黒髪の軍師
「お帰り、雪蓮…またか。」
「まだ何も言ってないんですけど~!」
「軍師殿からも言ってやってくれるかのぉ。」
加子は助けられ何日か経ち、とある館へ案内された。軽傷だった傷の手当や食事に着替え等身の回りの世話はしてくれたが、それ以外常に近くには兵がいて移動する時は常に目隠しをされ馬に揺られていた。しかし、加子に恐怖はなく藍色の瞳の女性に言われた言葉に安心感を得ていた。
「少年、目隠しを取って良いわよ。」
「ここは?」
加子は眩しい目を細めて辺りを見回しながら尋ねた。
「ここは私の家。そして今日からあなたの家でもあるわ。」
「どうして見ず知らずの俺にここまで?」
「どうしてでしょう?」
女性は不敵な笑顔を浮かべた。
「そういえば自己紹介もしてなかったわね。私は孫策。字は伯符よ。」
「俺は加子と言います。真名は典です。」
「真名まで預けてくれるんだ。」
「命を助けて頂いたのだから真名で呼んでもらって構いません。」
「いきなり真名まで預けてもらったのは初めてかな~」
「えっ?」
「こっちの話よ。」
「策殿、ここにいたのですね。」
孫策と話をしていると加子にも聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「祭、何かあったの?」
「冥琳が呼んでいましたぞ…いつかの孺子ではないか。」
加子は頭を深く下げた。
「加子って言うんだって。」
「先刻はありがとうございました。」
「儂は何もしてはおらんさ。そこにいる策殿の気まぐれが故。」
「黙って聞いてれば酷いんだから~」
「加子。儂は黄蓋。字は公覆じゃ。」
加子と黄蓋は握手を交わす。
「何を油を売っているのですか?二人とも。」
「なになに。冥琳怒ってるの?」
「怒っていない!」
「すまん、冥琳。今策殿を見つけた所だったんじゃ。」
「へぇ~」
黒髪を靡かせどこか気品のある女性が歩いてきた。
「傷はもう良いようだな。」
「あっ、はい。加子と申します。」
「変な気は起こさないようにな。」
「?」
「なに脅してるのよ~」
「言っておくが雪蓮。私達だっていつまでも遊んでる場合じゃないのよ。」
「分かってるわよ。怖いな~。ねぇ、典。」
加子にもこの黒髪の女性が言ってることが正しいと感じていた。普通見ず知らずの人にここまでする必要はない。だからこそ何かあるのかと薄々感じてはいた。
「…孫策に真名を許したのか?」
周瑜は加子と孫策の少ないやり取りで直ぐに気が付いた。
「はい。命を助けて頂いたので。」
「…今までの穀潰しとは違うようだな。」
「だから言ったでしょ。」
「どうせ勘なのでしょう?」
「勿論。それに今回は間違いないと思うけどな~」
「策殿の勘は侮れませんからな。」
「…分かった。私は周瑜。字は公謹だ。加子、お前に期待させてもらおう。」
「期待…ですか?そういえばどうして俺はここに連れて来られたんですか?」
「まだ何も聞いていないのか?」
「はい。」
「「雪蓮!」」
「ヒィ!」
「後で話がある。」
「さて、儂は鍛錬に…」
「黄蓋殿、貴女もです。」
「…」
「加子。詳しい話を後でするので私の部屋に来てくれないか?」
「わ,分かりました。」