#5 俺の記憶。
前回のあらすじ。
前回を見ろ。
#5 俺の記憶。
俺には多くの≪捨てたい過去≫で溢れ返っている。
憎まれて、妬まれて、叱咤されて…時には心を殺されるような…。
掃けば塵が、叩けば埃ばかりが出てきて、綺麗になる事もなく積もりに積もって。
やがては溜まったゴミも排水溝に詰まって…そのまま一生消えゆくことは無い。
そこに集る羽虫共が俺という存在を否定して、その場から駆除しない限り永久に増え続ける。
だから俺は…これまで生きてきた人生を、過去を、捨てたかった。
でも、本当に手元から消えていった過去は…
≪大切な思い出≫ばかりだった。
全てを捨てれば楽になれると思い込んで、自分の頭から消そうとした。
でも、いざ消していくと…
楽しかった記憶、笑った記憶、家族や僅かな友人達と紡いだ記憶ばかりが…次々と消えていくようだった。
≪捨てたい過去≫は幾ら消そうとしても、何度も、何度も、何度も、何度も…脳内に『あの』光景が浮かび上がってくる。
その度に…怯え、泣いて、苦しんで、、、。
苦しみから救われたくて消そうと暗示を掛け、自意識で語り掛け、自分への否定を否定して身を守ろうとした。
だが、その最果てに待っていたのは…
「あっ!おかえりなさい~、ゴミ出しお疲れ様です!」
「…はい、ただいまです」
虚無だった。
「良い匂いですね…なんだか、懐かしい香りです!」
「ですよね~!家庭的な定番料理ですが、家庭で味付けが多数あるって聞いたことあるので、お口に合えば嬉しいです~」
‥‥なーんて会話してるけどさ?
「おかえりなさい」って言われて素直に「ただいま」って返したけど~…
ここ、俺ん家なんですけど???
この状況を第三者目線で見られたならば、完全に【兄妹水入らず】って感じの絵になるんだろうが…
俺、生憎一人っ子だし…しかも、妹に世話される兄とか…アニメっぽい雰囲気あって良いだろうけど…少しだけ躊躇っちまうだろうがよ。
てか、俺がロリコンって言われるのは勘弁してくれよ??
何せ…俺はこの子を拾って保護してるだけだ。
今の俺はS〇P財団のようなもんだ。
「できましたよ!貴方は炊けたお米をお椀に盛ってください♪」
「分かりました」
お米炊いたの何時ぶりだろ…。
てか俺がトイレ掃除をやってる間に、まさか炊飯器を回すなんてなぁ。
手際良いな…このロりっ子。
この部屋、設備は整てるんだよなぁ…。
親から食料品は送ってもらえるし、此処に引っ越した時も…家電・調理器具・お皿類・家具の全てが揃ってる状況で始まった新生活だったからなぁ…。
当時の俺は胸をときめかせて『どんな料理作ろうかなぁ』とか『こんな家具が欲しいなぁ』とか…あん時は、そりゃもうキラキラしてたさ。
でも、始まってみれば
街を走る車の騒音以外の喧騒は無くてさ、人の声も、生活雑音すら聞こえない…そんな静かな場所で…。
新生活前の俺も、確かに静かな場所を求めていたのは事実。
でも…こんな筈じゃなかった…。
親によく愚痴を聞いてもらったり、何気ない話をしたり…そんな、何でもない時間が、あっという間に無くなって、、。
ずっと四方系の部屋の中で長時間を一人過ごすようになってからは、自分以外の人間と話すのが怖くなっていった。
確かに、何気ない話ができる仲間の存在は居るんだ。
でも…自分の心を開いて会話することが、、できないんだ、。
「あれ?しゃもじを持つ手が止まってますよ~、、どうかしましたか?」
おっといかんな。
考えに老け込むのは俺の悪い癖だな、気を付けないと。
「いえ!すみません、考え事をしていて」
てか、あれ…?
この炊飯された米…水っぽ…い?
神果みかんだ。
記憶は無くなると辛い。
みんなは俺が亡くなったら辛い?
それじゃ。