ミリーナ11 ラオルの覚悟
「嘘……」
あたしは耳を疑った。
魔女の生死云々よりも、気の弱そうなラオルが人を殺した、となんでもないことのように告げたのが信じられなかった。
「本当です」
けれどラオルはきっぱりと言い切った。
その瞳がひどく静かなことに気づいて、ああそうか、ラオルは狼なんだったっけ、と思い出す。
賢く、時に獰猛な、狼。
あたしに優しく接してくれるのは、怖がらせないように気を使ってくれているからなのかもしれない。
「ラオルが、魔女を殺した?」
呪いが解けるのは嬉しい。
でも、そのためにラオルがしたことを思えば、後悔が先に立つ。
あたしのひと言がきっかけだったのだとしたら、尚更だ。
ラオルは、あたしのために魔女を殺してきた。
そしてあたしのために、負傷した。
あたしのために。
あたしを守るために。
危惧したとおりだ、と思う。
結果、ラオルは負傷した。
ラオルはあたしと一緒にいると、不幸になる。
それなのに、ラオルは目を細めて、笑っている。
「はい。だからもう呪いに悩まされることはありません。僕も……朝になれば狼の姿に戻ります。牙と爪を取り戻す代わりに、人間の姿と言葉を失ってしまう。呪いをかけられたことは不運でしたけれど、ミリーナさんと言葉を交わすことができて嬉しかったです」
ラオルは繋いだままのあたしの手を引き寄せると、手の甲にそっと口づけた。
「ラオル……」
「これまでありがとうございました。仲間に、ミリーナさんを安全な場所まで案内してくれるよう頼んであります。どうかご無事で」
傷が痛むだろうに、穏やかに微笑むラオルを見て、あたしの胸がざわつく。
すっかり全てを諦めたような、それでも達成感に溢れたような表情。
失われた穏やかな時間に思いを馳せながらも、あたしを逃がすことに満足しているのが伝わってくる。
そんな、そんなのって……。
あたしは唇を噛んだ。
ラオルは、あたしがこのまま負傷したラオルを置いて逃げると、本当に思っているの?
適切な治療を行わなければ、命にかかわる。
そんな重傷を負ったラオルを残して?
ラオルはちょっと名残惜しそうに、それでも思いを振り切るように、そっとあたしの手を放す。
ゆっくりと、あたしから離れてゆくラオルの手。
あたしはその手を黙って目で追う。
ラオルはあたしといると不幸になる。
それはわかってる。
わかってるけど、でも……。
「ふざけないで!」
遠ざかるラオルの手を、あたしは咄嗟に掴む。
あたしの強い口調に、ラオルは驚いて目を瞠った。




