12
私は未来の王妃であるらしい。
アレンの、ルシウム王子の妻になるらしい。
…………本当だろうか?
思ったよりもこの心は躍らない。
強固に築いた防波堤が良い仕事をしている。
どうせヒロインによって覚める夢。
原作通りに。
便利な言葉だ。
私は揺らがず、永久を生きる魔女で居られる。
アレンに心が捕まったりなどしないのだ。
それはそれとして現実は着実に私を王妃に仕立て上げる。
王太子の鶴の一声は学院中に響き渡り、生徒の誰もがもうすっかり未来の王妃と言う目で私を見ている。
王太子妃予定には様々な問題が付きまとう。
故にこの私でも護衛がいるという体裁が必要らしい。
ハーヴェスト・レムレスは最適である。なにせ人手と女手が大量に着いてくるのだから。
王子様が巻き起こした初手・宣言の騒動を何とかしのいだ昼下がり。魔女ルクルッツはハーレム達のランチタイムのご相伴に預かっていた。
料理上手がハーレムメンにいたのか、めっちゃ美味しいのだが、何だか微妙な気分になってしまう。
作り手に感謝をのべ、その後魔女は口を開く。
「絵面がハーレム入りでホント嫌」
「何で? 俺は何時でも歓迎だぜ?」
「ぜったいにイヤ!」
「おいおい強く否定するなよフラグにしか見えねえぞ?」
「ぶっ飛ばしますよ☆」
ハーヴェスト・レムレスのやべえところは王太子妃(予定)をハーレムメンに加えても問題ないと思っているところである。普通に打ち首者の所業では??
貴族令息としての禁忌感がまるでないらしい。そんなところは現代人すな。
ハーレムメンバーのかわいこちゃん達はちょっと不気味なまでにハーレム野郎に忠実で、心酔しきっている。マジで一体何をされればこうなってしまうのか。
つまり、ハーレム野郎にぴっとりくっついたりしている現状、我々元・現代日本人の会話を近くで聞いているというのに彼女らは何も揺らがないのだ。
思考力はあるらしいのに、現代人会話しててもハーレム野郎を見つめるのに忙しいようだ。
私達の会話に加わる事もなく、交互に頭を撫でられてうっとりごろにゃんしている。乞われれば専門知識を提供したりするのだが、マジでどういう心境なのか分からない。
私はこれでもちゃんと魔法で観測しているが、良く増えているハーレムメンの誰1人として現代人の会話についてを外部に漏らす事も、ハーレムメン同士でこの事について何か会話をしている様子もない。
ハーレム野郎の素敵さ()についてきゃっきゃと盛り上がったり、正妻の座を巡ってゆるいキャットファイトをしている位だった。後は本業に関する研鑚している。
こっわ。
魔女は深淵を除くつもりはない。
要するに女を侍らせてても普通に前世知識についての会話をしても問題ないと言う事だ。
「俺は別に共有ってのもありだと思うんだよね」
「ねーですわ。そんな事よりヒロインちゃん見つけた」
そして私は出来る限り忠実に彼女の発言を再現して見せた。逆ハー最高効率プレイでもしてるんかっていう、あの発言を。
「…………いや転生者はもう良いよ。俺ら2人で十分じゃん」
「やっぱハーレムさんもそう思います?」
「明らかにRTAやってんじゃん」
「R……?」
「リアルタイムアタックですよおばあちゃん。ゲーム最速プレイ的な意味合いね」
「うっさいですよハーレム野郎。まあでもヒロインちゃんは明らかにそのRTAやってる感じがしますね。最速で最高効率で攻略キャラに出会うの目指しているみたいでしたから」
「現代人じゃん!」
「しかもこれ逆ハーエンド狙ってますよ! ぜったい!」
「お前謀殺されるじゃん」
「私が死んだらあのやべえ黒歴史共を燃やし尽くすの、ハーレムさんに託しますね」
「勘弁してくれ。俺は解錠魔法のヘンタイ技術も王族入りも出来やしねーんですよ」
「でも私死ぬし」
「諦めんの早すぎるだろ。だいたいルシウム王子がそんなの許すか?」
「そこはホラ、ヒロインちゃんに惚れるだろうし」
「あの700年もののやべー男が? お前以外に??」
ハーヴェスト・レムレスは咳払い一つ、きちんと背筋を伸ばして魔女開祖ルクルッツをじっと見据えた。
「元アサシンの娘を交代で常に付けておくから心配することねーよ。ヒロインちゃんにも密偵付けておくから」
にこりと安心させるような笑みを浮かべる。清々しく、とても爽やかに見える微笑みだ。
「お前は俺が護るから」
真摯に紡がれる誠実っぽそうな言葉。
魔女開祖ルクルッツは心の底からドン引きした。
知らん内にハーレムメンのバリエーションが増えている。
「いやこっわ」
「何でだよ!」
まあ、これで。
ハーレヴェスト・レムレスは不敵に笑う。
「お前の事は俺がぜってえ死なせねーよ」
「私の方が強いっての」
「でも心強いだろ? 頼る癖、付けとけよ」
「?? 何で?」
「お前の1人が終わったからだ」
きっぱり断言されて魔女は淡く困惑しそうだった。