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ラオル2 汚れている僕

「手を貸してちょうだい」


 棺の中で身を起こしたままのミリーナさんに言われて、僕は反射的に右手を差し出した。

 そしてその手が泥だらけの血だらけだったことに気づいて、慌てて自分のほうへと引き寄せる。


 けれど、ミリーナさんはそれを見逃さなかった。


「ちょっ、それ、いったいどうしたのよ!」


 棺の縁に手をかけて、鋭い目つきで僕の手を見ようとする。


「あ、あの、大したことはないんです。でもあの、汚れているので手を貸すわけにはいかなくて……すっ、すみません」 


 こんなものを見せてしまったことを恥ずかしく思いながら、僕は体の後ろに手を隠した。


「すみませんじゃないわよ! そう思うならあたしにちゃんと見せなさい。まず水で手を洗って、それから手当てするわよ!」


 ミリーナさんは僕の手助けを待たず自力で立ち上がると、服の裾をたくし上げて棺を跨ぎ、ずいと僕に詰め寄った。


「えっ、あ、あのっ……」


 その迫力に思わず身を引く。


 突然の事態にどうするべきなのか困惑する僕の頭の上から下まで順に視線を移動させるミリーナさんの表情が険しくなる。


「傷だらけじゃないの! ああもう、寝起き早々どういうめぐり合わせなの⁉ いいわ全部みてあげるから、こっちへいらっしゃい」


 ミリーナさんが僕の、傷ついていない方の腕を躊躇なく、ぐいと掴む。

 汚れるから、と言う隙もなかった。


 細くて白い指が、僕の腕をつかんでいる。

 僕がその手をじっと見つめていると、ぐいと腕を引かれた。


「え?」


「ここじゃ治療できないでしょ! この建物は死ぬまであたしが暮らしてた場所だから、どこになにがあるのかはわかってるわ。さあ、来て」 


 ミリーナさんは僕の腕から手を離さないまま、部屋の外へと続く扉へ向かってずんずんと歩き出した。

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