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魔女開祖ルクルッツの猫イベントその1。

その内容はごくシンプルだ。

物語開始1日目以降に学院寮の中庭にアイコンを合わせて主人公ちゃんを向かわせる。そうするとイベントが起こり、死にかけの猫を発見するのだ。

発生条件も発生期限もなく、要求好感度・要求ステータスもない簡単イベント。


ルクルッツは窓から手だけをのぞかせ軽く唱える。


「『癒やしの光』よ」


1階の窓、その直ぐ下方にて瀕死に喘ぐ猫の身体が柔らかな緑の光に包まれる。

ごくシンプルな、何の面白みもないごく普通の回復魔術。

原作通りに創ったから仕方がない。


「にゃ……」

「よかった、猫ちゃん!」


猫はヒロインちゃんを命の恩人としてその忠誠を尽くす事になる。猫イベが進めば言葉が通じるようになったり猫耳尻尾を持つ人型になってヒロインちゃんに惚れる事となるだろう。


このイベントにおいて魔女開祖は指先だけの登場だ。


原作に従うならば、彼女と出会う事もその名を聞く事、情報を収集する事も難しい。


よって尾行だ。

空間の位相をずらして姿を見えなくして戦闘回避できるディメンジョンスリップとか、いつか魔術再現してみたいけど空間系は扱いが難しい。

だから妥協して極力目立たなくさせる系統の風の魔法をそっと一振り。

私のフィジカルはクソ雑魚ナメクジだし、身のこなしはゴミカス、でもこれで多少は大丈夫なはず。


昨日も使っておけば良かった。

でもまさかルシウム王子ことアレンが唐突に王家秘書庫に来るとは思わなくて。一体何の用であそこに居たのか。

コレ使っておけば私とアレンの再会を回避できたかも知れないのに。

原作では……ってあれ?

原作はいつの間にか魔女開祖が王子に惚れてたから、物語前に出会っておくのは正解なのか?

分からん! アホに高度なコトさせないで欲しい。



さて、ヒロインちゃんのお名前は?

デフォルト名セレンで良いのかな?

そしてどんな性格なのかな?

出来れば魔女開祖を謀殺しないタイプのヒロインちゃんだと有り難い。


こそこそとヒロインちゃんを付け回す。

彼女は真面目に学院校内へと向かっているので私もソソクサ着いて行く。

いつの間にか猫はどこかへやった様だ。


可愛らしいふあふあの桃色の前髪を手でくしゃりとかき上げながら、ヒロインちゃんは超凄い早足で何処かへ歩く。深窓の姫君とかでは無さそうな健脚っぷり。

万年運動不足、身体能力トロクサの私はちょっと駆け足で追う。も少ししたらホウキに乗るかも知れない。


愛らしい声が低く小さくブツブツ何かを言い続けている。


「魔法教室でアルフレッドと出会っておき、これは授業は受けなくて良い。隣の剣術講義室でファラン講師と再会、そのまま彼の流派の歴史を学ぶ。それから裏庭でお守り拾って……」


???

えらく効率良いですね?

え?

いやいやいや。

これって、もしかしてもしかする?

でも出てきた名前、攻略キャラだった気がする。

いや、いくら何でも多過ぎだしそれはないよね?

ないって言って下さい。じゃないと私の死亡率がうなぎ登りなんですよ!

いやいやいや、まさかと言って下さいよ!


校門をスタスタ進んでいくヒロインちゃんの後ろ姿を青い顔で見守ってしまう。

いや、すぐそこだから軽く追えるんだけど、ちょっと吃驚して思わず足が止まってしまった。


あの効率的すぎる行動予定はどう考えても転生者でしょ。 しかもあの感じ、ハーレムルート目指してるでしょ。

私、詳しいんだから!

んじゃ私、確定で死じゃん!

だってハーレムルート目指す場合だと何人かカジュアルに謀殺するのが普通だからね。プレイ経験者にとってはさ。つまり雑魚ライバルポジの私はファースト謀殺の対象ほぼ確定って訳だ。


王族だとか、王妃とか言ってるヒマないじゃん!

黒歴史すぐに消さないとじゃん。

だってやっぱり私は謀殺される、だってそう。

原作通りに。

それに絶対これ中の人スーパーレディじゃん!

私みたいなハリボテだけは立派な中身凡人とか勝てる訳ない。そうに決まってる。ルシウム王子は、アレンは優しいから優しい事言ってくれたけど、やっぱ原作パワーと本物のヒロインちゃんの魅力って凄いに決まってるんだからおおおおおおとなしく、げんさく、原作どおりに、ゎたしが、ちゃんと。ちゃんとしなないと……。



「ルクルッツ」


ふわ、と肩を抱かれる。

胸が苦しくなる。懐かしい、優しい気配。

何だか仄かに良い匂い。

肩にじんわり温かくて大きな手。


優しく誘われるように顔を上げる。

直ぐ目の前に、とんでもなく美しい容貌があった。甘く細まる紫の瞳。さらりと流れる黄金色の髪が完璧な美を更に魅力的に彩っている。


「ア……、ルシウム王子」


あえぐ声で何とか漏らすと、にこ! と輝く笑みが目に突き刺さった。とても眩しい。


「おはようルクルッツ。今日もとっても可愛らしいね」


ざわっと周囲がざわめいた。

そう、ここはフィールディア王立学院校門前。

馬車通学だろうが、魔術陣通学だろうが、全生徒は必ず校門を通過せねばならない。

しかもただ今通学ラッシュ時、周囲に生徒は山のように居たのだった。



ルシウム殿下??

その方はまさか……。

ウソウソそんなの信じられませんですわ。

おいおい初日で決定か?

ならば側妃に注力すべきか。


さわさわと様々な声が聞こえてくる。

ルシウム王子は一切頓着する事なくニコニコ上機嫌で魔女開祖ルクルッツの肩を抱く。


「各参加者達には申し訳ないが、一目惚れなんだ。俺の正妃はこの魔女開祖ルクルッツ殿に決定した」


わっと歓声と拍手が巻き起こる。

大体の生徒達は笑顔で祝福していて、生徒会長を務める彼の人望の高さがうかがえる。

ルシウム王子は堂々たる態度で祝福を受け取っている。


魔女開祖ルクルッツの方はそれどころじゃなかった。

死にそうな青ざめた顔から一転真っ赤。全身の毛を逆立てて吃驚しているネコチャンみたいな表情になっていた。


ウソでしょ!??

こんな堂々と宣言する??

もっと密やかに、日陰の女的な扱いというかキープ的な扱いとかするかと思っていたのに!

コレどうするの??

こんな大々的に、あああんなにも貴族令息令嬢達の前で宣言しちゃって、こんなの、取り返しが付かないじゃない! アレンはきっとヒロインちゃんを選ぶというのに。


「はい首輪」

「は??」

「違った婚約の首飾りだったねゴメン☆」

「不穏が過ぎる!」


恭しげな手付きで装着された首飾りがルクルッツの首を彩る。黄金チェーンに深い紫の宝玉。ご丁寧に何処かの王子の瞳の色と同じである。


しかし動揺しまくる魔女開祖は美しいペンダントを確認してふわっと淡く微笑んだ。


「……良かった。首輪じゃない」


簡単に誤魔化されてくれた、ちょっと間が抜けてる魔女開祖にルシウム王子の胸の高鳴りは止まらない。

なんて無垢で素直で、俺の言う事信じ切ってて愛らしいんだ。700年経った今でも刷り込み効いてて最高が過ぎる。俺が一生守護らないと。



同じく登校中のハーヴェスト・レムレスが全てを見抜いたドン引きの眼差しで渦中を見ていた。更に増殖したかわいこちゃんの群れの中で渾身の他人のフリをする。


「俺の可愛いルクルッツは、我が両親、三賢老にも認められた正当なる婚約者である。その手続きはおって行なうが、差し当たって剣技で知られる俺の友人の一人、レムレス伯爵令息ハーヴェストに彼女の護衛を頼もうと思う。誤解なきように」


堂々たる未来の為政者の微笑を浮かべ、手で示す先には当然のようにハーヴェスト・レムレス。


(直球で巻き込みやがったファッキン!)


即座に人だかりが出来、バッチリ目立って無事同類扱いになった。秒で死んだ目になるハーレム野郎。ハーレムメンらの心酔する目だけが今の彼の生きる糧である。





「……普通の宝石ではなさそう?」

「ルクでも苦手な事があるんだ? それはね。君を強固に護るものだよ。絶対に常に付けててね?」


ルシウム王子が見る者をうっとりとさせる美しい微笑みと共に甘く甘く囁いた。



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