荀彧という名
「という事でお前には私達の力になって欲しいのだ。」
加子は周瑜の部屋に案内されて孫策に連れて来られた理由を聞かされた。孫策は今は袁術の客将という立場だが、今後は独立を考えているという事。そしてその孫策の為に力になって欲しいという事。
「俺は何をすれば良いんでしょうか?」
「鍛錬だ。」
「た,鍛錬ですか?」
周瑜の予想外の返答に思わず加子は聞き返してしまう。
「突拍子もない事を言ってすまない。」
「いえ、只俺は商人なので武術は全くなのですが…」
「フフフ。分かっているさ。私も自分が一体何を言ってるんだろうなといつも思っているからな。」
周瑜は苦笑いしながら片手で頭を抱えていた。
「だが、そう思うのは今回で最後かもしれないな。」
「?」
「伯符が言っていただろう?今回は間違いないと。」
「…仰ってはいましたが、俺は本当に只の商人ですよ。」
「私は伯符と付き合いは長いが、奴が勘を外すところは一度も見た事がないからな。」
「えっ?でもさっきの言い方だと今までにも俺のように連れて来たりされてるんですよね?」
「一人もいないのさ。」
「?」
「確かに伯符は今までにも多くの者を連れてはきたが、今残ってる者は存在しない。」
「どうしてなんですか?」
「それはお前がこれから経験すれば分かる事だ。」
「…」
加子は大きく息を吸い、そして吐いた。
「命を救われた時点で何を要求されても拒否出来る立場にはありませんが、一つお聞きしても良いですか?」
「なんだ?」
「荀彧という名前に聞き覚えはありませんか?」
「いや、初めて耳にする名だが。」
「…そうですか。」
加子は少し寂しそうな表情を見せた。