異世界転生して日本人に生まれ変わったのに勇者に選ばれた親友に巻き込まれてファンタジー世界に逆戻りしました!
気まぐれな作者が「これアリじゃね?」と書いた物です。暇潰しにどうぞ■D\(^^
ーー俺、死ぬんだ………。ーー
赤い池に身を沈めた青年騎士は薄れていく意識の中、自分が死に際にいることを悟った。青年は灰色の空を眺めながら残り僅かな時間で思いにふけていた。
ーー父上、母上、あなた方より先に逝く親不孝な息子をどうかお許し下さい。騎士団のみんな、生き残ると約束したのに守れなくてごめん。団長、俺ちゃんと副団長として使命を果たせたでしょうか?ーー
戦場の筈が青年には何一つ聞こえておらず静寂が続いていた。灰色の空を最後に視界を闇に閉ざす。命が消えていく最中、青年は願った。
ーーもし…もし、輪廻転生が実在するなら、俺は戦わなくていい所で生まれ変わりたい。ーー
青年はそれを最後に息を引き取った。
「……いどう、二階堂!二階堂焔!!」
「は、はい!」
どうやら珍しく居眠りをしていたらしい。名前を呼ばれて覚醒した焔は勢い良く起立した。周りからクスクスと笑う声が聞こえる。現在は運悪く国語総合の時間で、居眠りなどする生徒に厳しいと評判の内田先生が焔のクラスを持っていた。
「授業中に居眠りするなといつも他の奴らに言っているだろう。では二階堂、百五十二ページの七行目から読んでくれ。」
「はい。」
焔は教科書を持つと憂鬱そうな顔をして文章を読み始めた。
注意をされて職員室を出た後、焔は一人の生徒を見つけるや駆け寄って行った。
「悠真!!」
「おせーぞ、焔。さっさと飯喰おうぜ!」
職員室から出るまで待ってくれていた親友と共に食堂へと歩き出した。
食堂へ向かっている途中で悠真が国語総合での時間の事を聞いてきた。
「珍しく焔、居眠りしてたけどどうしたんだよ?」
「どうも昨日の夜に新作ソフトをやってたせいで睡眠不足だったみたい。さっき見た過去もそのせいかな?」
焔は悠真に苦笑して言うと悠真は顔を輝かせて焔に詰め寄って来る。焔の夢が凄く気になるらしかった。
「焔、もしかしてその夢って………」
「お察しの通り、僕の前世の記憶だったよ。」
焔の言葉に悠真の目がいつも以上の輝きを持った。
焔は記憶持ちの転生者で、俗に言う異世界転生者だ。転生前は騎士だったからなのか剣道はめっぽう強い。そんな焔の事情を知っているのは親友の悠真だけだ。だから焔が有り得ないことを言っても驚かないが、興味を持たれて質問攻めがいつもの落ちだったりする。
「で、今日はどんな記憶だったのかな?焔君。」
「君付けやめれ、悠真。」
「何でだよ?」
「お前が君付けするとキモい!」
「酷い!」
悠真とふざけながら焔はポケットに手を突っ込んだ。だがいつもならそこにある筈の物が入ってなかった。
そういえば、鞄の中に入れてたと思い出した焔はそのことを悠真に伝えた。
「しょうがないな。俺も教室まで行ってやるよ。」
「ごめん。」
焔の謝罪に悠真は笑った。
「いいよ、ソンくらい。じゃ、後でジュースおごれよ!」
「なんでそうなるの!?」
いきなり走り出した悠真を追いかけるように焔も教室へと走り出した。
「そんじゃ、入るぞ」
やっとの思いで追いついた焔に悠真が声を掛ける。上がった息を整えながら焔は頷いた。
教室に入ろうとドアを開けて………………………………………………………閉めた。
「………ごめん、昼食代借りていい?」
「………今度返せよ。」
よからぬ物を見てしまった二人は顔を青くしてそれだけ会話して踵を返すとそのまま食堂へ行こうとした。ら、何かに引っ張られて教室の方へ吸い込まれた。
ラファエルは騎士達に引っ張らせて入って来た青少年達を見た。一人は黒髪黒目でもう一人は同じ黒目に鳶色の髪だ。
本来ならば勇者召喚で召喚されるのは一人の筈だが現れたのが二人の青少年だったため判断の末、二人とも引っ張ってきたのだった。
「ラファエル、これは一体………」
「申し訳御座いません陛下。しかし我々もどちらが勇者か見当もつかず、二人とも連れて参りました。」
「まあ良い。」
頭を下げるラファエルから勇者召喚で来た青少年二人に視線を移すとガイアスは二人に質問をした。
「我が名はガイアス・ウィル・ファスティナ。このファスティナ帝国四十三代皇帝だ。単刀直入に聞く。どちらが勇者だ?」
ガイアスの質問に青少年二人が同時に答えた。
「「こいつが勇者です!」」
同時にお互いを指差した青少年達はお互いの顔を見るなり言い合いを始めた。
「なんで俺なんだよ!?普通は記憶持ちのお前だろ!!」
「それこそこっちのセリフだよ!教室のドアを開けたのはお前だろ!!」
「絶対お前だ!」
「僕なわけ無いよ!」
傍観者のガイアスやラファエルはこの二人が可笑しくてしょうがなかった。どの道魔王の所へは二人とも行ってもらうことになる。結局はどっちが勇者でもいいのだ。とりあえずガイアスは未だに言い合いをしている二人の気を引いて次なる質問を投げかけた。
「言い合いはその辺にして、名乗って見てはどうだ?」
ガイアスに言われ、まだ名乗っていないことに気づいた二人はピタッと言い合いを止めて赤面した。
現在、ガイアスの執務室には五人の人影があった。深刻な顔を五人は突き合わせていた。
「ホムラ、もう一度聞くがお前の前世は我が騎士団員だったのだな?」
ガイアスは異界から来た鳶色の髪の青少年、ホムラ・ニカイドウに聞いた。
ことの始まりはもう一人の青少年、ユウマ・アカサカの「そういえば、焔って前世でファスティナ帝国っていう国の騎士だったって言ってなかったっけ?」の一言だった。ホムラも思い出したような表情からすると本当にそうらしく、詳しく聞く為にユウマ、ホムラ、ラファエルを連れ、騎士団長シュナイゼルを呼び出し執務室で事情聴取になったのだ。
ホムラは凄く言いづらそうだったが答えた。
「はい、BD二〇五六までファスティナ帝国騎士団副団長をやっていました。」
「もしかして、アレイなのか!?」
シュナイゼルは声を荒げるなり、二年前まで自分の片腕だった青年の名前を言った。全員がホムラの方を注目した。全員の視線がホムラに答るように促している。きつい視線の中ホムラは口を開いた。
「お久しぶりです、ガイアス陛下、ラファエル神官長、シュナイゼル団長。アレイ・ウェーバーただいま戻りました。」
「お帰り、アレイ。」
三人が喜んでいる中、ユウマは呆気にとられていた。親友が自分とは知らない世界にいるようで少し寂しく感じていた。
「これで決まりだな。」
「ええ、やっと分かりましたよ。」
ガイアスとラファエルが何か納得したように頷いていた。状況が分かったシュナイゼルも面白そうにユウマを見ている。状況が分かっていないのはユウマとホムラだけだった。
「えっと、一体何が決まったんだ?」
ワケが分からないという顔をしているユウマの疑問にガイアスが声を上げて笑った。
「あぁ、すまない。勇者の件だが、代々勇者は国の事情を知らない異世界の人間がなるんだ。いくら異世界の人間とはいえ、国の事情を知っているアレイ、いや、ホムラだったか。彼はこの条件に当てはまらない。ここまできたら言いたいことが分かるな?」
ガイアスの言っていることを理解した瞬間、ユウマはどっと冷や汗をかいた。隣に座っている親友が「諦めろ」と肩を力無く叩いてくる。
「あぁ、忘れていたが……」
悪戯をしている子どものような顔でガイアスがホムラに言った。
「魔王退治はホムラも行くから。」
一瞬にしてホムラが固まる。ユウマとホムラは顔を合わせるなり思いっきり叫んだ。
「「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
二人の声は城中に響き渡り、一体何の声だと城中で騒ぎになった。
一ヶ月後に勇者ユウマ・アカサカと親友ホムラ・ニカイドウは魔王討伐へと出かけのだが出発直前のホムラの一言によりスタートがギクシャクした状態となってしまった。
「結局僕って悠真に巻き込まれたんじゃん。」
「焔の馬鹿!それを言うな!!」
そんな二人を見て少し心配そうにしていたガイアスだったが、何も言わずに無邪気に走る二つの背中を見送ったのだった。
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