プロローグ 西部戦線
最初の戦場
最初の出会い
一か月後
すっかり城の生活に馴染み、そろそろ行動するその時、クウガはラオルに呼び止められた。
どうやら、西部戦争の兆しがあるとの事で、今すぐ西部駐屯地に以前の盗賊団と合流せよとの事。
(まあ、やっと窮屈な監視から解放されると思いきや、戦争か、ついに来たか。)
「どころで、」
「?」
珍しくラオルが聞きたい事で呼び止めたクウガは反応できずに素で返事をした。
「貴殿は夜中に一人で何をしている?独り言が多いと苦情が入ってきたぞ」
「ああ、えーと」
杖のメイの声は基本主人しか聞こえないため、他の人からしたら、独り言の変人にしか見えなかった。だが、内容は日常生活しかない為か、最初は警戒されていたが、次第に解除されていった。
「僕、辺境育ちなため独り言が癖です。」
「そんな癖聞いたことがないが。まあいい」
呆れた顔しつつ、ラオルは早く部隊と合流を催促した。
「ろくに部隊とコミュニケーション取ってないから、早く合流することだ」
と去って行った。
確かにそれが問題だが、クウガにとって、これは初陣、情報が足りない今を問題視している。そして、すぐに馬車に乗り西部駐屯地へ行った。
「はじめまして、この大隊を任されたグリンドン・サンテェリ伯爵である。以後お見知りおきを」
「はじめまして、クウガ・ゼンといいます。よろしくお願いします。」
普通なら貴族が私兵を配置し、運営するのが常套のはずだが、度重なる敗戦で私兵自体の数が足りず、王国軍事会議が各貴族の私兵を集め再分配することになりました。そして、各部隊には、その地域を管轄する貴族が任されることになる。
「では、クウガ殿の部隊まで案内させていただきます。」
「お願いします。ところで、状況はどうなっていましたかお伺いしてもいいですか?」
「構いません、現在わが軍が前方へ展開し、敵軍とは睨み合いを続いている。いつ開戦してもおかしくない状況です。」
「作戦は?」
「わが軍が前線で展開し、相手を迎え撃つ。貴殿らは自由行動してもいい。」
「よろしいですか?」
「構いません、もともとはぐれ者、うちの兵との相性も最悪、開戦前に内部分裂でもしたらかないません。それに20人は誤差です。むしろ、自由にした方が動きしやすいかと、お互いにね」
「なるほど、敵の別働隊の可能性は?」
「ないですね、この荒野、周辺見渡す限りではそのような部隊を確認してません。それに、相手はその必要性はないと思う」
「というと」
「相手の戦力はこちらの約3倍、通常であれば、こちらが勝ち目がない」
「確かに、そうなると、バレ易い別働隊を配置する必要がありませんが、失礼な問いを伺いしても?」
「。。。どうぞ」
「。。。投降しないですか?」
「。。。我が軍の後ろには我が領土があります。投降すれば補給の為領地が荒らされる。私の首で安全を確保できるものならいくらでも差し出しますが、領地が荒らされ、民が冬を越せなくなるのが我慢がならん。」
「。。。。失礼な質問申し訳ございません。」
「いいえ、この状況なら当然の質問です。気になさらず。こちらです。」
「ご配慮くださりありがとうございます。」
「では私はこれで、貴殿の部隊は殿下から自由行動を許されてます。」
「僕たちはもし敵前逃亡したら?」
「その時は王国全体が帝国よりも貴殿らを先に滅ぼすことになるでしょう。」
「分かりました。微力ながら全力で敵を退いて見せましょう。」
「健闘を祈る。では」
去って行くサンテェリ伯爵を見て、クウガが思った。さすが最前線を任られた人と感激した。そして、とおくから声がした。
「大将!大将じゃありませんか!」
「君は、あの時盗賊団のリーダーの」
「は、バゼール・アシュガであります。以降よろしく。大将!」
「大将って、まあ僕の部隊ではありますが、よろしく。それで部隊は?」
「は、全員無事であります。おい、てめえら、集まれ!」
とアシュガが号令し、すぐさま一列並んで集まった。その姿まるで軍隊そのものである。
「この一か月訓練でもしたのか?」
「勿論それもありますが、自分は傭兵やる前に王国で従軍してた頃もありますので、こいつらを傭兵時代その時の教えを叩き込んだ。今じゃ普通の民兵より強いと自負しております。」
「通りで。」
クウガはそれ以上詮索しなかった。なぜなら目の前に敵軍の方を先に片付けたいと思っていたから。それに
「みんな僕に付いても問題はないか、君はこいつらの団長だろう」
「みんな大将に命を救われた、文句はないさ。」
「いや、僕のせいで処刑仕掛けられたが、」
「負けた我らが悪い」
「ならいいけど、命令は絶対遵守してほしい」
「了解であります」
「では最初の命令です、我々は両軍の南方の丘で待機する。」
「待機でありますか?」
「参戦してもいいですが、正面じゃ、うちら20人程度はないと同じです。よってまず相手の出方を見て、行動するように、もっとも効果的な一手をこの絶望的な状況をひっくり返そうではないか」
「お言葉ですが、大将の魔法で何とかできませんか?」
アシュガの疑問はごもっとも。この世界において、大陸魔法業界を除いてクウガの魔法は異常ともとれる。大陸魔法業界は魔法使いの保護を名目に、入った魔法使いは基本どの国にも属さないし、傭兵制度もとらない。発表はあるものの、基本民間魔法であり、スカイン(空を飛ぶ魔法)すら、一部の者しか扱えない状況。また戦争において、魔法使いの力は絶大である故、真っ先に狙われる。それによって各国の戦力は主に歩兵や騎兵となります。
「まず言っときますが、僕の魔法は強いかもしれないが、リスクもあります。そもそも普段から常時身体能力上昇を発動してるんで、魔力量が高くとも、でかいやつは3発しか打てないと考えた方がいい。」
「それなら、常時発動のやつを切ればいいではありませんか?」
「戦場で何があるかわからない以上、いざの時致命的になる、特に魔法使いは、接近されれば基本無力だからな。」
まあ、それをカバするのが腕の見せ所だが、教えると万が一敵にバレたら対策されても叶わん。それに、身体能力上昇の効果は実証済み、攻撃魔法がなくとも時間稼ぎは十分。
「は、わかりました。ですが、今から出発でありますか?」
「今だ」
「了解であります。みんな、聞いてる通りだ!」
「「「おおおお」」」
今移動はもちろん意味がある。まず、敵さんの丘からの別働隊有無を確認。万が一別働隊がいたら、もちろん一人も帰さない、全滅します。別働隊がなくとも、戦場になろう場所を広範囲に見渡せるあの位置を、後々の事を考えると、先手をとらないと味方の損害が増える可能性がある。それに
「あの場所を取れば、色んな作戦が展開できる。手札が増えるというやつだ」
「なるほど、そうであります。う!大将、あれを」
「まあ、敵さんも同じ考えだな、遠回りしてよかった。」
移動先に、明らかに帝国のマークを付いた服を着てる男二人が丘の先に伏せている。片側にはなにかしらの機械が置いている。
「大将、あれ帝国の通信機らしいですぜ。」
「やはり、映像とか映るんか?」
「えいぞう?とは何のかはわかりませんが、音のみだと思います。以前地方の戦場で帝国が使ったものと同じですので。」
「なるほど、魔法使いを集めてきて、聞きたいことがある。」
「分かりました。」
少し待つと、4人が集めてきた。4人は馬車襲撃時クウガを炎の嵐で閉じ込めた4人。
「まず、確認したい、洗脳の魔法は使える人」
「すみません。」
「私も」
「自分もです」
「睡眠ならできますが、洗脳は」
。。。。。ま、仕方がない。
「分かった、僕がやる。」
クウガは最初にミラズ(透明になる魔法)を使い、二人に近づく、そして、両手の親指を二人の脳に差し込む。さすがの光景に部隊のみんなは唖然としたが、しばらくして、両手を離すと、帝国の二人は後ろに下がっていく、そしてさらに南に向かっていきます。
「大将、どうなるんですかね、あれ」
「ま、軽い洗脳を施しましたので、ある程度の問答は誤魔化せる。それに、洗脳解除と同時に強制昏睡も施してるから、ま、なんとか」
「ですが、大将の魔力が、」
「うん、ああ、あれくらい大した量ではない、原理さえ分かれば、粒程度の量だし」
「そうでありますか」
「それよりも」
言葉の終わりに、北へ見渡すと、帝国軍がすでに動き始め、進軍開始した模様。
戦争が始まる
少し時間が経ち、両陣営が一進一退の攻防を広げた。
「拮抗してますね、やや帝国が押されているようですが」
「え、指揮官の指揮が見事もあるが、帝国がその分の兵士しか前進させていない。にしてもだ」
「えい、奇妙です。」
王国の兵はいくら指揮官が優秀だからと言って、兵自体は半兵半農状態。対して、帝国は職業軍人で構成されている。そして、装備も、軍事に重みにおいてた恩恵で王国よりも上質な部類。
「どうやら、帝国の装備は防御に重点的強化されている。動きが鈍いなのはその反動だね。先の二人も軽装だが防御魔法を使っていた。軽装は逃げやすさ重視だな」
「はい、帝国は元々食料不足が問題で、人口が思うように増えなかった国です。戦争も口減らしが主な目的でしたが」
「ここ数年方針変換されたと」
「今のカイセル3世になってから、ですね。食料不足も奪った領地から賄いている。」
「優秀だね。。。ならばこの状況」
「え、誘い、罠ですね。王国に勝てると信じ込ませて、ある時点で全軍を持って殲滅するつもりでしょう。」
「そして、西部ラインが崩壊した時点、王国は折れて降伏しかできなくなる。」
「どうします、大将?」
「。。。。あれを見よう。」
クウガは西の敵本陣を指さす
「敵本陣を奇襲ですか?」
「それしかあるまい、だが、南のが邪魔だな」
「えい、厚さからしたら恐らく前線と同じ」
「見事に三分割したな、だが、それを壊滅させれば、敵本陣は片翼を失い、いいえ、裸同然」
そして、クウガは命令する、
「よし、全員いいか、今から僕は大魔法を撃ちます。撃ったら全軍で敵本陣に突撃。いいか、迷わずに突撃だ!目標は敵大将首のみ!」
クウガの話を聞いて、少しざわつきますが
「てめえら!大将の話を信じないか!!信じるならおうといわんか!!」
「「「「「おう」」」」
アシュガの恫喝でみんな一斉に答えた。
「助かる」
「いいえ、これしき。」
そして、クウガは魔法使いの4人に全員にスイブと防御魔法をかけさせてから。
「よし、いくぞ、
星よ、見よ、終焉の時来たれり、今、星の終焉の先を御照覧あれ、我らの敵を汝の意のままに飲み込め、ブラックホール!!!」
瞬間、敵の右翼陣の中心から丁度右翼を丸呑みする黒い球体が現れ、そして、球体が縮み、やがて消える、そして右翼も跡形なく消えた。
「突撃!!!!!!!!」
アシュガの号令で部隊全員が動いた。全員敵本陣へと進み、スイブのおかげで左翼が到着する前に敵本陣へ突入した。クウガも全員突撃してすぐ後ろについていった。元々傭兵自体身体能力が高い為、軽傷があれど、死人出さないまま本陣の護衛隊を全滅させた。そして
「残り大将首かな、」
とクウガが安心しようとしたその時、寒気が襲ってきた。
ドン!!!!!!!!
敵大将がいると思われるキャンプから、地面が弾くような爆音がし、なにかがクウガに迫ってくる。
クウガは即時杖を前に出した。そして、カーンと共にクウガ周辺が煙が湧き出た。クウガも杖から何かとぶつかっている感触をした。そして、煙が発散していき、目の前には一人の女性が相対している事に気づく。
女性は長い黒髪にやや身長が高い、細身の体に似合う大太刀でクウガと対峙してる。
そしてなにより、女性の目には、光がなかったように真っ黒。
「おやおや、美人だね、それを置いて僕とデートしない?」
「。。。。。。」
「あれ、振られたかな、僕」
「大将、助太刀を」
「来るな!!!!!!!!」
クウガはアシュガを制止し、目の前の女性を睨みつく、女性は少し刀への力を緩めて、クウガはそれを見逃さなかったが、それを誘いと判断し、すぐ左足を上げて、案の定、女性はクウガの杖を流し、一回転してクウガの腹部に回転蹴りを繰り出す、クウガは左足と左手でそれを防いだが、威力を殺しきれず、右へ突っ込んでいて、陣内の木箱へ突っ込んだ。女性はクウガがしばらく起きれないと思い、他のみんなへと視線を送るが、木箱からクウガは飛び出し、上から杖を女性へ振り下ろしたが、女性がすぐにそれを防いだ。クウガの口元が血が流れてきた。ラオルとの練習試合以来、クウガが幾度も挑戦を受けたが、ラオル以外けがを負うことがなかった。
(今の蹴り、効いたぜ。内臓までは、逝ってないが防御魔法が崩れた。)
「。。。。。」
女性は相変わらず無言で鋭い目つきで睨んでくる。
「そんな怖い顔しないで、お話しよう、美人は台無しだぜ」
「。。。。殺し合いに言葉は不要」
「おお、喋れるじゃん、どうだ」
初めて、女性は喋ったが、クウガは更に対話を要求する、もちろん時間稼ぎだが。
「くどい!!!」
女性はクウガの杖を弾き、そして、ガラ空きの腹に一発拳を入れた。
(うそ。。。。。)
あんまりにも強い一撃でクウガはキャンプへと飛んでいた、壊れたキャンプ内に誰もいないのを見て、クウガは
「あれ、お嬢さん、まさかあんたは総司令なのか、それとも。。。。」
「。。。。。」
女性は答えなかった。とその時。遥か西方面から赤い煙が出た。それを見た女性は
「塩時か、、、、」と呟いた。
それを聞いてクウガは理解した。時間稼ぎは向こうも同じ、そして、女性は囲まれる前に、目に留まらない速さでみんなの視界から消えた。
(この技、いやあ、やはり油断はするもんじゃねえな)
心から反省したクウガだが、部下達に撤退命令を出した後倒れ込んでいく。アシュガに背負わされて自陣へと帰っていた。
翌日、サンテェリ伯爵はクウガがいる陣に来て、戦後報告を伝えた。
前線が敵本陣陥落する前に撤退した模様、どうやら黒い球体を目撃し、大パニックしたようで、敵左翼も本陣陥落の知らせを受け西へ逃げて行った。サンテェリ伯爵の兵は敵手加減もあったか損害は大したことないが、敵はその裏目がでて、パニックの際大きな損害をもたらした。300の自軍損失に対して、向こうは右翼も含めておよそ5000前後。
「良かったですね、勝てて。」
「いいえ、貴殿らの奮闘のおかげです。王女殿下もさぞお喜びでしょう。ところで、」
「?」
「あの球体はなんだ?もしよろしければ教えていただけますか?」
「ああ、あれね、魔法ですよ」
「あれは魔法ですか」
「未発表ですので、知らないかもしれません。」
「なるほど、そうであったか、感謝します、あの球体のおかげで、我が兵が命拾いしました。」
「いいえいいえ。できれば球体は内密でありがたいですが。」
「残念ながらそれは無理かと、すでに宰相閣下へ報告済みですので」
「ですよね」
サンテェリ伯爵がクウガの陣営へ来たのは午後ですので、すでに王国への報告したのが当然である。
それを思ってクウガは長い溜息をした。
(ま、仕方がないな、これは、バレてもいざとなれば逃げれるし、それよりも)
「ところで、敵の総司令かどうかは分かりませんが、黒髪の女性でしたので」
「おお、あの死神と相対したのか!」
「死神?ええ、ボコボコにされたが」
「なんと、ですが、兵は全員無事です。これは奇跡でしょう!」
「彼女は何者ですか?」
「帝国最強の三人の一人、巨鐘のヴァルガン、その一人娘です。名前は分かりません。何せ戦場で対峙した者が全員生きて帰ってきませんでした。」
(うお、おっかね)
「ですが、貴殿は生きて帰れた。しかも部下達も、これは重要な情報です。何せ一般の目撃者の情報が役に立たないものばっかりですから」
「なるほど」
彼女の攻撃を思い出すと、その言葉の意味も分かる。あれほど速い動き、普通の人はまず見えない。もちろん、剣筋や、癖もわからない。情報不透明の状況であれともう一度相対しても、返り討ちされるのがオチ。
「では、休息を取った後次は西のリンドブルー要塞を攻めたいと思います。」
「リンドブルー要塞?」
「はい、元王国最強の要塞、かつて帝国の侵攻を一身を持って食い止めっていた。王国の誇りだった」
グリンドン・サンテェリ伯爵
年齢 41歳
身長 179cm
体重 87kg
特技 音楽
王国西方面辺境を任された人物、本来リンドブルー要塞陥落の責任を問われ処刑されそうだったが、王女の助命と戦力低下を防ぐ為。汚名返上も兼ねて西部の激戦区を任された人物。
王族とは遠い親戚関係。王女の従兄に当たります。
大太刀の女性
身長 171cm
体重 不明
特技 不明
帝国最強の一人巨鐘のヴァルガンの一人娘しか情報がない謎の人物