~苛烈と過酷と~ phase11
「何だ!?何が起きた!?」
誰も答えられるはずがなかった。
ハワイ島の基地から対艦核ミサイルが発射されて2分後、120発の対艦核ミサイルは全てレーダーから消えた。
さらに1分後、ハワイ諸島全域が交信不能に陥り、先程偵察衛星を移動させて確認すれば海しかない。あるはずの島が無くなっているのだ。
座標は何度も確認した。機械の故障も疑った。そしてそれらは否定されている。今はハワイに向けてグアムから確認部隊がフル装備で急行中。
あるはずがない。島ごと全てを吹き飛ばすだと?そんな馬鹿なこと、あるはずがない!
「指令、ロシアと中国が動きました!日本に向けて進軍を開始!」
「遂に動いたか!」
これで合衆国、ロシア、中国の3大国で日本の取り合いになる。何度目かの世界大戦が勃発したということだ。
「大統領へ繋げ」
オペレーターがすぐに動く。モニターに大統領が映し出された。
『ヘミング、状況はどうなっている?』
「最悪です。先行させていた艦隊は全て潰されました。また、ハワイ諸島全域が確認出来ません」
大統領が怪訝な顔をする。
『確認出来ない?どういうことだ?』
「ハワイ諸島全域が消滅した可能性があります。現在確認部隊がフル装備で急行中です」
『消滅した?そんな馬鹿な!』
信じられない、といった顔をする。こちらも同じ気持ちだ。
「更に悪いことにロシア、中国が日本へ進軍を開始しました。これはこのまま世界大戦となるでしょう。日本がどう動くかは未知数です」
『そうか…ロシア、中国の部隊とぶつかったときは先制して構わない。それ以外の国も友好国以外は同様の対応をしてくれ』
友好国、か。かつての日本も合衆国と友好国の関係だった。正義の名のもとに断ち切ったのは我が合衆国だ。
我々合衆国は常に正義だ。これは疑うこともなく事実。だからこそ日本が放射能汚染で手が付けられなくなった時、世界の為に隔離した。
「大統領、我々はこの大戦に、いや、日本に勝てるでしょうか…」
『勝たねばならないんだよ、ヘミング。合衆国が常に正義なのだから
。そして君もその立場にいる』
そう、我々は正義。だが相手が悪とは言えないはずだ。日本もまた、日本の正義を掲げているだろう。正義同士のぶつかり合い。負けた方が悪にされるだけだ。
「…また何かありましたらご報告します」
画面が消える。
しばらく立ち尽くしていた司令官が口を開く。
「我々合衆国が勝てると思う者はいるか?」
司令部は、静かなままだった。
遂にロシア、中国が動きましたか。予想していたほど早くはなかったようですが。
ありすからの報告で常駐部隊には防衛展開を指示している。そして『彼女』も動いた。皇族方のバックアップ、国家皇族警務隊の戦力、天皇としての矜持。日本防衛の最高戦力になるだろう。
端末を取り出して都庁の総司令部に繋げる。
「石浪参謀長、そちらの状況を」
『中国、ロシア両軍は小競り合いをしながら領海付近まで進攻、両軍とも領海手前で停止しています。こちらは海自、海保混成部隊で対応中です。なお、国内のかなりの数の民間企業から協力の申し出がありました。それに伴い、天皇陛下が緊急の演説を行うことを発表されました』
彼女は包み隠さず国民へ話すつもりですね。例え罵詈雑言が投げつけられても甘んじて受け入れる。彼女らしい。
「総司令、そちらはかなり大規模にやったようですが?」
「損害はありません。ハワイ諸島を消滅させただけですし、本土に侵攻したわけでは無いですからね。あちらの損害はたいしたものではないでしょう。そちらのロシア、中国の動きのほうが気になりますね。偵察部隊の次は本隊が来ますから、こちらから先制することも検討しては?」
アメリカと違い、本国が近い分厄介だ。それに韓国にも在韓米軍が駐留している。韓国軍もいる。経済破綻しかけているとはいえ、一時は日本を凌ぐほどの技術国にまで発展したのだから楽観視はできない。ロシアは日本に対して強硬であるし、中国、韓国は反日で成長してきたような国だ。
「検討はしていますが、今のところは様子見といったところですね。そちらの戦闘情報を流したので躊躇しているようです」
流石ですね、情報戦で先手を取りましたか。
確認作業、戦略の再立案の間は部隊は動かせない。こちらは2手、3手先の行動を起こせる。
『煙草、控えてくださいよ?』
通信が切れる。さすがは良く分かっている。
ここは煉獄の整備スペースだ。普段は人が来ることもないので喫煙所として使わせてもらっている。広さは20~30㎡ほどか。艦内に喫煙所はあるのだが、人と顔を合わせたくないときにここに来る。そしてここに私がいることを知るものはそう多くはない。
外はもう闇に包まれていた。全艦が隠密機動を行っていて識別灯も点けていないために月と星だけが輝いていた。
「あなたが保護されたのもこんな夜でしたね」
胸ポケットから煙草を取り出して火を点ける。
影から音もなく現れたのは美夜だ。
「美しい夜に出逢ったから美夜、でしたか。そんなにロマンチックな出逢いだった覚えはありませんけどね」
同じように胸ポケットから煙草を取り出して火を着ける。
そう、あのときはロマンチックなんて欠片もなかった。自分は死ぬはずだったのだから。




