表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

序章

 闇の中を男たちが転がるように駆けていく。裸足の足に小石が突き刺さる。だが立ち止まれば、待っているのは無罪の処刑だ。ただこの世界に転移してしまっただけだというのに、理不尽に命を奪われる。

「もう……、もうだめだ」

 一人の男が、がくりと地面に膝をついた。

「あきらめるな! 国境まであと少しだ!」

 仲間の一人が声をかけるが、うずくまった男は、返事をする気力もないようだ。

 そんな男たちの気力を完全にくじこうとするかのように、闇の中から二人の追手の金属鎧がこすれる音が響く。

「もう逃げないのか? やりがいがねえなあ。わざと縄を緩めておいてやったのによ」

 その声に同調する笑いが聞こえる。

「やっぱ、異世界転移者はだめだな。人間のクズだ。処刑するまで置いておく必要もねえよ」

「やっちまうか」

 追手の言葉に、男たちは声も出せずに震えた。第三の月が弱々しい光を投げかけているが、腰を抜かした男たちには逃げるべき道の先も見えはしない。ただ追手を見上げて震えることしか出来ない。

 突如、月の光が失せた。

 男たちは見た。追手の背後に飛び上がった影を。

 月の光を遮るほどの高い跳躍。真っ黒なその影は両手で構えた武器を掲げて、吠えた。

「死ねえええええ!」

 追手が振り返ろうとしたその時、月の光が戻って来た。

 ガゴン。重い音を立てて追手二人が倒れる。

 逃げて来た男の一人が呟く。

「な、なにが起きたんだ」

 地に伏した鎧姿の大男二人の体をまたぎ、月を背に細身の影が立ち上がった。

「大丈夫か」

 影が問う。危機に瀕して出会ったその姿を、男たちは遠い昔に見たと思った。あるものはマンガで、あるものはゲームで、あるものはアニメで。

「……助かった」

「ヒーローだ! やっぱり俺たちは、この異世界に来る意味があったんだよ! なあ、あんた。あんたも地球から来たんだろ。この世界でなにか大役を任されてるんだろ?」

 月がその者の影を深くする。男たちは影のあまりの濃さに震え、言葉を呑んだ。

「この世界での大役……そう、俺は」

 影は大きく胸を反らし、追手をなぎ倒した鍬を突き上げ、雄叫んだ。

「魔王を打ち倒す、勇者だ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ