【短編版】魔王叙事士
都内大手出版社・英秀社。その会議室の一室での事。
男女が向かい合い座っている。
女が渡した数枚の紙。
その数枚の紙束を読む男。
室内にカサカサとページをめくる音だけが響く。
終わりが近づくにつれて時折、ため息のような物も交じりだす。
そして、男は読み終わった紙束を無造作に机の上に放り出した。
「うん、ボツだね」
「またですかっ!?」
「うん、そう。まただよ」
「なんでですかっ!!」
「あのさー、宇佐美クンさ。作者の分身と作者の理想の恋愛話なんて読者が望んでると思う?」
「おもっ──」
「思ってても別にいいんだけどさ、これね。完全にキャラが死んでるよ」
男の名前は西村。
宇佐美と呼ばれた女性作家の担当編集である。
ペンネーム、宇佐美ナナコ。
本名、宇佐美奈那子。
漢字を開いただけである。
宇佐美ナナコはプロ二年目の新人作家である。
新人賞応募作がこの担当編集、西村の目に留まり拾い上げでデビューした。
もっともその応募作『神霊世界エルナスティア』は、担当編集の指示のもと大幅な改変と改題を施され『女魔王と僕の代理戦争』というよく分からない代物になったが。
しかし、ナナコのよく分からない作品でも一定数のファンは獲得したらしくシリーズ六巻で無事完結と相成った。
それが一年前。
それからという物、新作のプロットを見せては西村にボツを食らう日々を過ごしていた。
宇佐美ナナコは望んでいた──変化を。
◆◆◆
タクシーから降り、重い足取りで階段を上り、自宅マンションのドアを開ける。
「ただいま~……ってだれもいねえか」
私もいよいよオバサンだな。
はあ……。
交通費は出るとは言っても、毎回ボツを食らいに行ってるようなもんだから辛い。
私はメイクを落とす前にPCの電源を入れた。
戦闘態勢に入る前にどれくらいの弾を撃ち込まれているのか知るためだ。
私は小説投稿サイト『剣の魔王亭』に趣味で投稿している。
もちろんプロのペンネームとは別名義だ。
稲葉コハク。
それが私の第二のペンネームだ。
その稲葉コハク名義で投稿している恋愛小説にケチを付ける奴がいつからか出始めた。
こういう多くの人間が集まるサイトでは、そういうのはよくある事なので気にしてなかったが、どうも一人だけ熱心なアンチがいるらしい。
そいつが毎回ダイレクトメッセージで数回分もの文量で私を困らせるのだ。
なので私は誠心誠意それに応える事にしている。
つまり徹底抗戦だ。
DMをチェック……今日は三通か。
洗顔を済ませた私は戦闘態勢に入る。寝巻に着替えも完了。
この高校時代のジャージが私の戦闘服だ。
一通目、誤字・誤読の指摘。
二通目、展開が無理、だって。
三通目、展開が無理、こんな恋愛あり得ないってさ。
はあ、相変わらずだなコイツ。
──『入水自殺はじゅすいじさつと読むんですよ』だとさ。
私は期待通りの反応を受けて内心ほくそ笑んだ。
「くくくっ、入水トラップに引っかかるとはまだまだね」
私はコイツが指摘してくるのを見越して罠を張っていた。
入水自殺と入水角度、それぞれにルビを振らなければ読めない者も出てくるだろう。
しかし、私は入水角度の方だけにルビを振る事で、あたかも私が入水を読めないかのように演出したのだ。
コイツはまだ若いのか「これ入水ですよ」と一々言って来た。
いや知らないやついないだろ、プロで。
「知ってる、っと」
私は誠心誠意丁寧に煽って返しておいた。
それから二通目、三通目に目を通し、誤字脱字を指摘されないように何度も見直してから返信をすると随分時間を取られてしまった。
PCの時刻表示を見ると二十三時を回っていた。
はあ、今日もこれで更新は出来そうにないな。
ストレスを解消するための趣味でストレスを溜めている矛盾に私は心底嫌気が差した。
もう寝ようとログアウトすると、サイトのTOPに表示された人気作品群が目に入った。
【書籍化決定】【コミカライズ】【アニメ化】
そこには景気の良い文句が並んでいた。
はあ、うらやましい。
異世界転生でもなんでもいいから、こんなクソみたいな状況が変わってくれないかな?
そんな馬鹿な事をちょっとだけ考えたが、すぐに止めた。
もうそんな夢を見る年じゃないしね。
私はPCの電源を落として寝る事にした。
◆◆◆
夢を見た。
暗闇の中を浮遊する夢だ。いわゆる明晰夢というやつだろう。
周囲にはキラキラと輝く大小様々な玉のようなものが浮かんでいた。
それはまるで星空を散歩しているみたいでとても気分が良かった。
しばらく夜空の空中散歩を楽しんでいた私の前に光の玉とは違う形の、長方形のまるでドアのような物が現れた。
扉。
それは違う場所へ誘う物。
私はそれを夢だと分かっていても、何か現状を打破し、変えるヒントがあればと思いその扉の前に立った──
「足痛い」
気が付くと私は月明りだけが照らす暗闇の森の中を彷徨っていた。
私は部屋で寝てたはず……だからこれは夢なわけだ。
「……はあ、足痛い」
私の着ているのは高校時代のジャージで『うさみ』と名札が縫い付けてある。
寝る前に来ていた物と同じなので、だからこれは絶対夢なのだ。
「でも──足いったいっ!!」
夢じゃないや、これ。
寝ていた格好のままなので裸足だった。なので、小石や枯れ枝を踏んで足の裏が結構ひどい事になっている。
「痛い……っ」
なんで? どうしてこんな目に。これが異世界転生ってやつ?
あ、姿がそのままなら転移か。まあ、そんなのはどうでもいい。
っていうかこれ、ホントに異世界?
そう考えると暗闇の中ギャアギャアと獣か何かの声が響き渡っているのに恐怖を掻き立てられて来る。
私は、足の痛みも我慢して足早に森の中を駆け抜けた。
そして見つけた。
「お城だ」
明かりが点いているから誰かいるだろう。
私はワケの分からない怪物に襲われるよりはマシだろうと城へ入る事にした。
──そこで記憶は途切れていた。
◆◆◆
「なるほど、じゃああなたも同じなんですね」
「まあ、大体ね」
ナナコはどう見ても牢屋といった感じの部屋に年下の女の子と二人仲良く閉じ込められていた。
「あ、申し遅れました。わたしは有梨みかんです」
高校生くらいだろうか。少女はみかんと名乗った。
「あ、どうも。私は宇佐美奈那子」
「え? 宇佐美ってまさか」
「あ、知ってる? 一応プロの小説家なんだけど」
「えー!? 知ってますよファンですっ!!」
「そ、そうありがとう」
ナナコは、みかんのあまりの興奮ぶりにたじろいだ。
しかし、自分の作品のファンであるという事実はナナコにはとても嬉しい事だった。
「まあ、新作は中々見せられなくてごめんね」
「いや、大変なんでしょうしそれは全然」
詳しい話を聞いてみると、ここに来た経緯は大体ナナコと同じだった。
見知らぬ場所にいる夢を見て、そこでドアのような物を見つけて、くぐった先が森の中だった、と。
後は大体ナナコと同じであった。
唯一違うのはみかんは部屋履きのスリッパを履いていた事だろう。
つまり、寝ていなかったのだ。
しかし、ナナコはそれに気が付く事はなかった。
話は趣味で書いている小説に移っていった。
「そんなわけで、気分転換に恋愛小説を書いてるんだけど、とにかくめんどくさいアンチに粘着されてるわけよ」
「……へー」
「蜜柑の大樹ってやつなんだけど」
「……はあ」
「未完の大器って、エンギ悪すぎだっての。ねえ?」
「え? いやあ……あの、たいじゅです」
みかんの後半のセリフはナナコの耳には届いていなかった。
「じゅすいですよ~ってプロが入水自殺読めないわけないじゃない、ねえ?」
「……ごめんなさい、知らなかったんです」
自分のファンを前に気を良くしたナナコはみかんの事など気にせず話し続ける。
ナナコは気が付かなかったが、明らかにみかんは動揺していた。
ナナコはなおも止まらず話し続ける。
「あの野郎、リアルであったらぜってーブチ殺してやる。ねえ、そう思うよね?」
みかんの返事はなかった。
みかんはうつむき、顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
恥ずかしさに耐えているかのようだ。
──『ふーん……ずいぶん仲良いみたいだな』
みかんの声の代わりに男の声が聞こえた。
声のした方を見ると牢屋の外の格子の向こうから少年がこちらを見つめていた。
「オレは第5魔王・アストグラン。お前らにオレの活躍を後世に書き残す、魔王叙事士になってもらいたい」
魔王・アストと名乗った少年はそうナナコ達に頼み込んだのだった。
「いきなり何いってんのよ」
私は自称魔王・アストの申し出を拒絶した。
こんな牢屋に放り込まれて、はいそうですか、と行くわけがない。
それはプロの誇りが許さなかった。
「人に物を頼む時はそれなりの態度があるでしょ?」
ジャージ姿で腕を組みアストに問う。
「分かった。お前らに部屋を用意しよう」
意外にも魔王・アストは素直に言う事を聞いた。
こいつ実はいいやつ?
ガラガラと格子が引き上げられ牢屋から出られるようになった。
「ほら、案内するぜ。あ、そうだ」
アストは何かに気が付いたように私の方に振り返った。
「足、痛いんだろ。治してやるよ」
──こいつ、実はいいやつだ。
◆◆◆
自称魔王──魔法のような物で足の傷と痛みを完全に取ってくれたから、多分彼は本物の魔王なんだろう。
まだ実感はないけど。
とにかく私の要望通り、彼──魔王・アストはみかんと私に二人部屋の豪華な客室を用意してくれた。
ここで一晩考えて欲しい、との事だった。
「……自分の活躍を書いて~って、子供っぽいけど、お願い聞いてあげたくなるじゃん」
私は独りきりの室内でぼそりと呟いた。
するとそこへみかんの叫び声が木霊した。
「うわぁ~!! ぎゃ~っ!! ひえ~っ! へ、えぶっ!!」
最後の「えぶっ」はこの客室に転送されて落っことされた衝撃による物だ。
城内に仕掛けられた罠によってここに飛ばされるようになっているみたいだ。
話を聞いた所によると、みかんはワナビ少女らしい。
それもファンタジーが大好きなワナビだ。
ならばこの状況は千載一遇の取材のチャンスだろう。
だからこんなにも頑張っているんだろう。
「ふい~、ああなってるのか~。メモメモ」
みかんは筆記用具を借りて取材成果をメモっている。
私も筆記用具を借り、文章の見本とかなんだかで、すでに掌編を提出済みだ。
みかんはこれから提出するらしい。
「じゃあ、ナナコさん。わたしまた行ってきますね」
「無理しないでねー」
「ナナコさんも取材しないんですか?」
「私は恋愛が書きたいんでファンタジーはいいわ」
「……そうですか。じゃあ行ってきます!」
みかんに手を振りつつ、顔が引きつるのを感じた。
──私、いまなんつった? プロ失格だ。
ワナビであるみかんの方がよっぽどプロらしい。
貪欲に知識を求めている。
私はプロでございと鼻っ柱だけで中身がないんじゃないか。
ふとそんな事を思ってしまった。
だから、通らないのかな、プロット。
◆◆◆
昨日は眠れなかった。
みかんはあれから2時間ほども取材を続けていた。
時計がないから正確な事は分からないが。
純粋さではかなわない、私は心の底からそう思った。
私はアストに惹かれつつも、みかんのような純粋なひた向きさは持てない。だから、
「その子……ワナビなんだけど、ファンタジー好きみたいだしその子にお願いしなよ」
驚いたみかんの顔。
アストは──
「どうしてもダメか?」
どんな顔してるんだろ? 見れないや。
怒ってはいないと思う。ただ、残念そうな声色でそれがすごく辛かった。
「やっぱり、プロって肩書だけの私より、心の底からファンタジーを好きな、愛してるみかんちゃんの方があなたに向いてるってば」
やばっ、何言ってんだ私。そういう事言いたいんじゃないのに。
「──だから、ごめんっ!」
私はみかんとアストの顔を見ずにその場から逃げるように走り去った。
◆◆◆
ナナコが去った後の事。
アストはみかんに色々な事を聞いた。
「なあ、あいつが言ってたワナビってなんだ?」
「プロ志望者の事ですよ」
「プロって?」
「それでお金をもらって生活をしている人たちの事です。何万、人によっては何十万、百万人以上の人がその人の小説を読んで感動するんです」
「へえ」
「だから、ナナコさんはすごいんです」
「悪いなみかん」
「え?」
「オレはやっぱりあいつにやってもらいたい」
みかんは少し驚いた様子だったが、すぐに何でもないといった風に笑い、
「全然大丈夫ですっ! むしろわたしは見たいです、ナナコさんが書くアストさんの冒険記」
それはナナコの一ファンであるみかんの心からの言葉だった。
「ギャーっ!!」
そこへひどくつぶれた声でナナコの悲鳴が城内に響き渡った。
「ナナコさん?」
「ナナコっ!!」
アストはナナコのもとへ駆け出した。
◆◆◆
アストとみかんを置いて城を出た私の前に熊のような大男が現れた。
私は思わずひどい悲鳴を上げてしまった。
だって、何故ならその大男は豚頭で、ギリギリ人間の普通にオークといった感じの姿をしていたからだ。
「おい」
しゃべった!
「お前、第5魔王の配下か?」
「第5魔王って、アストの事……?」
男はニヤリと笑ったかと思うとものすごい勢いで近づき私の体を両手で拘束した。
「ぎゃっ! 痛いっ。やめて、はなしてって!」
「そうはいかねえ、オレは魔王・バルザーク。テメエの主人に用がある」
──「ナナコを放せ」
その時アストの声が力強く響いた。
私は泣きそうになりながら首だけをそっちへ向ける。
ああ、アストだ。かっこいいな。
「よう、アストグラン。オレは魔王・バルザーク。テメエの地位をもらいに来たぜ」
「……新興魔王か」
なんだろう? 第5魔王って言ってたから魔王が何人かいるのは分かるけど。
アストたちの会話に私は付いていけなかった。
アストは力強い声色で再度言った。
「ナナコを放せ」
それを聞いた魔王・バルザークは醜く笑い、
「ずいぶん大事な女みてえじゃねえか。こいつを放して欲しかったら抵抗するんじゃねえ」
「……わかった」
アストは無防備な状態で私の方へ近づき、そして微笑んだ。
「ナナコ」
「え……?」
「すまなかった。怖い目に遭わせて──だが、すぐに終わる」
その言葉を待たず私の拘束は解かれ、私を縛っていたバルザークの両の腕はアストの体を締め付けた。
「アストっ!」
私は叫んだ。
いくらアストが強い魔王でも、密着状態で両腕を極められては身動きが取れない。
「へへっ、これで終わりだな。案外モロかったな」
バルザークの下卑た笑い声が響く。
──「そう思うか?」
アストの声だ。
──『金色の魔槍』
アストの拘束された右腕に金色に輝く光の槍が生み出される。
「……ぐっ、へへっ!」
バルザークは一瞬ひるんだがすぐに持ち直し、言う。
「アストさんよぉ! 両腕の自由を奪われた状態でそんなモン使えるわけねえだろう」
──「そう、思うのか?」
そう言ってアストは、
──「金色の魔爪」
光の槍を、五指に沿わせた光の爪に変化させた。
そして、手首の返しだけで魔王・バルザークの胴を絶ち切った。
「ぐはっ!」
魔王・バルザークの上半身は口から血を吐いて地に伏した。
私はその光景を恐ろしいと思った。
でも、それ以上に──
「ナナコ」
アストをかっこいいと思った。
「すまなかったな。怖い目にあわせて」
「ううん、大丈夫。ありがとう助けてくれて」
「ナナコ」
アストは真剣な表情になって言った。
「お前の書いた文章を見た。お前がいいんだ。オレの叙事士になってくれ」
や、やめてよ。そんな……ここでそんな事言われたら、断れるわけないじゃん。
「──はい、お願いします」
かくして私は、魔王アスト専属の魔王叙事士となった。
◆◆◆
あれから色んな事があった。
アストが序列1位の魔王に挑んで大苦戦したり、まだ見ぬ新興魔王がどんどん出てきたり、まあそれは割愛で。
今私はみかんと共に取材がてら異世界を旅行中だ。
私との旅行記をみかんは小説投稿サイト『剣の魔王亭』で連載中らしい。
「ねえペンネームは?」
「え? あのその」
みかんはタイトルやペンネームを聞いても何故か教えてくれない。
恥ずかしがっているんだろうか? それじゃ上手くならないぞっと。
「ねえ、そろそろいいじゃない教えてよ。じゃないと検索引っかからないし」
──『蜜柑の大樹、だろ。書いてあった』
「ふーん、蜜柑の大樹ねえ、どこかで聞いたような? あれー? どこだったかな」
「え? 思い出せないんなら大した事じゃないんじゃないですか?」
──『お前らなんかよく分からんがモメてたらしいな』
「え? ああ、違うのよアスト。私が揉めてたのは蜜柑の大樹でみかんじゃ」
──『だから、こいつだろ?』
私はみかんの方を見る。
みかんの顔は真っ赤になって俯きプルプルと震えている。まるで小動物のようだ。
「お前だったのかーっ!!」
「ごめんなさぁ~いっ!!」
◆◆◆
犯人はみかんだった。
話を聞いてみるとみかんを責められない事情も分かった。
みかんが私に粘着した理由、それは私自身のプロ意識の欠如から来た物だからだ。
ある日ある時、私が何気なくつぶやいた『剣の魔王亭』の活動ノートでのコメント。
自分の作品『女魔王と僕の代理戦争』について、
──「あれはダメ。失敗作」
そう言った事が発端だった。
その発言が私の作品のファンであるみかんにはどうしても許せなかったらしい。
だから私はみかんを責められないし、お互いに悪い所があった。それを指摘し合えたという事で仲直りした。
「みかん」
「はい」
「今度はこっちで戦おう」
私はペンを持ち上げて言った。
小説で競い合おうという事だ。
「あっ、はい!」
みかんは嬉しそうに微笑んだ。
私は──
「うぉおおおおーっ!!」
イタズラ心を出してペンで襲うフリをしてしまった。
結果、みかんは泣き出してしまった。
「ごめんごめん、ホントごめんってば」
失敗、失敗。
みかんは本当に純粋なんだな、と思った。
みかんのアストに提出した掌編を見た。
アストは小説の事を分かってないから私の方がいいなんて言ったんだと思うけど、みかんの実力はプロの私から見てもすごい物だった。
昔の私ならそれを恐ろしく思い、嫉妬にかられて中傷コメントを送ったりもしたかも知れない。
でも、色々な経験を経た今、私は成長した。
いつまでも同じ所にはいない。
みかんが追って来ると言うのなら、私は今の自分を超えて行けばいい。
──登って来いみかん、私はプロの座にて待つ! ……なんつって。
◆◆◆
アストとの出会いから一年以上が経過した。
みかんの書いた『リーネとフィンの冒険記』は、『剣の魔王亭』のジャンル別ランキングに顔を出すくらいには好評だった。
私との下らない争いで時間を取られる事がなくなったみかんはどんどんと力を付け始めている。
「がんばってるなぁ、みかん」
私も負けてられないなぁ……っと。
時計を見ると午前十時を回っていた。
「そろそろ出かけるか」
今日は私の出した新シリーズの新刊発売日だ。
私は発売当日に近くの大型書店に寄って、私の本を買ってくれる人をチラチラ見るのが恒例行事になっていた。
みかんとの出会いが私を成長させた。
ライトノベルは作者の自己満足のためにあるんじゃない。
それはすべてファンの楽しみのための物だ。
それが分かった私のプロットは見事担当のお眼鏡にかない新シリーズを刊行する事が出来た。
「魔王さまがかっこいいよね」
「ねーっ!」
私と本を買ってくれた女の子たちとがすれ違う。
──うん、私もそう思うよ。
新作は私が一番にやりたい恋愛ではなかったが、恋愛は一要素として取り入れた。
新興魔王さまと、魔王さまに見いだされた魔王叙事士の恋物語として。
THE END
叙事士は造語で、叙事詩を書くのは叙事詩人です。匿名でも書き込めるので恥ずかしい方は匿名でも、お気軽にどんな事でもコメントして下さいね。自身初の女性主人公で一応恋愛物です。少しでも気に入っていただけたら評価の方をポチっとお願いします。