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ルシウム王子とヒロインちゃんは今の所出会っていない。
王子が多忙すぎるというのもあるが、彼は家族とルクルッツ以外の女性との接触・遭遇を極力避けている様だった。彼が狙って狙い通りにならない事は殆どない。彼の側妃候補を選ぶという建前だというのに、彼女らはルシウム王子を見かける事すら出来ていないようだった。
当然ながら、ヒロインちゃんも。
半透明化する空飛ぶ仔猫を使役する『魔術・猫の目』を行使して常に彼女を監視はしているから、その行動や発言は把握している。
ヒロインちゃんはこちらに対して余りにも何にもない。
好意的、敵対的、そのどちらも感じられず、そもそも一切接触がない。ルクルッツの猫イベも進行していない。
あるいは平和的なタイプなのだろうか。
魔女開祖ルクルッツを含む、女性ライバルキャラと友好的に、友達になろうとかもない様子だし、敵視もしていない。ましてや排斥なんて誰1人に対してもやっていなかった。
そんなんだから、こちらも逆に何も出来なかった。
だって攻撃されたとか、イジメに遭った訳じゃないのに、何かするのもおかしいし。
と言うかこういう時に魔女サイドとしては一体何をしたら良いのだろうか?
そんなこんなで、いつの間にか。
「愛しい人、君は僕が護る。だから靴下くれないか?」
「私の可愛い天使ちゃん。いつだって無邪気に微笑んでてね。君の笑顔が私のイマジネイションとなるのだから」
「なに出歩いてんだ閉じ込めるぞ」
「だぁいすきだよ♡ また斬り合おうね☆」
「君の癒やしの力がこの世界の治療を変える! 共に行こう医療の道を!」
「この世界の魔術はマジでクソ。お前の理論の方がムカつくけど俺は好き。もっと理論で殴り合おうぜ」
超キョダイ逆ハー勢力、爆誕である。
どいつもこいつもヒロインちゃんに惚れている。
こっわ。洗脳かよ。
事態膠着しまくってるし、その間に逆ハー進んでるし、私は一体どうしたら良いの。
私に対して害もないのに逆ハー妨害しておくべきなのか?
一体どんな言い分で?
というか逆ハー妨害ってどうすれば良いんだ?
こっちに惚れさせる?
いやいやいや無理、コミュ障には出来ないし、気持ち的にもやりたくない。
それに今の所、王子様のお妃になる予定だし。
迂闊な事は出来ない立場。
でも私が手をこまねいている内に、逆ハー勢力は凄いペースで増大中。
でも何なんだろうね、その勢力で何かするかといったら、別に何もしていない。
爛れた生活を送るでもないし、魔王を倒しに向かうでも、異空間に向かうでもない。王家の権力を狙ってるとかでもない様子だし、知識や武の追求を共にしている訳でもない。溺愛されるのに「はわわ」している様子もない。
というか、何にも楽しそうじゃないのだ。
ただひたすらに効率よく男共のトラウマを癒やし、好感度を稼いでいくだけ。攻略終了したら高好感度を維持したまま次の攻略キャラに向かう。唯それだけのマシーンにすら見える。
何なんだろうあの子。
何が楽しいんだろうあの子。
剣を鍛えている。それは剣ステ要求するキャラの為。
魔術理論学のステを上げている。勿論魔術キャラの為。
そんな感じであらゆる研鑚、あらゆる行動が攻略キャラの為になっている。
剣、楽しまないの?
そんなに強くなったのに。
魔術楽しくない?
私は好きで堪らないけど、それも男の為に習得したの?
魔術理論、そつがなさ過ぎ。喰った知識を自分を一切出さずに出力している。手堅く高度、だけど何にも尖ってない。若さがまるで感じられない。
私的に面白くない陣構成。
陣から人格、まるで見えない。
こだわり嗜好、執着、得意、見てて何にも分からない。
びっくりするほど無味乾燥な魔術陣を描く子だ。
嫌々ではなさそうだけど、好きって訳でもなさそうだ。
せっかくの学院生活でもあるのに。
友達も作らず、ただひたすらにイケメン達の機嫌を取ってる。そして彼らに囲まれ愛されている。
ほんとうに、何なんだろうあの子。
「いや~愛されてますなぁ」
こちらは余裕のハーレム野郎。
ハーレムは相変わらずハーレムしてるし、ヒロインちゃんは爆速で逆ハーしている。転生人、害悪が過ぎんか。
ん? とさも好青年っぽい仕草でこちらを伺い、可愛い系気取ってんのか、あざとく首を傾げるハーヴェスト・レムレス。何か腹立つな。
丁度良くただ今、次の男狙いか男達に囲まれていない。こちらのハーレムメンも居なかったけど。
これは滅多に無いチャンス。
何かアクション起こそうべき。
もーどうしたら良いのか、アホな私の脳みそでは浮ばんから。
とりまハーレムにはハーレムをぶつけんだよ!
「ゆけっハーレム! 対消滅だ!」
「ふっざけんな! 悪あがくぞ!」
それでもヒロインちゃんに接触しようとするのはホント良い奴。多分ハーレムメンバーに加えようとしているだけだが。
ハーレム野郎がヒロインちゃんの前に立つ。
「こんにちはお嬢さん」
「あなたは……?」
相も変わらず絶世の美少女だ。
ふわっふわのピンクブロンドに丸い曲線の薔薇色ほっぺ、うるりとした赤い唇にあどけなく丸まる桃色の瞳、なっがい睫毛。
「俺の名前はハーヴェスト・レムレス。ちょっとお話──」
まん丸の瞳が見開かれていく。
瞳孔は小さく、焦点はなく。
そして小さく、いやに平坦な口調で紡がれる言葉。
「知りません。知りません。その存在は認識しておりません。情報にありません。追加情報の認証許可を願います」
「…………は??」
「はーう゛ぇすとれむれす。がいとうじょうほう、ありません。当“奇跡”は遂行不全状態にあります」