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「当“奇跡”はあらゆる男に愛されなければなりません」
嫌な予感がする。
即座に防護魔術を編み上げハーレムに対し展開させた。
「当“奇跡”はあらゆる男に愛されるという状態に致します。ご協力下さいね」
どぉん!
強烈な魔力がこもった光柱がハーヴェストを押し潰す。
のを、私の防護が守り切った。
やっぱりハーレム殺す気だったか。
転生者だからか、“奇跡・愛され”とでも言うべき存在がハーレム野郎を影響下におけないと踏んだ。
だから殺そうとした。
「あらゆる男」の例外である男を殺せば問題は解決するから。“奇跡”とはそういう思考回路をしている。
「なぜ? “奇跡”は遂行されるべきです」
「ったく! これだから“奇跡”ってヤツは!」
「は? なに? 意味わかんね! とりま魔女サマ有り難う!」
「邪魔です“奇跡”! その子を解放しなさい!」
昔創った“奇跡”払いの魔法を少女にぶつけようとする。
しかしキラキラ黄金に輝く防護障壁が展開される。
何それ初見! ちょ直ぐに消すな解析させろ!
“奇跡”系統、理不尽かつ問答無用すぎ。理論もへったくれも無い現象! はら立つわ~。いつか魔術再現してやるんだから。
“奇跡”払いの魔法は多少かすった様子みたいだが、“奇跡”の駆除には至っていない。
「打ち合いなら負けませんよ。海のようなと言われた魔力量、“奇跡”程度が対抗出来るとお思いか?」
「魔力解析……解析結果・魔女開祖……王家の庇護者……当“奇跡”は魔女開祖との敵対を許可されていません」
「どの神の“奇跡”か知らないけど、王家贔屓の創世の女神に睨まれるからね、残念ね。んならさっさと消えてくんない?」
「否定。敵対せずに“奇跡”を遂行致します」
「ぶっ飛ばしますよ?」
「当“奇跡”ははーう゛ぇすとれむれすの破壊を中止します。当“奇跡”は魔女開祖との和解を望みます」
「悪いけど、“奇跡”は見つけ次第壊す主義でね」
「不可能。当“奇跡の核”はここにはありません」
「ヒントをどうも。直ぐに探して壊してあげる」
少女から急激に“奇跡”の気配が消えるのをハーヴェスト・レムレスは知覚した。魔女開祖はそれを感じ取れない。
「たすけて……ください」
不利を見て哀れな本体の少女に慈悲を乞わせて生き延びる気だな。“奇跡”っていつもそう。そんな姑息さ見飽きてんだわ。
本当にくたびれきった、疲れ果てた様子の少女だ。
フラフラとか弱い足が何処かへ向かおうとしている。
「出会わねば。出会わねば。私はたくさん、愛される……愛されなければ」
ああ、でも。
なんの為に?
わたし、もういや。
つかれたの。
「でも、それでも出会わねば。誰も彼もに」
魔女開祖ルクルッツは容赦なく手刀で少女を気絶させた。
ぽーいとハーレム野郎に投げ渡す。
難なくキャッチのハーヴェスト・レムレス。
「“奇跡”てやべーのな」
「この世界の奇跡はマジでクソだからね。人間のこと唐突に気に入って、ささやかな願いを神様視点で勝手に解釈して問答無用に押しつけてくるからね」
「うへ~。カスじゃん。そんで“奇跡の核”って?」
「神様世界から人間界に奇跡通信させる為の端末って感じ。壊せば干渉は消える」
「どんな見た目とか分かるのか?」
「色々すぎて腹立つよ。基本は宝石っぽい見た目」
「殿下から貰ったペンダントの宝玉だったりして?」
「まさか! って言いたいけど分かんない」
「感知できねーの? 魔女開祖どのにも苦手はあったか」
「正直、私は“奇跡”はクソだと思っているし、この世界の神様マトモに信仰してないから、奇跡を感じる能力マジでゼロなんだよね」
「ああ、そういう感じ? じゃあ俺もあんまり分かんないかも。でもさっき、この子から“奇跡”の気配が消えた感覚は分かったかな」
「じゃあ協力頼むね」
「もち! 可愛い子はみんな幸せであるべきだからな!」
やつれている。疲れ果てている。
恐らく余り眠れていない。
攻略キャラと会えない時間も無駄にはせずに、無茶なステ上げ、知識の詰め込み。
攻略キャラによってまるで印象が違うと言う事は、誰に対してもその人に好まれる顔をして、本来の人格なんて押し殺して居るという事。
それは酷いストレスだろう。休まる時すらステ上げのみに費やされ、一時たりとも落ち着けない。
食事もおろそか。
愛される為のあらゆる活動の為に、食事は軽視されがちだった。
けれどその美貌は異様なまでに輝かんばかり。
まさに奇跡の所業だった。