐えられる。



ただし、これを着て戦場に立った天皇は今までいない。



「私には前線で戦うだけの力はありません。だからといって、ここで安穏としている訳にはいきません」



中里准将は少しほっとした顔をした。



「お気持ちだけでも前線に、という訳ですか。ご立派です」



にっこりと微笑むと侍女は諦めたみたいだ。さすが、私のことはよく分かっている。



「中里准将、皇族を全て集めてください。皇族会を開きます」



少し驚いた顔をした。この人はからかうと面白そうだ。



「皇族会を?分かりました。すぐに手配致しますが、2時間ほどはかかるかと」



「よろしくお願いします」



それでは失礼致します。そう言って中里准将は出ていった。



「髪型を整えましょう」



「お願いね」



侍女が私の後ろにまわって、髪を整え始めた。



「中里准将が可哀想ですよ?陛下がどうなされるつもりなのか、分かっていませんから」



私はクスッと笑って、



「あら?読みきれない彼も悪いんじゃない?」



まるでいたずらっ子の気分だ。



「はい、終わりましたよ」



道具を片付けながら、



「本当にあの方にそっくりなんですから。もっとも、あの方の前では陛下も形無しみたいですけど」



わざと溜め息をつきながら言う。



「ちょっと、あんなに性格悪くないわよ」



そして、2人で笑った。









侍女からの話だと、全皇族65人が一同に集まったという。こんな小娘の為に、よくもまあ素直に来てくれたものだ。



皇宮、皇族室。皇族関係者以外は立ち入ることが許されない、特別室。その部屋の扉を開ける。ざわついていた室内が静かになり、各々が席に着き始める。



全員が席に着いてから私も席に着く。これからは私の戦いだ。



「各々方、急な呼集に応じていただきありがとうございます」



「陛下、状況をまず教えていただきたい。戦衣をお召しということは、芳しくないのですか?」



叔父が聞いてくる。



「状況としては、防衛に徹しています。日本領には被害はありません」



「貴女は聡明なお方だ。意味もなく戦衣をお召しになったりはしない。何かお考えがあってのことですね?」



叔父は鋭い人だ。私の考えをある程度理解して、その上で周りを抑え込んでいる。ありがたい。



「私が聡明かどうかは分かりません。しかし、考えはあります」



全員を見回して、はっきりと宣言する。



「現時点で、一時的にではありますが国家皇族警務隊を解散、再編成して防衛対象を皇族から国民へシフト、私が総指揮を執ります。補佐には中里准将と白海大佐に入っていただきます」



室内は静まり返ったままだった。そんな中、叔父が口を開く。



「それは決定、でよろしいですね?」



「ええ。皆さんには申し訳ありませんけど、私と命を共にしていただきます。国民を守るために」



ふっと笑い声がした。叔母だった。



「貴女は本当に先代、父親に似てるわ。私達の協議が無駄になった上に予想の上をいくとはね」



親戚達の協議?私は何も聞いていない。何か策略でもしていたのだろうか?



「我々は陛下を守るために協議をしていたのですよ」



叔父が言う。



「ですが、陛下が国民を守るために戦場に立つのならば、従うが道理」



全員が席を立ち、最敬礼する。



「国とは民が居て初めて成り立つもの。陛下は本質を理解しておられる」



「我らが力、国民の為に存分にお使いいただきたい」



「我らが滅んでも国民が残れば国は滅びぬ」



皆が口々に言う。正直、こんな展開は予想していなかった。中里准将と白海大佐が横に来て、言った。



「矢崎特佐からは陛下を頼むと言われていたのですが、まさかこんなお考えだったとは…」



にっこりと微笑む。



「あら?私は最初から考えていましたよ?矢崎特佐も分かっていたんじゃないかしら。もっとも、止めても無駄だと分かっていたんでしょうけど」



「あの男も陛下も、素直になるのはお互いにだけですか。他にも選択肢はあったでしょうに、後悔しますよ?性格の悪さは折り紙つきだ」



白海大佐が言う。この言い回しは知ってるんだろうなぁ。



「自分で選んだのだから後悔なんてしないわ。お互い一途だしね。さて、そんな訳で白海大佐にお願いがあるんだけどな?」



白海大佐の笑顔がひきつる。



「お願い、ですか。何でしょう?」



にっこりと微笑む。封筒を取り出して、



「そんなに難しくないわ。この封筒を矢崎特佐に直接渡してほしいの。白海大佐から直接、ね」



「直接、ですか?別にあの男に取りに来させれば…」



「あら、命令の方がよかったかしら?」



あ、諦めたみたいだ。しぶしぶ受け取る。



「ああ、それと伝言」



「国内は気にしなくて良いから、思い切りやりなさいと。それと」



にっこり微笑む。



「私の腕の中以外の死に場所は許さない。そう言っておいてね」


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