ミリーナ10 告白
「ご、ごめんなさい……」
あたしの言葉に、とラオルが首を横に振る。
「気にしないでください。それにあとひとつ、伝えないといけないことが……」
ラオルが切り出したその時、庭に駆け込んできた塊がいくつかあった。
開け放したままだった、テラスへと続く扉の向こうに、数匹の狼がこちらを見て佇んでいる。
狼がうぉんうぉん、と低く吠えた。
その鳴き声に、びくりと体を固くする。
「大丈夫。僕の、仲間です。この雨のせいで、小隊が足止めされているようです。今のうちに、支度を」
「あの狼たちが、仲間……?」
「はい。ずっと隠していてすみません。僕は……僕は……本当は人間じゃありません。以前、大怪我を負ってこの屋敷に迷い込み、あなたに手当てをしてもらったことがあります。覚えていますか?」
ラオルの言葉を聞いて、頭の中に甦る光景があった。
あれはあたしがここに来てすぐの頃だったから、一年近く前のことだ。
灰茶色の、まだ大人になりきれていない小柄な狼だった。
突然現れた狼に、わたしは驚き、怯えた。
けれどすぐにその狼がぼたぼたと血を流していて、足取りもふらふらとしていることに気づいた。命が危ないと、すぐにわかった。
もちろん普段なら狼に近づくなんて恐ろしくてできないけれど、負傷しているとなったら話は別だ。
あたしは恐る恐る狼に近づいた。
意識が朦朧としているのだろうに、近づくあたしを威嚇する狼に声をかけ、宥め、ひどいことはしないからと言い聞かせ、ようやくあたしはその狼に触れることができた。
狼は数日間だけこの屋敷にいたけれど、動けるようになるとすぐにふらっと姿を消してしまった。
あの時の狼が、ラオル?
確かにラオルの髪の色は、あの時の狼の毛並みにとてもよく似た色をしている。
でも……。
「そんなことが……?」
「この森から黒冷月の魔女が追い出されたという噂はすぐに広まりました。魔女の気まぐれと残虐さは森に住む者たちにとって脅威でした。だからそれを聞いて、僕たちは安堵した。
けれどしばらくして、魔女が突然この森に戻ってきたんです。
その時、僕の仲間が黒冷月の魔女に目をつけられてしまいました。
そうなったら、どんなひどい目に合わされるかわかりません。僕は仲間を守るため、魔女に襲い掛かりました。
けれど僕の牙は魔女には届かず、返り討ちにあってしまった。
ミリーナさんに治してもらった傷は、その時のものです」
「あのひどい怪我は魔女のせいだったっていうの!?」
「はい。更に魔女は僕に呪いをかけました。僕の牙と爪を奪う呪いです。仕返しにこられたら鬱陶しいと考えたのか、魔女が僕にかけたのは、怪我が治るのと同時に人の姿に変わってしまうという呪いでした」
「怪我が治ったら? つまり、あたしのした手当てがあなたにかかった呪いの発動を早めてしまったってこと?」
ラオルが小さく首を横に振った。
「いいえ、違います。手当てをしてもらわなかったら呪いが発動しない代わりに、僕は死んでいたでしょう。だから、ミリーナさんのせいじゃありません。全て魔女のせいです」
「黒冷月の魔女……」
「でも、もう大丈夫ですよ、ミリーナさん。僕は魔女に会ってきました。もうすぐ、呪いは消えるはずです。ミリーナさんにかけられた呪いも、僕にかけられた呪いも」
「どういうことなの!?」
「――黒冷月の魔女を、殺しました」
静かな声で、ラオルが告げた。




