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魔女裁判後の日常  作者: 一桃 亜季
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魔女裁判後の日常6「罪を隠す」


偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」


シリーズの6作目になります。

        ※


 漆黒の髪とその瞳を持つ一族、タロの街の中枢、ラーディオヌ邸に一人の男が呼び出された。

 長身痩躯の男は、ラーディオヌの民らしからぬ和柄の衣装をまとっており、薄闇の中で鋭い眼光が光っている。


「ひどい有様だな」

 男は横たわる女の死体を見て、目を細めた。女の細い首がねじり折られて、不自然な方向へ曲がっている。


 ラーディアの第二皇妃の娘、フェリシア・アルス・ラーディアを殺したアセスが連絡を取ったのは、ヨースケ・ワギだった。


「あなたなら、完璧に葬ることができるでしょう?」

「そうだな……」

 ラーディオヌ一族の裏社会のボスという地位にいる彼は首肯した。


「で、その対価はなんですか?」

 あの夜のように、一晩自分の相手をするのかと、ヨースケが問う。


「それはそれで構わないのですが、少し私は今狂っているので、このような死体を更に築くことにならなければいいと、思うばかりです」

 口の端でふっと笑ったアセスを一瞥して、ヨースケ・ワギは考えている。


「言わなかったか? お前のような男が恋愛感情などに惑わされれば、最終的に見るのは地獄だと」

「そうですね。ーーあのひどく酒を飲んだ夜、あなたはそう言っていたような気がします」

「馬鹿なのか?」

 率直に聞かれたヨースケからの言葉に、アセスは笑いながらうなずく。


「一言一句覚えていますよ。リンフィーナとの婚儀をあげるために必死になる私に、あなたは忠告しました。お前のように人を知らぬ者が、全ての望みを恋愛に託すな。貴方はそう言いましたよね。ーーそして恋愛と人間愛と、性欲は別だと私を征服した」


「二度と会いたくはない相手だっただろう?」

「さほどでも」

 アセスはうっすらと笑う。


「この状況、ーー貴方の国の言葉を借りるなら、このヤバイ状況、完全に闇に葬ることができるとしたら、あなた以外に思いつかなかった。表向きは武器商人、でも裏社会を牛耳る、ワギ・ヨースケ」

 アセスはワギを館に呼びつけた。


 殺めてしまったラーディアの皇女を前に、その先の自分が取るべき行動を問いたかった。

 全てを暴露して、極刑に処されると言う判断でも、構わないと思っていた。

 けれど最終決断を、なぜか自分を貶めるワギ・ヨースケに聞いてみたかった。


「貴方のために、この状態を完全に消すことは可能です。ーーけれど、ラーディオヌの総帥アセス、貴方の歪みを治すことができるものなど、この世にいるんでしょうか? 貴方は一族の総帥なのに」


 総帥の力が衰えれば一族は滅びに向かって傾いていく。

 それが判っているだけに目の前の死体ひとつ片付ければいいという問題ではなさそうだと、様子を窺うようにこちらを見てくる。


「第三エリアの秘密を知り、外から来た貴方でも、私の変化は懸念事項に当たるのだな?」

「残念ながら、私はすべての理を知っているわけではない。――ただ悪いことばかりでもないだろう」

「……というと?」

「引き換えに、力を得たはずだ」


 第三エリアに関わった者は、力を得る。

 それを魔と契約したと解釈する者も多い。

「それでいうと、私も普通ではない。人なのに永い寿命を持ち、異世界の知識をこの地にもたらして久しい」


「極刑にされるのも、第三エリアの秘密を守るため、ではないのか?」

 ヨースケ・ワギは肩をすくめて、両手を上げる。

 そこまでは自分達も介入したことがない、とでも言いたげだった。


「おまえはどうしたい?」

 ヨースケの言葉は切り込んでくるように淀みがない。

 ただ聞かれても一つの望みしか持っていなかった。

 自分の体神が滅んで、飛び込んできた感情は一人の少女への執着。


 アセスが苦笑していると、ヨースケは「付ける薬はなさそうだ」と言った。

「生粋の貴族として生まれた貴方の望みが、そんなちっぽけで、一番手に入りにくいモノとは」

「交換条件としてどうでしょう? 程よき時期に貴方に総帥の座を譲るというのは?」

 しれっというと、ヨースケは腹を抱えて笑い出した。


「やはり面白い男だな」

 ひとしきり息も絶え絶えというくらい笑い転げて、ヨースケはアセスに向き直った。アセスよりも頭一つ分大きな長身で、アセスの顎に指をかけて値踏みするように見下ろしてきた。


「そんなものに興味はない。私が興味があるのは純粋に利益だ。国営で運営している農産物の珈琲。あれを民営化してくれ」

 それですべてをもみ消してもらえるなら安いものだろう、と商売人らしい提案をしてきた。

「民営化しても一族に利益を分配するなら手を打とう」

 アセスは言った。


「民営化が無理なら、やはりラーディオヌの総帥、ーー君が欲しいな。ラーディオヌの宝玉とも言える存在だと、私は高値をつけている」

「ご冗談を」

 アセスは口の端をあげて皮肉げに笑う。

「こうして罪を隠しても、いずれ私は裁かれるでしょう。そのようなものと関わっていても、いいことはありませんよ」

「魔女裁判後の日常6」:2020年11月4日


ここからまた、一日一章書いていこうかと思っています。

この部分までを「ラーディオヌの秘宝」に入れてしまってもよかったのか。

ふと今思いました。

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