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「あの! 魔女開祖どの、ですよね!?」


道中、また声をかけられる。

もー勘弁してくれ。

今度は可愛らしい女の子二人。

ほぼおなじ顔に見えるから多分双子だ。ピンク色のショートヘアとツインテ。とっても大きいもちもちをお持ち。

制服姿から多分、王立学院生徒さん。

……見覚えはない。

メインキャラではないのは確か。2人という事はヒロインちゃんでもない筈だが、魔女開祖に何の用だろうか。


王族しか入れぬ箇所へと向かう怪しい行動を見とがめられてしまうは宜しくない。不審がられぬ様に立ち止まって相対した。


華奢な二つの身体は一体何に対してか怯えるように震えていた。そして問答無用で魔女の一礼をして魔術勝負を仕掛けてきた。


「ちょ、君ら、失礼だぞ!」

「有り難うハーレムさん。私は問題ないですよ」


いつの間にか出来ていた魔法による決闘の礼儀は今現在も現役だ。どちらかが魔女の一礼をしてしまえば勝負開始扱いなのはもうずっと欠陥ではと思っているが、一向に改善される様子は無い。不意打ちした者勝ちじゃん。

魔女開祖の打倒は若い魔女にとって強力な名誉となるだろう。負けたことはあんまり無いが。


「どうかどうか私達に負けて下さい、魔女開祖殿」

「可愛い顔で結構言うね」

「下手に無礼か??」

「私達は貴女に勝たないといけないの」

「勝たないと。勝たないと勝たないと。勝たなければ」


鬼気迫る表情。

何かにひどく焦っている。

双子達は全く同じの腕を絡ませ、全く同じ波長の魔力を互いに循環させる事で倍々に増幅させていき、その魔力を用いて陣を編み、超巨大な火球を生成した。

まるで太陽が目と鼻の先に急に発生したかのよう。


馬鹿みたいな大きさの火球。

王立学院の上空を埋め尽くしている。

上を見上げれば視界いっぱいに炎の玉、つまり王都が急に大ピンチ。


「ある種のテロでは??」

「いやいやいや。これは死ぬ。やばいやべえって。とりま逃げるぞルクルッツ」

「えー死ぬかなあ?」

「これだから700歳は!」


突如生じた火球から庇おうと反射的に覆い被さろうとし、デカさに無理と判断した途端に止めて、魔女を小脇に抱えて逃走を図るハーヴェスト・レムレス。


火球の規模は王立学院半分程度、当然ながらどでかい規模のクレーターが発生する余波は旋風だけで王都の屋敷を吹き飛ばしてその大半を更地にしてしまうだろう。

魔女開祖ひとり倒すのに王都崩壊させる気とか正気か?

魔女ルクルッツは双子への呆れを乗せた吐息を吐いた。


「まき散らかすのは二流のすること」


ぱちん。

そんな音で指を鳴らした途端、上の視界全てを占めていた火球が消える。小脇に抱えられたまま、ルクルッツはすすいと指先を踊らせる。


「え? はぇ?」

「はああぁ??」


双子たちにとっての絶対の必殺が、ただの指ぱっちん一つで消滅させられてしまった。可愛らしい顔なのに大きく口を開いて唖然としている。


「場所を考えて下さい。学院半壊させる気ですか?」


人口密集地で何してるんですか。馬鹿ですか。

でも。


なにあの魔術おもしれー!


腕からすとんと身を下ろした魔女ルクルッツはその瞳をキラキラと輝かせた。


見えたのは瞬時だが、もう脳髄に刻み終えている。


シンプルかつ洗練された構成で編まれた炎の魔術陣。

新しい発想が生み出す思わぬ箇所の省略、同意味の重ね編み、若くフレッシュな発想から成る大胆なアレンジ。

扱いやすさを司る補助的な陣構成を極限まで省き、ただひたすらに火力に特化、陣に行き渡らせる魔力効率の低さは、全く同じ質である双子魔力の双響増幅により補っている。扱いにくさは二つの高度な技量のゴリ押しで。

普通の一流なら発動さえ不可能だろう。高レベルの双子魔女だからこそ行使できる巨大火球の魔術。

扱い難さピカイチ火力馬鹿の馬鹿みたいに楽しい魔術だ。


クソ広敷地の王立学院の半分くらいをクレーターに出来るぞ最高ですね! 破壊しか考えてない馬鹿の作る魔術ですね最高ですね! 私こういう魔術大好き!


これだから人生は楽しいのだ。

まだ、初見の魔術がこの世に存在している。

だから。


「……理解した」


全く同じ火球が生じる。

少女達の全力を賭した必殺が、いとも容易く模倣される。

2人の人生の殆どをかけて磨き、作り上げた研鑚の結晶のような魔術が、陣は簡潔でも消費魔力が膨大で扱い難い、誰にも真似なんて出来るはずのない必殺が、すっと児戯のように軽く再現されてしまった。

より濃密な魔力が込められ、より強大な火球として。

まるで双子の人生の全てを嘲笑うが如く。

少女達は愕然とへたり込んで、より凶悪に洗練され模倣された巨大火球を見上げる。


双子魔女は今までずっと天才だった。

ぶっちぎりの最上天才。誰も届きやしない才能だと。

周りはみんな馬鹿に見えたし、誰も双子を挫折させてくれなかった。挑まれてはぷちりと軽く蹂躙する日々。


だからこの問題も、この才能で解決できると思っていた。


魔女開祖だなんて古びた化石、最新の天才でもって打ち負かせると、心の何処かで思っていた。

私達は悲劇に見舞われた才能、勝たねばならない。

天は私達を助けて然るべき。

だって私達は可哀想で、勝たねばならないのだから。

勝ったらきっと絶対、宮廷魔術師。

そしたらきっと、二人でずっと一緒に居られる。


でも何だろうこれは。

全く意味が分からない凄技だ。

理解の取っかかりすら思いつかない、遥か雲の上の技量。


勝てない。

もう駄目。

きっとこれから燃やされるのだ。


魔女開祖。

同世代の見た目の少女。

双子達と何にも変わりが無いように見えてしまうのに。

700年の凄みを感じずにはいられなかった。

魔法の開祖はにっこり笑う。


「良い火力。でも、広げまくりは余剰だよ。1人を倒すには1人分のスケールで十分でしょ。火力はそのまま、一人分のスケールで」


双子は思った。

馬鹿なことを言っていると。

それは確かに理想だが理屈倒れだと。

いくら魔女の開祖でも。


しかし眼前の現実が積み重ねた理論を裏切る。

膨大な炎に込められた魔力はそのままに、火球はきゅっと小さく圧縮される。指先で摘まめるような小ささに。


双子魔女はもう叫ぶしかない。


「技術力バカ!」

「ヘンタイ技術!」

「失礼ですよ」


巨大火球は当然ながら馬鹿みたいな量の魔力を必要とする。膨大な魔力で中身たっぷりなのがあの火球である。

あれ以上は大きくも小さくも出来ないモノの筈だ。

それを縮めるとかアホの発想である。

だって普通に考えて不可能なレベルの技量が必要だから。


その上ちいさなそれが、10も20も生成された。


もうポカンとする事しか出来ない。


「お。良い感じの作れた。そぉ~れ☆」


ライスシャワーか? みたいなノリでふわぁっと豆粒火球がそこら中に振りまかれる。

繰り返すが、一つ一つが一つで王都の空を埋め尽くせるレベルの火球と同じ魔力が込められている物体である。

超絶危険物がちまっとしたサイズとなってばらまかれている。回避する余白を塗り潰すようにビッシリと。


何だそれ意味分かんない!

ちょっと魔女開祖甘く見すぎてた。

勝てるかンなもん!


双子は意見を聞き合う事すらせず、全く同時に叫びを上げた。


「「こんなのゼッタイ無理! 参りました、ごめんなさい!!」」



「……勝負ありだな」


縋り合ってみぃみぃ泣き叫ぶ少女達を魔女開祖から庇うように前に出たのはハーヴェスト・レムレスだった。

怯えまくった双子魔女らを労るようにぽんぽんと頭を撫でる。


「えー発動みたかったのに。これ超火力火柱あげるんだよ。リソース全部一人分に集約。並みの人体ならジュッってなるよ。無駄がなくて良い魔術でしょ? ね、ちょっと食らってみない??」

「お前馬鹿か双子ちゃん死ぬだろ!!」

「え、しぬ?」

「「死にます!!」」

「そうなの?」

「お前基準で考えるなよ魔女開祖」

「そっかーじゃこれ消すね」


簡単そうに大量の豆粒火球を消してのけたが、それだって尋常ではない魔術技術の粋みたいな技である。普通は発生した魔術は消せない。どかーんと発動させるしかないのだ。

すいっと簡単そうに為される神技術に双子達はぽかーんと見上げあるばかり。


「え? きみら発生させた魔術消せないの?」


特に煽る意図もなく素でこれを言うのが魔女開祖である。


「うううううぅこれだから天才は!」

「簡単そうに言っちゃってぇぇえ!」

「じゃあ何考えてあんな馬鹿火球魔術だしたのさ」

「「テヘッ☆」」

「馬鹿じゃん」

「まー馬鹿だけどさ。でも何か理由ありそうだったよな? 

 どした? おにーさんに話してみ?」


うるうるとハーレム野郎を見上げる双子。

イケメンぶった爽やかっぽい笑みのハーレム。

コロリと引っかかって頬を赤らめ縋る目になった双子達が何やら哀しき過去を語り出してる。


魔女は特に興味は無い。

この世界で良くある悲劇であった。

700年も生きたらそんなの飽き飽きだ。政治体制とか思想の変革は特にしなかったので。

だってこれこそ原作世界。

理不尽込みの世界観なのに現代日本人の感性で勝手に歪めて良いのか分からなかったのだ。

魔女開祖の威光のお陰かこちらに被害は無かったし。


ハーヴェスト・レムレスは瑞々しい感性で以て憤った。

伯爵子息としての身を明かし、双子の庇護を提案していた。この世界において、つまりはそういう意味合いだ。双子も理解出来る年齢ゆえに顔を赤らめ嬉々として頷き了承した。共依存気味の彼女らは、産む為の望まぬ研鑚の断絶と別離を強いる婚礼よりも、ハーレムにて一生ぴっとり一緒にいたいらしいから、共に娶られるのに異存は無いらしい。

さらっと双子を両腕に抱き締めちゅっちゅと頬にキスしていらっしゃる! 双子魔女は互いの指を絡め合いつつも、とろんと目元を赤らめ嬉しそうに身を任せている。陥落はっや!


あいつ、ちゃっかりハーレム始めてっぞ!

魔女開祖がもたらした絶望から救い主ムーブの落差は効くだろうな。


「レムレス伯爵家の王都別宅はここな。これ見せたらウチの者がちゃんと対処すると思う。俺の魔力印も付けとくからな」

「何から何まで有り難うございます」

「このご恩は一生忘れません」

「「私達のコトお求めなら何時でもお呼び下さいねハーレムさま……♡」」


「呼ばれなくてもくっつきに行っちゃいますけど♡」

「またすぐ私達のコト甘やかしてくださいね♡」

「ん。すぐ自由になって俺のとこに戻っておいで」

「「はい。ハーレムさま♡」」


うへぇ関わり合いたくねー。

ていうか呼び名ハーレムで良いんだ??


双子魔女は自由になりに? レムレム伯爵家のお屋敷へと行ったらしい。全く私的にただの時間のロスである。



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