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王妃マリアリアは誰がどう見ても様子がおかしかった。

王国の薔薇を讃えられし美貌が僅かに色褪せている。麗しき微笑みと、凜と優美に輝く瞳に焦点が無いからだ。どんなに整った容貌だろうと表情がなく、瞳に輝きが無ければ台無しなのだ。


魔女開祖ルクルッツに“奇跡”を感じ取れる能力は無い。だがルシウム王子を信じるならば、彼女のはその影響下にあるらしい。


核は“奇跡”遂行のために様々な行動を取る。

そもそも核保有者が“奇跡”被害者と同じパターンと違うパターンで変わってくるが後者の今回の場合で想定されるものと言えば。

比較的簡単な“奇跡”遂行なので手助けする必要を感じずとにかく隠れてしまう場合。効果発動状態を維持し続ける為に、ひたすら持ち主を変更させて逃げ回る場合。持ち主を第二の“奇跡”被害者のように“奇跡”を実現させる為の駒として利用する場合。

残念ながら今回は最後のパターンであるようだ。


魔女開祖は靜やかにルシウム王子の傍に寄るとごく小さな声で乞うた。


「アレン、陛下に破壊許可を頂く伝令を」

「了解だ」


形状らしきものが無い、最速だけを優先させた王子の伝令魔術が玉座に飛んだ。


「どうされましたか母上」

「お出かけなさい。彼女に出会いなさい。そして午後のお茶に誘うのです」

「だから、彼女とは誰ですか? それに私にはルクルッツが居るのですが」

「それの何が問題でしょう。貴方は彼女を愛すのです。そうでなければなりません」



会話になんねー。やっぱ“奇跡”キメてんなこれ。


そんな目でハーヴェスト・レムレスは魔女開祖を横目見た。

しかし魔女開祖ルクルッツは非常に強ばった表情をしていた。


おいおい魔女さん、この場面でショックを受けて身を引くモードになるのは勘弁な。


俺に愚痴るくらいは良いが、ルシウム殿下が直接その言葉を浴びせられるのはあんまりというものだ。

それは愛した甲斐がない。

勿論、愛は見返りを求めるものじゃないけれど、それでも無条件で無限に湧いて出るものじゃない。


700年前からどれ位の時間を懸けてか、この世界のクソであるらしい神々のトップ・創世の女神の、クソったれに決まっている試練を乗り越えてまで、魔女開祖の初恋相手への転生権をもぎ取った男だ。

そこまでの献身的な愛を示す男の愛情を信じずに、男以外の言い分を受け入れて秒で引き下がるというのは、ルシウム殿下に対して余りにも情がなく、失礼というものだ。

それは謙虚と言いたくない。

ここまでされて愛されているという自覚がないのは、もはや失礼の領域だとハーレム的には思うのだ。


逃げるな。

嫌じゃないなら自信を持って愛されてるという顔をすべき。

その愛を盾に障害の言いなりになるなと訴えたい。

お前を廃そうとする者の言い分を聞くのは謙虚とは言わないのだ。


先程までルシウム王子のすぐ傍に寄り添うように立っていた癖に、マリアリア王妃が登場して明らかに正気を失っている様子のアレな発言を受けた途端に、ススス……と王子から離れていった。


ルシウム王子も言葉の通じぬ母王妃相手に不毛な時間稼ぎ会話の相手をしてやりつつも、愛する女が自分から離れていくのを察知している。

にこやかっぽい表情を浮かべているが、あの目は少し傷付いている。幼馴染とも言える間柄だからハーヴェストには分かるのだ。同じ予測に至っていると思われる。魔女より長い付き合いだから、こういう場面ではやっぱりルシウム王子の肩を持ってしまいたくなる。


すすす、とさらに離れていく魔女。

お前ホント空気読めよ。

何さりげなく出口側の壁に寄ってんだ。

部屋の外に逃げ出す気か? お前マジで人の心が分からんタイプか?



「どうして? 彼女は男性全てに愛されるべきなの」

「どうしてはこちらの台詞です。まず最初に応援して下さったのは貴女じゃないですか」

「でも彼女は愛されないといけないのよ?」

「だから彼女って誰ですか? 何処のどいつなんですか? 名前は? 出自は?? 知った上で仰ってるのですか母上」

「なまえ……? ヒトの固体名などどうでも宜しいのではなくて? 誰もが彼女を愛したら見分ける必要などないのだから」

「うへえカミサマ視点……。道理で誰も彼も名前を呼んでない訳だ」

「母上。貴女は名前も知らぬ相手を息子に愛せと命じるのですか」

「……あれ? え? ええっと、その……でも、愛さないと? あい……」



その時。

ルシウム王子が放った伝令が最大速度で帰還してきた。

伝令魔術はたったの一言伝えて消えた。


『許す』


この場の全てが知る王の声。


ぱぁんっ!!


途端に鋭く水が飛ぶ。

それは単なる水でっぽうとも言える水の基礎魔術だった。

ただし魔女開祖が振るうとなると話は違う。

容易く頭蓋を粉砕貫通できる程度の威力になってしまう。

圧倒的な技術により圧縮、高度に統制された魔力の水だ。

強固とされる“奇跡”の防護なんぞ魔女の前では絹のよう。

ただの基礎で十分だった。


通路側の壁から青空映す大きな窓へ。

発射位置、角度、ともに完璧。

移動はその為の位置取りだったのだ。

王妃の首の薄皮一欠たりとも傷付けず、水の魔術はただ金の宝玉だけを粉砕し、窓へと消えた。

魔術ガラスも小さな穴が空いたのみ。

直ぐに延ばして修復できる事だろう。



「うっわ、手加減ナシかよ」

「まさか。風じゃないのでナメプです」



“奇跡・愛され”の核はここに破壊された。




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