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愛しいあの子が恋するらしい。

俺以外に恋するらしい。

700年も後の世で。


俺は人の子、50年もあれば死ぬ。


届かない。

届かない。

届かない。


恐らくは史上初で現状唯一の魔法を使える未曾有の天才。

俺達とは違う、遠く遙かな次元を見通し見据えている瞳。

万物を俯瞰する目の視線を射止めたい。

彼女の瞳に映りたくて仕方がない。


剣才を示そうとも知恵知識で他を凌駕しようとも、誰もが自然と俺の統率を望もうとも。

国を一つ、捧げようとも。

望む普及を果たさせようとも。


彼女は決して今を見ず、遙か遠くを見つめているのだ。


まるで目の前の現状なぞ些末事であるかのよう。

気を囚われるは遙か遠き届かぬ何処か。


今ここに居る、今共に居る、俺を見つめてくれやしない。


生きる時間が違うのだ。

彼女の本番は700年後なのだきっと。

……俺と生きる、今ではないのだ。


彼女は恋をするらしい。

700年後に恋をするらしい。

俺ではない、遥か未来の誰ぞに。


しかしそれは未来の話だ。

つまりは未確定。

彼女が恋する誰ぞについて、まだ何も決まっていないのだ。

産まれてすらいないのだから。


ならば話は簡単だ。



俺がソイツになれば良い。









仔猫のように丸まる魔女の瞳に胸に沸き立つ愛おしさ。

まるで最初からそこにあったかの様にするりと記憶が馴染む。直接見たら思い出す、そうなるように産まれてきたから。


「ああ、やっと逢えた。変わりないね俺のルク」


ルシウム王子は万感の吐息を吐きながら、魔女開祖を抱き締めた。

これには転生者共も驚愕である。


「ほあ!?」

「なぁにその鳴き声。10ルクルッツ加点」

「その謎単位……! まさか、その言い回し」



可愛い女性騎士達と楽しくランチしつつも警戒を怠らないハーヴェスト・レムレスはしっかと見てしまった。

いけ好かない生徒会長殿が魔女開祖のその言葉に期待に満ちた瞳を輝かせたのをハッキリと。

蕩けるような笑みを深め、僅か身を乗り出してうん、頷きと先を促すルシウム王子に魔女は素っ頓狂な声を上げた。


「……王家の遺伝!?」


んな訳あるか!!

ハーレム野郎は絶叫した。心の中で。

子供の頃からルシウム王子の前は良い子ぶった伯爵令息だったので、現代人する訳にはいかなかったのだ。


おいおいボケてんのか魔女開祖!

初対面で「やっと逢えた」とか言ってたのちゃんと脳にぶち込んどけよ! 俺はガキの頃から王子の取り巻きポジさせられたから知ってるけどその謎単位初耳だからな! ぜってえ今思い出したとかだろ。

だいたい、何なんだよ10ルクルッツって!


魔女開祖のクソボケ返答に秒でスン顔になったルシウム王子は一瞬間の思考の後、急に外面スマイルになった。


「言った本人さ。前世の事だけどね。俺だよアレン。君の恋人」

「えええっ!? ききききき記憶違いでは??!」


真っ赤な顔で爆発するルクルッツにアホほど労り深い表情を浮かべてみせるルシウム王子。とてもわざとらしい。


「……そっか700年は永かったよね。大丈夫だよ。俺はシッカリ覚えているから。俺達は恋人だって」

「ねねねねねつ造です! ねつ造! そんな事実はありませんっ!」

「何を言っているんだい、プロポーズまでした仲じゃないか。君にこの国建国捧げて求婚、忘れちゃった?」

「そこは覚えてますけど! でも」


「建国理由色ボケか! やっぱ魔女ボケてんのか?」


余りにもあんまりな建国理由に遂に声が出てしまったハーヴェスト・レムレス。

声の方を見、ふわりと安堵の微笑みを浮かべるルシウム王子。


「おやハーさん奇遇だね。丁度良かった君、証人ね」

「巻き込まないで貰えます? ぜってーコレややこしいでしょ」

「私ボケてないもん! 求婚ちゃんと覚えてるし!」

「求婚あったんかい。そんなら恋人じゃねーか。それを拒否とかかわいそ~だろルシウム殿下」

「いやいや違くて。それ違くて!」


余りの急展開に大混乱のルクルッツ。

のんびりぼっち魔法研究ライフの700年が祟ったのか、そもそもがコミュ障だからか、咄嗟に良い感じに反論できる言葉が全く思いつかない。今この場で誤解を解かないとトントン拍子に事態が進んでしまうって分かっているのに。ころころと手の平で転がされて何もかもがアレンの思いのままになってしまう。


ああ、まったく、アレンと話していると何時もそう。

なんて懐かしいの。


にこ、とそれはそれは麗しい笑みで、仕留める目つきで綺麗な紫の瞳を細めるルシウム王子。違う色、でも確かに彼の瞳そのものだ。


「でも俺達700年前に産まれたときからずっと一緒で、俺がきみの為にこの国建国して、求婚したってのは単なる事実だよね?」

「それはそうだけど、でも私達が恋人ってのは」

「ああごめん。婚約者だったね」

「格上げしてるぅ!」


もう駄目だ。何を言ったら効果的かちっとも全然頭が回らない。

猫目のお目々グルグルの魔女ルクルッツをジト目で見やりつつハーレム野郎がまとめに入る。ちょ、やめい。


「一応確認ですがルシウム殿下、つまり殿下の前世が建国王アレンで魔女開祖ルクルッツと婚約するような仲だった、という事ですか?」

「ちっがう! それ違うから!」

「真っ赤になって照れちゃって。可愛いね俺のルク。見ての通りだよハーさん。先程ルクルッツを一目見て思いだしたんだ」

「今までずっとやけに女性を寄せ付けなかったのはルクルッツ一筋だったからなんですね」


もうすっかり確信した様子で頷くハーヴェスト・レムレス。

んな訳ないでしょ! 違うから。それ違うから! きっと多分ヒロインちゃんの為だから!

ちょ、ほっぺたムニムニ止めて下さい! いや手ぇおっきいな!

その顔止めて下さい蜂蜜か?? 自分がメインヒーローの自覚持って下さい軟弱オタクメンタル軽く死ぬから。顔が良すぎて。




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