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「彼女は男友達のようなものだから」と宣う婚約者の言葉がある意味真だった

作者: 杜守 幻鬼
掲載日:2026/07/06

騎士科、婚約者、男友達のようなもの……何も起きないはずがなく。

 転生令嬢、騎士科の婚約者から「彼女は男友達のようなものだから」と騎士科の令嬢を紹介されたがちょっと様子がおかしいので観察したい。


 ……という、web小説にありそうなタイトル的状況が今。

 そう、私は転生者。前世で仔猫と見間違えたビニール袋を救うため、トラックとタイマン張ったと思ったらこの世界に爆誕していたかわいい令嬢。

 この世界はなんというか、魔法はないけどすごい適当なご都合主義の中世? の? ヨーロッパ的? な? なんかこう、労せずテンプレにのっかったような、そんな世界だ。略してなろう世界。

 私の転生先は、お貴族様の、それも中より上のほう、シミエント伯爵家跡取りのレナお嬢様であらせられた。お金持ちざます。お召し物もなにげにすんげぇ高級ざます。前世は稼ぐだけゲームと推しに課金していた心だけは豊かな一般喪女だったから、身の回りを整える余裕はあまりなかった。今はほれこのとおり。

 さてそんなことより目の前の状況を整理だ。ここは貴族の通う学園のカフェテラス。そして婚約者……ザイルはなんというか残念な男だ。私が言うのだから間違いない。裕福な子爵家の三男坊。親の仲の良さとか財産のあれこれで婚約が決められ、こいつはうちに婿入り予定なのだが、なんか甘やかされて育ったらしい。劇を見て「騎士になりたーい!」と幼いころに言っていたところ「じゃあ学校は騎士科でいいよ」と許されて騎士科に在籍している。ははは。おかげで私がひとりで領地経営をするのが確定で、そりゃあ厳しい領主教育科だよ畜生。まあ、我慢の限界がきたら切り捨てるための策は用意してあるが。

 で。そのザイル坊やが腕を引っ張って連れてきたのが……ザイル曰く、カレンお嬢様。子爵家令嬢。前世ならいわゆるイケメン王子様系女子である。だがその端正なお顔がものすごく不機嫌そうである。くっきりと眉間にしわを寄せていらっしゃる。お、ザイルの腕を振り払った。

 というかこの場合、前世で読んだものの本によるといわゆる「男友達みたいな女性」役のほうが「婚約者の男」にスキンシップ、例を挙げれば腕を肩に回したりとかしてなかったか?


「……おい。なんで私を連れてきた」

「まあそう言うなよ。婚約者に紹介しておこうと思ってさぁ」

「なんで」

「え。いや、だって、後からいろいろ言われるの面倒だし……」

「節度を持って接していれば面倒など起きない。なんだ? 節度のない接し方を私にしようとしているのか?」

「え、いや、そういうわけじゃ……ていうかなんだよ、いつももっと気安いのにさあ! 照れてんのか?」


 こちらにきちんと自己紹介をしておいてから、あくまで真っ当にザイルに問うカレン嬢の肩に、ザイルが腕を回そうとした、その瞬間。


「とあー!!!」

「ぅお、当て身投げ!! ギ◯ス様じゃんすげえリアル格ゲーだ!!」


 カレン嬢の素晴らしい当て身投げが炸裂! あれだ! 昔格ゲーで見たやつだ! 俺は詳しいんだ! ……興奮のあまり、思わず私の口から令嬢らしからぬ声と台詞が早口で漏れてしまいましたわ。おほほ。

 ですがカレン様が目を見開いて私を見ておられます。あらやだ聞かれまして?

 ごまかそうとする私に、カレン嬢が震える声で尋ねた。


「……波〇拳コマンドは?」

「236P」

「好きなジャンルは?」

「あえて絞るなら2D格ゲー」

「……」

「……」


 ガッ!! と私たちは固い握手を交わした。かなり古来からのゲーマーとお見受けした。カレン嬢も興奮気味である。


「え、マジで? 転生者!?」

「うん! てか自分以外初めて見た! うわ、出身どこ県?」

「福岡!」

「おっほ! 私熊本!」

「近いじゃん!」


 思わず素で会話してしまうけど仕方ない。ザイルは吹っ飛ばされたままポカンとアホ面を晒している。そんなことよりカレン嬢だ。


「えー? えー? レナ嬢、どんな人だった?」

「ゲーマーでアラサーのOL!」

「へぇ! 俺もアラサーで、ゲーマー社畜男子!」

「え、TS転生? 業が深~い! いろいろ困らない?」

「マジで困るんだよ! 色々勝手は違うし、それに貴族令嬢ってことで男と結婚させられそうじゃん? 俺、そういう指向はやっぱ元のままだし……」

「あー、精神BLになるか~」

「そ! だから、いろいろ自立する手段を考えて、小さいころから鍛えてたんだよ。で、うちは兄ちゃんも姉ちゃんもいるし、跡取りとか考えなくていいとか色々理由をつけて、なんとか騎士科入学を認めてもらったんだ。これであわよくば、一生未婚のままどっかの令嬢の護衛とかでやってけないかなって」

「お、じゃあウチくる? 私領主予定なんだけど」

「マジで!? うわ、めっちゃありがたい!」

「こっちとしても助かる~。向こうの世界の話とかしたいじゃん?」

「なー?」

「ねー?」

「お、おい!」


 おぅ、なんだいたのか。ザイルがきゃっきゃうふふしてる私たちの邪魔をしてきた。


「なんだよ、ふたりとも仲良かったのか!?」

「初対面でございましてよ」

「その通りだ」

「なんでそんなに打ち解けて……あ、いや、ちょうどいいな! それなら俺がカレンと仲が良くても……」

「はぁ? 百合の間に挟まっていいのはOPPAIだけだが?」


 わたくし、ついついはしたないことを口に出してしまいましたわ。


「や、やめろよー……女子に言われるとなんだか恥ずかしいじゃん……」

「間に挟まってやわらかく形を変えてるのがいいんじゃろがい!」

「やめろってぇ……」


 中身がシャイボーイなカレン嬢が照れておる。ふはは! イケメン王子様女子の恥じらい顔はご褒美よのう!!


「とりあえず私の護衛に雇いたいから、ちょっと両家で話し合いたいね。ついでにカレン嬢がいてくれれば、前世知識チート……は無理でも、この世界、四則計算できるだけでかなり有能扱いじゃん? 色々快適に生活とか環境とか改善できそうじゃん? 最初からお荷物のザイルに用意している予算無くして、領地的にも大勝利じゃん?」

「あー。能力的なソレ、思ってた。あっちの義務教育の勝利だよなぁ……あ、でも跡取り産むとかなんか、そういうのはいいの?」

「従兄の子を養子にもらおっかなーって。見どころがあるコがいるのよ」

「お、おいおい!?」


 自分の名前が出てきたことでザイルが反応した。なんだよもう、いいところなのに。


「え、俺の予算無くす、って……俺が要らない、ってこと……?」

「お、そこ理解できる頭はあったか。……ございましたか」

「あるよ!? なんだよ、それ! 婚約者だろ!?」

「ええ、そのことについて前々から考えていたのですけれど、白紙に戻そうかと思っていまして」

「はぁ!?」

「騎士科でもきちんと貴族としての教養を学ぶ講義はございますけど、噂になるほど成績が悪うございましょう? 日頃わたくしとの交流もすっぽかし……ご失念されておられますし、貴族としても婚約者としても落第点なんて、わたくし、流石にそのような方は……」

「で、でも親同士が決めたことだ!」

「少なくともわたくしの親は、懇切丁寧に証拠を挙げて説明したら分かってくださいますわ」

「え、いや、でも、俺のこと好きだろ!?」

「……は?」


 絶対零度ってこっちの世界の人は知らないけどな。そんな目と声を向けざるを得ない。


「え? ザイル様。ご自分に好かれる要素がおありだとお思いで? ハハッ」


 どこかのネズミの王のような笑い声が出てしまいましたわ。カレン様は肩を震わせておいでです。


「将来性はなく浮気性、どこにもよいところはございませんわね」

「う、浮気!? な、なんでそのことを!?」

「してらっしゃるのね?」

「っ!?」


 カマをかけたら見事に掛かった。まあ、優秀な侍従たちに調査を命じていたから知ってたんだけどね。ははは、休日にやたらと街に繰り出していたからな、こちらとのお茶会をすっぽかしてな! いったい何に精を出しているのかと思えば、ある意味文字通りってか!(あらやだお下品ですわね)


「そういうことで罹る病気もございます。わたくし、そのような方とは恐ろしくてとてもとても結婚など……」

「いや、その、俺……!!」

「さようなら。追って両家での話し合いが持たれると思いますので、お待ちください」


 崩れ落ちるザイルは放置でいいだろう。今はそれより。


「ねえねえカレン嬢、正直、騎士科でTSでほぼ紅一点ってどんな感じ?」

「んー……騎士サーの姫みたいな扱い……」

「ノリノリで姫っちゃえばいいのに」

「無理無理無理!! イケメンが甘い声でどアップでやたら迫ってくるんだぞ!? 引き笑いかみ殺すのが大変なんだって!!」

「乙女ゲーじゃん!」

「乙女ゲーだよ!? 中身はBLだけどな!?」


 向かいの席に座ってもらったカレン嬢と、楽しくお話するほうが大事だ!

 帰宅時間が迫るまで、私たちは前世やら今世やら将来についてきゃっきゃうふふと語り合った。今度パジャマパーティーもしたいところである。カレン嬢は照れそうだけど。


 その後、美少女の娘の涙ながらのプレゼン(証拠完備)と、うちの両親も薄々「ザイル馬鹿だからなぁ……」と思っていたのと、あちらのご両親の「うちの息子さすがに馬鹿すぎたかぁ……」と諦めていたのとで、無事婚約は白紙撤回(ということにしてあげたので優しさをほめてほしい)。

 そして美少女の娘の可憐な笑顔でカレン嬢の有能さをアピールして、カレン嬢も前世で鍛えた営業トークを駆使して、卒業後は彼(女)を私の護衛騎士として雇うことと養子の件を両親に確約させた。マジほめてほしい。


「すげぇなレナ嬢。マジでなにもかも上手くいったな……」


 私の大きなベッドの上で、やや距離を置いて座ったカレン嬢がつぶやいた。強制パジャマパーティーである。


「ふふふ! カレン嬢のおかげ! よ! 敏腕営業社畜!」

「社畜経験が役に立つなんてな! いやマジ、ありがとな……本気でTS人生辛かったからさ……」

「ふふ、これからは好き勝手楽しくやろう! めっちゃ楽しく!」

「おう!」

「あと当て身投げ教えて」

「あはは! わかった!」


 ふたりで笑いながらごろんと寝そべった。

 うん、仲間がいる転生人生、楽しいな!!


(END)

レナシミエント…スペイン語「再生」

久々に「ギー〇にしょうゆ」という文字列をネットで見かけてカッとなってやりました。後悔はしていない。古の格ゲーマー感。


※誤字報告ありがとうございます!ですが今回は「(性的)指向」=好きになる性別、の意味で使ってます。嗜好も大事ですけどね!ちなみ私はそっちの嗜好がたくさんあって書ききれないです(きれいな目)

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ギースに醤油は名曲
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