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東京戦争 ~the end of world~  作者: 紅月雪夜
3/13

~帰還と哀しみと~ phase3

barを出たあとの車輌の中。彼は現状を把握した上で、運転者に向かって告げた。



「皇宮へ向かって下さい」



運転していた護衛兵が困惑した表情でこちらを伺っていた。皇宮、つまり天皇の住居。そして、その警備は皇宮近衛隊、天皇と皇族の警備は皇族親衛隊。その所属は国家皇族警務隊でありM.S.S.Uとは管轄が異なるのだ。



「近くまででいい」



そう指示を出す。彼がこれから何をするつもりなのか、想像はつく。無茶というかなんというか。それよりもこちらの仕事が先だ。



降下してきた敵性部隊は高度35000メートル時点で迎撃、殲滅。輸送機も同時に撃墜した。生存者は無し。もとよりあちらから仕掛けてきたのだから、情けをかける必要はない。容赦なく、徹底的に潰す。その為の我々だ。



「あまり長居はしないで下さいね。まだ指揮権も移譲していません。やることは多いですから」



無駄だろうと思いつつ釘をさす。ある程度の流れで部隊編成は出来ているが、それは常駐部隊であり本隊はまだ招集していない。各関係機関、部署への要請などするべきことは山ほどある。



「しばらくは参謀長が指揮を執ってください。私は原隊に復帰するまでにやるべきことがありますので。それに、日本国最高責任位である彼女に復隊の挨拶とこれからのことの謝罪がないのは如何かと思いますよ?」



さも当たり前というように言っているが、あちらは最高警戒レベルで警備行動に入っていることは確認済みだ。事前連絡も無しに我々を通す訳がない。もちろん連絡など入れていないし、第一に彼は正式に原隊に復帰してはいないのだ。無理をして蜂の巣にされても文句は言えない。



そして皇族警務の戦力はM.S.S.U常駐部隊とほぼ同等。その総力を天皇、皇族及び皇宮の警備へ使っている。小国を殲滅出来るだけの戦力が防衛の為だけに使われているわけだ。要塞なんてレベルではない。



「何処へやったかと思えば、預けていたんですね。まったく、あなたという人は…」



我々が我々たる装備がないことは気付いていた。本部に厳重に保管してあるはずの彼のものが無いことも知っていた。本来なら勝手な持ち出し、ましてや他人に預けるなどあり得ない。そのはずが彼は懲罰を受けるどころか査問すらなかった。その相手が日本国最高責任位である天皇陛下で、その天皇陛下が受け入れたのなら納得出来なくとも、何も言えないだろう。しかし…



「天皇陛下を『彼女』なんて呼べるのはあなたくらいのものですよ」



そう、現在の天皇陛下は女性が勤めている。確か今年で27歳になられたはずだ。最後の女帝が1700年代後半の後桜町天皇だから、約400年ぶりに女性の天皇が復活したことになる。それに加え、不幸が重なり成人と同時に即位なされた。





2011年3月11日。東日本大震災、及び福島原発事故。


2023年5月23日。首都圏下大震災。

同年 6月15日。日本全国の原発への同時多発テロ。メルトダウン、チャイナシンドロームが多発。日本は世界中から隔離、孤立。その代償として国連は資金不足に陥り、瓦解。


同年 8月1日。中央政府崩壊。

同年  8月29日。全国の地方行政が指揮を執り治安維持、経済の安定化を目指す。全国知事会が名称を47元老院と改称、国会機能の回復を図り、日本国憲法を破棄。日本人が策定した新日本憲法を制定。それに伴い、自衛隊の位置付けが『自衛の為の軍隊』に変更される。また、天皇は日本国最高責任位であると明記。実行力を持つ。


2025年  放射線及び放射性物質の完全無害化に成功。除染が急ピッチで進められ各原発の廃炉、解体、新造が進んでいく。また、数多くの技術革新により技術的、医療的分野で世界トップになり始める。


2030年台、日本はすべての分野で世界を圧倒。除染が完了し日本の隔離も同時に終了する。世界中に日本の技術が伝わり、なくてはならないものになる。




そして現在、世界は親日派と反日派で二分されている。理由は日本の技術。いろいろな思惑はあるが恩恵に預かろうとする国々と、先進過ぎる技術に危機感を持ち日本をコントロール下に置こうとする国々で日本国を取り合っている。アメリカは日本から撤退しておきながら日本隔離が解除後に再駐屯する始末だ。



2011年の福島原発事故、2023年の原発同時多発テロ。それによって起きた日本中の放射能汚染は酷いものだったらしい。全世界から隔離され、見捨てられた。福島原発事故では国家、民間企業問わず協力的だったと聞く。だがテロ直後、ほとんどの外国国籍の者は日本を後にした。日本も国家として帰国支援をし、日本国民の受け入れ先も探した。



結果、日本人は受け入れてもらえなかった。支援をしてくれる国も一部だが確かにあった。



そんな中、最大の同盟国であり友好国であるアメリカが国連に日本隔離決議を提出。常任理事会で可決、承認され日本は国連から脱会した。支援をしてくれたのは南アフリカ、ブータン、トルコなど極めて少なかった。



国家に背き、勧告や帰国命令を無視して日本に残った外国国籍の者もいた。研究者や技術者、ボランティアなど多岐に渡った。彼らは今まで世話になったのだから、今までの恩返しをしたいと残ったのだそうだ。 そのまま日本に骨を埋めた者も多い。



後に彼らはこう言っていたらしい。日本人は自分達が大変でも私たちに温かかった。日本に残って良かった。



日本は国家としてだけではなく、民間人も自発的に彼らを支援した。日々の生活、通訳、滞在先。感謝と謝罪。彼らを滞在先として受け入れた民家も多い。



そして復興し、皆が安定した生活をし始めた頃、天皇が相次いで崩御。直系は現天皇陛下だけになり、女性天皇が復活。大変な苦労をされているはずが、気丈に振る舞われている。



今の日本は世界を統一しようと思えばいつでもできる。核を無効化し、他国が知らない技術、理論で造られた装備がある。防ぐのは不可能だ。日本の技術力は他国の数十倍にまでなっている。



だが歴代の天皇、47元老院、国会、国民はそんなことはどうでも良かった。何故か?簡単なことだ。その技術力は復興のために培われてきたからだ。公務員研究者、民間研究者、公務員技術者、民間技術者、国、企業、日本に残った外国人達、ボランティア、下町の町工場、現役の職人達、引退した職人達、一般サラリーマン、果ては主婦、学生まで。ありとあらゆる技術、理論、アイデアが提唱、提案され実証、実践、確立されていった。すでに廃れ文献しか残っていないような技術、極一部にだけ伝わっていた技術すらも集められ、確立していったほどだ。皆が、復興のために必死だった。



そんな技術を世界統一などとくだらないことには使えない。だからこそ、世界繁栄の為にと日本隔離が終了したあと技術を伝えたのだ。結果として戦争や紛争は増えたが、産業革命は起き、医療分野等は飛躍した。



もちろん危険視された技術もある。そういったものは他国に伝えず、日本国内で研究が続いている。その一部が日本防衛の為に使われている。日本は今や世界一の軍事、医療、技術大国だが第二次世界大戦以来、侵略したことは一度もない。



「すいません、これ以上は皇族警務の警戒線に引っかかる恐れが…」



運転していた護衛兵が緊張した面持ちで報告した。道路脇に車輌を停める。

皇宮より2.5キロほど手前。これ以上は無理だろう。



「それでは彼女に原隊への復帰の挨拶と謝罪へ行ってきます。それと、本部に戻り次第行動を開始します。全緊急回線を空けておいてください。全戦力を掌握します。それでは、行ってきますね」



何の緊張感もなく、車輌を降りて皇宮の方面へ歩いていく。まるで散歩にでも出掛けたかのようだ。



「本部へ向かってくれ」



はい、と返事をした護衛兵が車輌をUターンさせる。迂回する形だが皇族警務といざこざを起こすわけにはいかない。



「質問してもよろしいですか?」



運転している護衛兵が口を開いた。



「彼のことか?」



はい、と返事をした。他の護衛兵を見れば、全員が緊張しきっている。そういえば、私も彼と初めて会ったときはこんなだったな。そう思い気付かれないように苦笑する。



「私の元上官で、元M.S.S.U総司令。そしてこれから原隊に復帰、総司令官に戻る大馬鹿者さ」



我ながら酷い言い草だ。彼に感化されてきているらしい。まあ彼のせいにしておこう。きっとそういうものだ。


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