ミリーナ2 秘密の薬
名前を聞くと、少年はラオルと名乗った。
ラオルはどこでなにをしてきたのか、上は額から、下は脛に至るまで傷だらけだった。
話を聞くところによると、休める場所を探している時にたまたま立ち寄ったのがこの屋敷だったらしい。
そこで、鎖でぐるぐる巻きにされた棺を発見した。
他に人はいないようだし、棺の中に誰かが入っているのなら、埋葬しなければならないだろうと考えて、蓋を開けたところあたしが寝ていた、と。
あたしが握っていた小壜の存在にラオルが気づいて飲ませてくれなければ、あたしは死んだままだっただろう。
つまりあたしは、ラオルのおかげで生き返ることができたということになる。
それに感謝するべきかどうかはあとで考えることにする。
とりあえず今はラオルの怪我の手当てが先だった。
「ひいっ、痛いですっ!」
きれいに洗浄した傷口にすりつぶした薬草を塗りつける度、ラオルが悲鳴を上げる。
「我慢しなさい」
ちょっとしみるかもしれないけれど、この薬を塗っておけば傷はすぐに治るはずだ。
魔女と呼ばれるあたし自ら治療してあげているんだから、当然よね。と自嘲気味に考えたりもする。
「それにしても……この傷、どうしたの?」
「仕えているお屋敷の周りに怪しい者がいたので追い払おうとしたら、やりかえされてしまいました」
「そりゃあそうでしょうね。あんたなんかが出てきたって、怖くもなんともないもの」
体つきはそこそこしっかりしているものの、全体的にひょろりとした印象がぬぐえない。
ごはんをちゃんと食べられているんだろうか、と心配になる。
それに気弱そうな話し方や常に困っている風な表情は、著しく覇気に欠けている。
「そんなこと言わないで下さい。これでも僕、一生懸命やってるんです」
ラオルがふくれて目をそらす。
ほら、やっぱり怖くなんかない。
あたしはくすりと笑った。
こんなんでしっかり仕事をこなせているのかしら……。
まぁ、あたしが心配する義理なんてないんだけど。
「それよりも……なんで、死んだりしたんです?」
「殺されそうになったからよ」
「え? 殺されたんですか?」
「自ら死んだの。ていうか、正確には死んだわけじゃないのよ。
代々うちに伝わっている『生きているのに死んでいるようにみせかけられる秘密の薬』をのんだだけ。あなたがのませてくれた液体は、その薬の効果を消す薬ね」
あたしの説明を聞いて、ラオルが目を丸くする。
信じられないのかもしれない。
けれど、これは本当のことだ。
そして、そんな秘密の薬が伝わっているなんて怪しいと思われても仕方がないけれど、本当に、あたしも、あたしのお母さんも、おばあちゃんも、ちょっと知識を持っているだけの、普通の人間なのだ。




