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ラオル7 魔女の最期

「僕たちにかけられた呪いは、魔女が死ねばとけるものなんです。明日の朝には新月が昇る。黒冷月の魔女の呪いは月と関係が深いんです。魔女が死んで最初の新月が昇る頃、呪いは消滅します」


 ミリーナさんに説明しながら、僕は約一年ぶりに対峙した魔女のことを思い出す。


 黒冷月の魔女は噂どおり、ここから山をふたつ越えたところにある深い沼のほとりに住んでいた。

 ひどく荒れた彼女の棲み家は、まるで誰も住んでいない廃屋のように見えた。


 この森に住んでいた頃の彼女は老婆だったけれど、再会した彼女は若い女の姿をしていた。


 灰色だった髪は淡い赤色へと変化していて、ミリーナさんの髪の色に少し似ていた。


 黒冷月の魔女は僕を見て、嘲笑した。


 自分のかけた呪いの成果に満足しているようだった。


 僕は惨めたらしく、狼の姿をしていたら尾を垂れ腹をみせていただろう素振りで魔女を油断させ近づき、隙を見て、牙と爪の代わりのナイフを魔女に突き立てた。


 ナイフの扱いは、彼女に牙と爪を奪われた後、その代わりになればと身につけたものだった。

 その技で、僕は魔女の心臓を一突きにした。


 魔女は一瞬目を見開き動きを止めたけれど、自分の身に何が起きたのかを察した後はくくくと自嘲するように笑った。


『せっかく美女に化けて迎えてやったってぇのに、この仕打ちけぇ。やれやれ、わてぃとしたことが、警戒心より人恋しさのほうが勝っちまったってぇことなのかねぇ。ま、わてぃ好みの顔に殺されたってぇことだけは不幸中の幸いだぃね、くくく。狼に噛み殺されるよりぁましだろうさぁ』


 魔女のしわがれた声が耳元で聞こえた。


 それだけだった。

 抵抗もなにも、ありはしなかった。


 気まぐれで冷酷な黒冷月の魔女。


 森を追われた後、どのような暮らしをしていたのかはわからない。


 以前の彼女なら、僕を傍に近寄らせるようなことはしなかっただろう。

 僕の下手な芝居に騙されたふりをすることだって、なかったはずだ。


 これも彼女の気まぐれのせいなのか、それとも……本当に寂しかったのだろうか。


 ここのところ、魔女狩りは激しさを増すばかりだ。


 黒冷月の魔女も、無関係ではいられなかっただろう。

 魔女とはいえ、たったひとりきりで生き続けることに、なにも感じないとは思えない。


 或いは、既に魔女狩りに遭遇し、命からがら逃げ出してきたあとだったのかもしれない。

 魔女として生き続けることに疲弊していたという可能性も考えられる。


 いずれにせよ、僕が真実を知ることは、もうないだろう。

 知る必要もありはしない。


 僕たちにかけられた呪いは、やがてとける。

 それが全てだ。


 魔女は死んだ。


 あっけない、ひどくあっけない最期だった。

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