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子供だった君が、魔法を使う姿が好きだった。
君の纏う魔力が美しくて魔法陣を編む指先が綺麗で、それを見つめる瞳が神秘的で、今でも目に焼き付いている。
キラキラとした瞳でほっぺを薔薇色にさせて、俺には分からない難しい魔法理論を3時間も語り続ける姿が可愛らしくて好きだった。
ウキウキとした君の声が好きだった。
2人で老いて死ぬまでずうっと隣で聞けるのだと、幼い俺は固く信じていた。
魚が嫌いで俺に半分押しつけるときのぶすくれた顔が愛おしくて好きだった。水と踊るように畑に魔法で水やりをする姿を永遠に傍で見続けたかった。
人と接するのが苦手でどこか他人に怯えていた癖に、俺にだけそんな姿を見せてくれるのが本当に本当に堪らなかった。俺以外の排除がとても容易くて、なのに君がかえって安堵していて本当に愛らしかった。
依存形成、最高だよね。
(ヤンデレじゃねーか)
聞かれてないのに、つらつらと止めどなく愛を語るルシウム王子。
人生大半くらいの付き合いだがそんな姿見た事ねーぞ。
あいつやべーな。重さメガトン級では?
まあでも
「良かったなルクルッツ。コレで色々解決じゃねーか」
「解決? そう言えばどうして君達はここに? 王家秘書庫の侵入は罪に当たるよ。古代の知識の保管は大事にするべきだからね」
「でもねアレン。古代の魔法を現代に蘇らせる訳にいかないの。現代魔術師の上位層が数年解析したら恐らく使える。そんな可能性は全部つぶさないと」
「なぜ?」
「えぇ?」
「君が創った素敵な魔法だったじゃないか。今でも呪文名を思い出せるよ。竜○斬。メド○ーア」
「「うわあああああ!!」」
真っ赤になって絶叫を上げる転生者共。心的ダメージにそこら中をのたうち回りたくなってしまう。
「ごめんなさいごめんなさいマジで勘弁して下さいアレン! ちゃんとした登場人物の口からそれ言うの止めて貰って良いですかぁ!」
「やべえこれ結構羞恥にクるな」
「登場……? まあそれはともかく、ぜんぶ強力で素敵な魔法だったじゃないか。使えるなら使えば良いじゃないか」
「ダメダメダメダメ! ぜったい駄目なの!」
「なぜ」
転生者共は一瞬視線を交わした。
何か良い感じに言って下さいハーレムさん。貴方わたしよりもコミュ力あるでしょ。
700年は伊達じゃねーだろ魔女開祖! 自力で何とかしてくれルクルッツ。
「ええっと、時代が違うんです。そう! 時代が。だから魔法はもう終わりにしないと……あの、そのぅうーんと、せかいがこわれる……?」
もっと説得力ある感じに言えよ700歳児!
どんだけ嘘下手くそだよ。肩書き的に自信たっぷりに言えばワンチャン騙せただろこれ!
ルシウム王子はにこにこ微笑ましいものを見る目でルクルッツのまごつく言い分に耳を傾けていた。
どう見ても微塵も騙せていない様子だ。
「そっか。でも魔女開祖とはいえ流石に王家秘書庫を解錠して突破するのは罪に問われるんだ。だから俺と結婚しようね」
「何でそうなるんです!?」
「入りたいんだろ、王家秘書庫。なら俺と結婚して王族にならないと」
「王妃選抜試験は??!」
「終わろうか」
極めてスムーズに話題が結婚話へと移行していく。相変わらずのルシウム王子だ。
乙女ゲーの物語根底から崩壊しそうで草。
これどうなるんだよ。まあ害なくハーレムれるなら俺は別に良いんだけど。
でも魔女開祖殿は不服な様子。
「けけけ結婚は、ともかく……えっと、でも側妃試験は」
「要らないけど。でも、そうだね。ルクにも心の準備が必要か。じゃあ婚約期間だ」
婚約、そんな言葉にホッとする魔女開祖。
そもそも結婚だろうが婚約だろうがするつもりがなかった癖に、まんまとホッとさせられている。
結婚よりもマシに思っている様子だが、それルシウム王子の誘導だからな。
「良かった。本編護れたきっと多分。きっと彼女と出会えばイチコロだから私の事は気にしないで」
「ははは。相変わらずよく分からない事を言うね俺のルクは。俺の覚悟と想いを見くびらない事だよルクルッツ」
「ちょっとよく分からないです」
「大丈夫。1年経てば君が王妃だ」
「でもそんな設て」
「王家秘書庫に入りたいよね?」
「入りたいです!」
「ん、良い子だね」
「そうかなあ?」
何かこえー会話してるな。
噛み合ってる様な噛み合っていないような。
て言うかルクルッツは分かっているのか? 700年越し激重感情向けられてるって。そもそも相手はあの建国王って分かってるんだろうな? 流石にそこまでクソボケじゃねーよな??
対応ミスればマジやばいだろ。
ちょっとの事でぶつかって大爆発しちゃいそうだ。
うわー巻き込まれたくねー。退散しよ。
「ところでハーさん」
「ぅひゃい!」
秒で見つかった。
「何だかすごぉく良いタイミングでここに居たね? もちろん侵入の共犯じゃないしだだの偶然だって分かっているけど、丁度いい機会だし幼馴染だし、俺達の仲、取り持ってくれるよね?」
「勿論でっす! ルシウム殿下!」
ありがとう、とにぱ~っと笑う笑顔に口を引き攣らせる。
こっわ。
絶対おれ胃痛枠じゃん。ハーレム胃痛物語じゃん。
無理無理おれしぬ。癒やしが欲しい。
今ここに居るエリサベスとマリーとマリアとメアリーだけじゃちょっと足りない。ルンとリンとミシュリアとケイトの笑顔が足りない癒やされたい。
俺何にもしてないのに酷くね? 現代人はナイーブなんだ、おれストレスで死ぬって。
こうしてハーヴェスト・レムレスの王子と魔女の仲を取り持ち係、つまり板挟み胃痛生活が始まったのだった。