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ミリーナ6 望み

 毎日、ラオルは懲りずにやって来た。


 もう仮病を使うことはなかったけれど、怪我をしてくることが多くなった。


「この怪我どうしたの? 毎日のように新しい傷が増えてるじゃない」


「はい、これどうぞ」


「ありがとう、とってもキレイね。で、いったいなにがあったの?」


 差し出された花束を受け取りながら、もう一度怪我の原因を訊く。


 昨日巻いたばかりの左腕の布には傷口が開いたせいか血が滲んでいるし、もう血は止まっているけれど左頬にも新しい怪我をしている。


 これを見逃すわけにはいかない。


「最近この辺にも盗賊っぽい怪しい連中が増えているみたいで、警備を厳重にしてるんです。それで遭遇したらやっぱり小競り合いみたいになることが多いので……。ミリーナさんも、戸締りはしっかりしてくださいね」


「危ないじゃない! 仕事だから仕方ないだろうけど無茶しないのよ」


「はい。気をつけます。ありがとうございます!」


 ラオルが嬉しそうに笑って頷く。

 そのあまりに能天気そうな笑顔に、あたしの中でどんどん不安が増してゆく。


 本当に大丈夫?


「まあいいわ。治療するから、こっちに来て」


 テラスに置いてある椅子に座らせて、まず左腕の傷の具合を診ると、案の定、傷口がぱっくりとあいてしまっている。


 手早く消毒し直して、すりつぶした薬草を塗りつけた。

 頬の傷も、洗浄する。


「ありがとうございます。ところで、あの、やりたいことは見つかりましたか?」


 されるままになっていたラオルが、あたしを見上げて訊く。

 手早く使った道具を片づけながら、あたしは少し考えた。


「そうねえ。これまでずっとひとりで、誰かに会う機会も少なかったからあまり気にしてなかったんだけど……やっぱり呪いの文字は気になるわね」


「そうですよね。そんな呪い、消えてしまえばいいのに……」


 辛そうに眉を寄せて、ラオルが呟く。

 きっと、あたしの気持ちを思って、悲しんでくれている。


「あたしもそう思うわ。だから、あたしのやりたいことは、この呪いを解くこと、かな」


 あたしの答えに、ラオルが息を呑むのがわかった。

 無理なのはわかってる。

 でも、他にやりたいことが思い浮かばなかった。


 あたしに呪いをかけていった魔女の顔は、はっきりと覚えている。

 あたしが来るまで、ここで薬を調合するのは彼女の仕事で、その対価としてかなりの金額を受け取っていたらしい。


 けれど、あたしが来たことによってその魔女は追い出されてしまった。

 この呪いは、あたしに仕事を取られた腹いせだ。


 相手は本物の魔女。

 あたしにはどうすることもできなかった。


 諦めてもいた。

 死ぬつもりになってしまえば、そんな呪いはどうでもいいことに思えた。


 そんな経緯を、あたしはラオルに話して聞かせた。

 話しながら、自分の気持ちを再確認する。


 もし、これからも生きてゆけるとしたら、やっぱりこの呪いを解きたい――。

 もしも、こんな風に、誰かと穏やかに過ごす日々が送れるのだとしたら……。


 いつの間にかあたしの中に生じた小さな期待は、自分でも気づかないうちに大きくなっていたようだ。


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