ミリーナ5 仮病を診る
「ミリーナさん、ちょっと診てほしいんですけどーっ!」
あたしがハーブを摘んでいると、聞きなれた声がした。
顔を上げると、屋敷の中庭をこちらに向かって駆けてくるのラオルの姿が見えた。
その様は、まるでしっぽを振りながら走り寄る犬みたいだ。
ラオルと出会ってから五日。
それはもはやすっかり見慣れた光景になっていた。
――そう、ラオルはあの日から、毎日ここに通ってくる。
「随分と元気そうじゃない。もう治療は必要ないと思うけど?」
「そんなことないです。はい、これどうぞ」
ラオルが、野花を摘んで作った花束を差し出す。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ラオルが照れたように頭をぽりぽりと掻く。
「それで、今日はどうしたの?」
「……あのですね、実は、昨夜から腹具合が悪いんです」
ラオルが真剣な顔で告げる。
「嘘は駄目よ」
「いや、本当です」
「じゃあ、ちょっとお腹出して」
「えっ!?」
あからさまに動揺している。
「診てあげる。だから横になってお腹出して」
「そっ……それは……ミリーナさんの前で?」
「当然でしょう」
「僕のお腹を?」
「他に誰のお腹があるっていうのよ」
「は、はい、わかりましたっ。……えいっ!」
ラオルが服をがばりと勢いよく脱いだ。
五日前に治療した胸の傷はもうすっかりよくなっている。
胸だけでなく、あの日確かにラオルは怪我だらけだったけれど、どれも深いものではなかったのが幸いだった。
「ど、どうでしょうか?」
ラオルが脱いだ服を手に握ったまま訊く。
「別に、脱ぐ必要はないのよ。寝転がって服をめくり上げてくれればそれでよかったのに」
「えっ、そうなんですか!?」
「まあいいわ。そこの長椅子の上に横になってちょうだい」
「は、はい」
言われるままに横になったラオルのお腹にそっと触れる。
薬を処方するにはその人の症状をしっかりと知ることが肝心で、そのための知識は子どものころから教えられていた。
患者さんの様子をよく観察する。
そして幾つかの質問に答えてもらえれば、良いところ悪いところがだいたいわかる。
けれど――。
「ちょっと、力を抜いて」
そんなに思い切り腹筋に力をいれられたら、わかるものもわからない。
「え? あ、はい」
神妙な顔をして天井を睨みつけているラオルの様子が、可笑しい。
「んー。ここ痛い?」
「いいえ」
「じゃあここは?」
「んー? んー……」
「じゃあ、ここ?」
「……あっ、今、痛かったです。はい、そこが痛かったです! ……たぶん、そんなような気がします」
ラオルが目を泳がせながら言う。へえー、とあたしは疑いの目を向けた。
触診の結果、全く異常はみられないんだけど。
あたしはやれやれ、とため息をついた。
ラオルがあたしのことを心配して、毎日なんだかんだ理由を作って来てくれているのはわかっている。
「うーん。ここねぇ」
「薬、必要ですよね? 経過観察も、必要ですよね?」
ラオルの真剣な目があたしをがっちり捉える。
困ったなぁ……。
仮病がバレてるって、気づいてないのかな。
「薬、ねぇ……」
あたしはなんとかラオルの視線から逃れ、庭を眺める。
育てているハーブがそよそよと風に揺れている。
「……じゃあ、とりあえず、お茶でも飲んでいく?」
あたしは仕方なく、ラオルにハーブティを勧めることにした。




