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東京戦争 ~the end of world~  作者: 紅月雪夜
10/13

~冷酷と無慈悲と~ phase10

殲滅艦が爆散し、破片がばらばらと落ちていく。



「容赦ねえな」



落ちていくのは破片だけではなかった。人も落ちていく。



生きながら。死にながら。腕を失い。脚を失い。頭を失い。上半身を無くし。下半身を無くし。燃えながら。内臓をぶちまけながら。何も言わず。絶叫を上げながら。ばらばらになりながら。



破片も人もいっしょくたに落ちていく。



何の感慨も湧かなかった。殺るか殺られるか。戦争なんてそんなものだ。



『島谷中佐。全機着艦許可を出します。補給と休息を。20秒後に現着します』



通信が入る。聞き覚えのある声。今は本土に居るはず。いや、あいつのことだ。しかしまさかな。



空間が歪む。識別信号を確認。空中機動艦2隻と機動空母、重巡洋艦、海上保安庁の特殊機動警備艦。それに青龍50機。



空中機動艦は海自の富嶽ふがくと…煉獄れんごく?M.S.S.Uの所属艦じゃないか。



『龍神及び麒麟の3機は煉獄へ。心神、朱雀各機は空母不知火しらぬいへ着艦を。対空監視はこちらで引き継ぎます』



「了解した。航空部隊全機へ。聞いての通りだ。艦隊旗艦の指示に従え」



煉獄は空母ではないので飛行甲板は持たない。懸架用のアームで横から艦内へ引き込む構造だ。



相対速度を合わせ、アームに機首と主翼のポイントを合わせる。ゴンッと軽い衝撃。同時にロックシグナルが点灯。エンジンを切る。そして巨大な龍神が艦内に引き込まれていく。



最終チェックを済ませて艦内に降りたとき、2機目の麒麟が引き込まれるところだった。ずいぶんサイクルが早いんだな。



「お疲れさまです。お久し振りですね、島谷中佐」



やはりここにはあり得ない声。そちらに顔を向けると、やはりここにはあり得ない人物が立っていた。



「さっきの通信はやっぱりお前か。この最前戦に何で総司令が居るんだ?この煉獄が防衛本部って言うんなら話は別だが。それとさっきの砲撃。警告や情報も無しにぶっ放しやがって。味方が巻き込まれたらどうするよ?」



防衛本部は東京都庁に設営されている。通常は総司令の立場なら本部に詰めているはず。だがこいつはあらゆる意味で規格外だ。



「私が居なくても優秀な参謀長が居ますから。砲撃に関してはありすが火器管制を見誤るとお思いですか?」



相変わらず喰えない。私が居なくても、と言いながら小型端末で全てを把握し、指示を出し続けている。そんなこいつに付いていける石浪参謀長も大概の化け物だ。



「ありすを起こしたのか。いや、ありすだけじゃないな?」



「ええ。ありすだけではなく全員起こしました。状況が状況ですので」



ありすも含め全員が起動済み?とんでもないな。



「徹底的にやるのか。あちらさんはそのつもりだから仕方ないな」



山村と水崎も合流する。



「ここではなんですからブリッジに上がりましょう。詳しい説明はそちらで」



エレベーターに乗り込む。初めて乗る艦だからちょっとした観光気分だ。



ほどなくエレベーターが止まる。



「艦長、矢崎以下4名入室します」



空いているコンソールを使いメインモニターに情報を表示させる。現在位置は硫黄島沖。この場所と離れた位置にも戦闘記録。公海上で11時間前?まだどの部隊も出ていなかったはずだ。



「ここは?」



「第7艦隊、第11艦隊と交戦しました」



「M.S.S.Uの部隊か。自衛隊うちの連中は何も言ってなかったぞ?」



たとえ国内でも戦闘機や艦船が動けば追跡するはずだ。



「レーダーにはかかりませんから」



平然と言いやがった。たとえ最新鋭のステルス戦闘機でも公海上から捕捉出来る代物だぞ?それが日本国内から動いたのなら尚更だ。



『ご主人様、捕捉されました。対艦ミサイルの発射を確認。総数120。発射地点はハワイ本島。着弾は5分後』



ありすからの緊急報告。そう簡単には捕捉出来ないはずだが、さすがは世界最強を名乗るだけはある。



「どうする?総司令殿?」



面白そうに聞く声。ん?ずいぶん若い、女性の声だ。思わずそちらを見る。



艦長席に着いていたのは20代前半と思われる、小柄な女性だった。黒い髪を腰の辺りまで伸ばしている。スレンダーで好みとしてはドンピシャだ。ただ、まあ、胸の辺りがかなり残念な…



「人の胸を見て溜め息を吐くんじゃない!」



おお、バレてる(笑)



「まったく。それでどうする?返すか、受けるか、砕くか。」



着弾まで約3分。



…?空気が変わった?


風が、顔を変えた。



「…核か」



艦長がこちらを見て固まっていた。



「なぜわかる?」



「風や空気が教えてくれるさ」



やれやれ、といった顔をして艦長は矢崎総司令に向き直る。



「艦長にお任せしますよ。私が判断する局面ではないでしょう?」



「雷閃を緊急起動。目標、敵ミサイル群。捕捉と同時にぶっ放せ!」



らいせん?聞いたことのない名だな。



機関音が急激に高まる。



「雷閃の起動及び捕捉完了、作動します!」



艦隊の数キロ先、閃光が瞬いた。その次の瞬間。



その空域に無数の雷が降り注いだ。ミサイル群は爆発し、誘爆し、消滅した。



「ミサイル群の消滅を確認」



「しかし舐められたものだな。たった120発の対艦核ミサイルで艦隊を落とせると思っているのか」



違うな。向こうは切れる最高のカードを切ったつもりなのだ。それがこうも破壊されるとは思っていないだろう。次はICBM、弾道ミサイルでしか攻撃手段はない。



「ありす、緊急攻撃コードを発令。煉獄のコントロールを」



全職員が驚き、総司令を見る。それに構わず、続けて発した命令にさらに驚いた。



「通常機関で龍撃を起動。出力は30%で構いません。目標はハワイ諸島全域」



ありすが煉獄のコントロールを掌握、第一攻撃態勢に移行する。



「本気か!?ハワイが消滅するぞ!?」



機関音が高まっていく中で艦長が声を上げた。あそこには米軍だけではなく、日系人を含めた大勢の民間人がいる。



「今は戦時です。あちらも覚悟はあるはずですから」



「またそうやって独りで背負うのか…」



艦長が悲しそうな顔をした。



『龍撃の起動及び充填完了。目標をハワイ諸島全域に設定。被害想定はハワイ諸島全域の消滅、生存者無し』



ありすの報告。これは発射されれば確定される未来だ。



「発射してください」



何の躊躇いも、感情もない一言。



閃光が伸びていく。とんでもないエネルギーがハワイ諸島に向かって。



「お前独りで背負う必要は無いんだ…」



ハワイ諸島は消滅した。そこに在った全ての命を呑み込んで。



それを命令し、実行したのは、たった一人の青年だった。

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