イエネコの非日常
初投稿です。
朝日がゆっくりと部屋に差し込む。目の前でカタカタしていた存在がふいに立ち上がり、大きなあくびをする。
目をつぶったまま、ぼくは少しだけ耳をうごかす。ガタリと音が聞こえ、その瞬間、ひゅうっと心地よい風が入り込んできた。
いつもならあたたかい手でやさしくなでてくれるはずのその存在は、ふらふらと大きな布にくるまって動かなくなった。
少し様子を見てから、軽く伸びをする。自分の毛並みを舐めて整えながら、鼻をひくひくと動かした。何かが違う。どこかから、知らないにおいがする。
そのにおいの先に、目が向いた。
――窓があいている。
慎重に近づく。ひんやりした感触の枠に足をかけ、鼻を押し出してみる。
「ふわっ」とした空気。こんなに広くて、こんなにいろんなにおいがする場所は知らない。
次の瞬間、思わず体が動いていた。
四つ足で黒くてぼこぼこした床に降り立つ。ひんやりしていて、少し硬い感触。ふり返ってみればいつもの場所。
でも、その目の前にはもっと広い世界が待っている。
外の世界
見たこともない高い壁。くるくると踊るひらひらしたみどりいろ。風が吹く度にキラキラした何かが地面で揺れている。
ちょっとだけ触ってみる。ひらひらは軽くて柔らかい、ピカピカした何かは冷たい。
すると急に大きな音と共に、向こうから何かが動いてくる!
ごつごつした体をしたそれは、うなり声をあげながらどんどんこっちに近づいてくる。慌てて走り出す。
柔らかいみどりの上を踏みしめたり、ふわっとした白いひらひらを追いかけたり。世界は新しいものでいっぱいだった。
でも――
ふと、頭に浮かぶのはあのあたたかい手。なでられたときの心地よさ。お腹が空いたとき、すぐに何かをくれたこと。
不思議と体が止まった。
振り返る。まだ見える窓の向こうに自分が知っている世界がある。急にその場所に行きたくなる。
再び四つ足で駆け出した。
帰り道をたどっていくと、あいた窓が見えた。勢いよくジャンプして、ひらりと飛び込んだ。
部屋は変わらない。相変わらず、あの存在は大きな布の中で寝ている。
近づいて、そのそばに丸くなってみる。安心するにおい。
いつの間にか、気が付くと自分もまた眠りに落ちていく。
すこしだけ汚れた肉球にも気付かずに――。