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ラオル5 僕の決意

「わかりました」


 ミリーナさんの願いに対して、僕はそう応えていた。


「……え?」


 ミリーナさんが目を瞠る。


「その呪いを解きましょう。僕も協力します」


 ミリーナさんが望むことならなんでも叶えたいと、僕は思った。


 一度は死を選んだ彼女が願いを抱いたということは、それは生きてゆくその先のことを考えられるようになったということだ。



 なら、僕はそれを全力で応援する。

 僕は、ミリーナさんに生きていてほしいから。


「そっ……そんなの無理よ! だいたい、あの魔女がどこにいるのかだってわからないし、見つけたところで呪いを解いてくれるかどうかだってわからないのに!」 


「大丈夫です。なんとかします。僕が」

「いいのよ! ちょっと言ってみただけだから!」


 ミリーナさんが慌ててそう言うけれど、それが本音だとは、僕には思えなかった。


「ミリーナさん。僕があなたを守ります。あなたの敵、全てから。たとえ相手が魔女であっても。これからは、絶対にミリーナさんをひどい目になんかあわせない。だから……」


 守るだなんて、図々しいかもしれない。

 僕なんかにそんなことを言われたら迷惑かもしれない。


 そう思って、これまで言えなかった台詞を、僕はとうとう口にしてしまった。

 僕の気持ちを知ってもらいたかった。


「だから生きて……」 


 真剣に続けた僕の言葉を、突如、笑い声が遮った。


 ミリーナさんが、さも可笑しいといった風に声を上げて笑っていた。


「そんなの、無理に決まってるじゃない。魔女だけじゃない。なにより領主があたしを捕らえようとしてるのよ。敵なんて数え切れないほどいるし、みんな武器を持ってやってくる。ラオルひとりになんとかできるわけがないわ」


 ――言葉を失う。


 僕の決意は、ミリーナさんに笑い飛ばされてしまった。


 確かに、僕なんかがミリーナさんを守るなんて、おこがましかったかもしれない。

 

 でも……。 


「笑わないでください。僕は真剣なんだ!」


 思いがけず強い口調で、僕は叫んでいた。

 ミリーナさんの笑いが止まる。


 部屋に沈黙が落ちる。


 ミリーナさんの表情が、固まっていた。


「あ…………。ご、ごめんなさい……」


 そんな顔をさせるつもりじゃ、なかったんだ……。


 小さく息を吐いてから、ミリーナさんがゆっくりと顔を横に振った。


「ありがとう。気持ちだけは、ありがたくもらっておくわ。でも、あなたにあたしは守れない。そんなことしてもらう義理だってないわ」


 冷たく言い放たれた言葉が胸に突き刺さる。

 その声は、僕を拒絶していた。


 僕は……僕は……。


「もうここには来ないほうがいいわ。いつ領主の手の者がやってくるかわからないもの。あたしが本当に死んでいるのかどうか、確認に来る者がいるはずよ。あたしと関わっていることが知れたら、あなたも危険だわ。あなたが仕えているご主人さまにも迷惑がかかる。だからさよならよ、ラオル」 


 ミリーナさんが無情にも別れを告げる。


 それを僕は、まるでどこか遠くで起こっている出来事のように聞いていた。


 心の中に、後悔が渦巻く。

 僕は調子に乗りすぎた。


 ミリーナさんはもう、僕のほうを見てくれない。

 こちらに背を向けて、再び笑い始める。


 きっと、勝手にミリーナさんの騎士気取りでいた僕の道化っぷりが可笑しいんだろう。

 僕はぺこりと頭を下げて、その場を去ることしかできなかった。

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