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ハーヴェスト・レムレスはフィールディア王立学院の学生寮で生活していた。それも高位お貴族用のひっろいお部屋でだ。応接室と客室なんかがあって、部屋内最狭らしい応接室だけでも魔女開祖ルクルッツの寮の部屋内で1番広い寝室くらいある。さすお貴族様。
そんな感じだから何の用途かよく分からないが、客用の寝室すらある。ちょこちょこある女性物の小物的に、多分ハーレムメンが頻繁に泊まっている。可愛い系から綺麗系、経済書なんかもあって統一感がまるで無いのは、それぞれが別の女性が持ち込んだ私物だからなのだろう。
現在ヒロインちゃんがぶち込まれているのがその客室である。情報更新がなければ恐らく、“奇跡の核”からの伝達をほぼ遮断出来るタイプの防護魔法を展開している。一回使い切りタイプで一度発動したら3年ほど同じ効果を発揮し続ける魔法だ。
外に出られなければヒロインちゃんは正気でいられる筈だ。ただ今気絶中だが。
客室にはお風呂もトイレもあるのでかなり長い事籠もれるだろう。水魔術と炎魔術による製鉄技術の向上のお陰でこの世界の文化水準は中世ファンタジーっぽい見た目以上に高い。
当然ながらハーレム野郎のハーレムメンが護衛兼監視兼生活介助のために常に交代で付き添う事になっている。
あ、靴下騎士の婚約者ちゃんだ。恐らくは元が付くだろうが。猛者側の女性騎士で、ヒロインちゃんのライバル兼親友候補の1人でもある。
この子もハーレム野郎の毒牙に掛かったのか。
ぽわぽわとお花を飛ばしてハーレム野郎に甘えている。
彼女には栄光に満ちた色んな未来があったのだが、ハーレム堕ちか。幸せそうだし、まあ良いか。
そんなハーレムメンの女性騎士に護衛されつつベッドに横たわるヒロインちゃんを見つめながら、ハーヴェスト・レムレスは魔女開祖ルクルッツに問うた。
「この子の“奇跡”を排除しないと。そしたら取り巻き男達も正気に返るか?」
魔女はさらりとした声で答える。
「正気よ」
「は?」
「取り巻き男達は恐らく正気」
「テンプテーション的な何かじゃないんだ?」
空気中の水分をふよふよの水クッションにして、宙に浮べて椅子代わりに腰掛け、腕を組み、重々しく頷く魔女開祖。
「“奇跡”のクソさを知る私的には、この“奇跡・愛され”って十中八九、その子に愛される事を強いる効果だと思うんだよね」
「だからそれ、ヒロインちゃんに野郎共が皆惚れるって現象じゃねーの?」
「違う。ヒロインちゃんに愛される事を強いる」
「んん??」
「ヒロインちゃんに、誰も彼もに愛される人間になるよう強いる」
「は? ええっと、つまり、自力でモテモテになる様ガンバレって努力を強制するって意味?」
「そう。不思議パワーとか出来る癖に与えてくれないからマジでクソ。強制的に頑張らせるのばっかり。しかも人間側は頼んでないのにある日突然押しつけてくる。神は人の死に物狂いの努力がお好きみたいだから」
「シンプルにカス!」
「ほんそれ! しかも超レア現象だから実情知らん人間側も有り難がるから“奇跡”被害者マジ可哀想」
「とりま“奇跡の核”を探さねーといけねえ訳だが」
「パッと思いつく候補はこれくらい?」
魔女開祖の胸元を美しく彩る紫の宝玉。
ルシウム王子から贈られたペンダントだ。
彼の瞳と同じ色をしている。
「殿下はその宝玉は強力な加護があるって言ってたらしいな。つー事は“核”じゃない?」
「“奇跡の核”普通に壊すの簡単だったから防御効果とか無いんじゃない?」
「それおま環じゃないよな?」
「ちょ、時代が違うワード使うの止めて貰えます?」
「ごめんばーちゃん」
「失敬な! 私享年17ですよ? メンタル17!」
「俺19!」
「あっこれは私言って良いですよね? そうよそうです良いはず言います! じじい、じゃんっ!」
魔女開祖はここぞとばかりにビシッとハーレム野郎を指さして、ウッキウキで宣った。
「うっせー実質700オーバー」
「私メンタル17ですから! 本当に! 本当に!」
「はいはい。えっとおま環ってのは、お前の環境だけで起こってるとかそんな感じのスラングな。お前、馬鹿火力なんだから加護の上から破壊してて、防御性能に気付いていないとかなんじゃね?」
ハーヴェスト・レムレスの言葉を受けて魔女開祖は色んな“奇跡”や核について回想しまくった。“奇跡”の振るう魔術っぽいものは大体金ぴかエフェクト。その効果はほとんど理不尽。
確かに先程ヒロインちゃんは金ぴかの防壁を展開させたけど。ああいう感じの効果が“核”にも?
わからん。
何も分からんまま魔法ですり潰してたのかも?
「うーん“奇跡”分からん……そうかも知れない。でもあんまり解析できてないから確証持てない……。もしかしたら私にとっては紙な防壁があるのかも知れない……。でも解析できないから分かんない。とにかく順序だった仕組みじゃ無いからモヤモヤするんだよね“奇跡”。魔法・魔術じゃできっこない事、謎理屈でぽんぽんしちゃうし。多分アレンがルシウム王子に転生したカラクリも“奇跡”だよ十中八九」
「ん? そんなら殿下の転生分の“奇跡”にも核があるって事か? まさかソレじゃないよな?」
「まさか! さっきからハーレムさんコレを“核”認定しすぎ! アレンにとっての命そのものを他人に渡すわけ無いじゃん」
「いや、あるだろ。殿下ならやりかねないと俺は思うね。やっべ、“核”っぽいもの気軽に壊せなくなったじゃん」
分からん。
私も分からんし、ハーレムも分からん。
「私達の中で“奇跡”に1番詳しいのは多分アレンだよね?」
「今日は殿下は執務室缶詰だってさ。行くか、王宮」