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魔女裁判後の日常  作者: 一桃 亜季
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魔女裁判後の日常5「見張り」


偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」


シリーズの6作目になります。

        ※


「言いたいことの察しはついている」

 リンフィーナの旅の同行者となったウインジンだが、彼の本来の目的が、単に彼女への友好的な気持ちから来るものではないと、サナレスは気付いていた。


 彼の目的は、監視。

 一度目覚めてしまった魔女が、リンフィーナを支配しないよう見張るために、彼はリンフィーナに近づいたのだ。


「わかっていらっしゃるなら話は早い。我が一族は、魔女を産み落とした一族として、出現を封じねばならない」

 だからどうするのかとまでは言わないが、物騒な話なのは間違いなかった。


 リンフィーナが魔女を体に宿すなら、封じるとすればリンフィーナからだ。

 それがわかるだけに、サナレスも内心穏やかではいられない。


 ウインジンの顔色をまじろぎもせず見つめると、彼の方が困ったように吐息をついた。


「全てはご推察のとおりで……、私も参っています。リンフィーナ様があまりにも無邪気でいらっしゃるから、思いの他肩入れしてしまいそうで」

「邪気がないのは育ちのせいだ。あれにはすれた所ひとつない」

「看病されている貴方を見ていて思いました。リンフィーナ様をよほど愛されているのですね」


 サナレスは苦笑した。

 今の今まで、自分が周りからどう見られているかということにまで、意識がいかなかった。アセスの体神を失ったリンフィーナの精神が、どうなってしまうのかばかりが心配で、余裕を無くしていた自分を恥じるばかりだ。


「本来ならば私がしなければいけない諸事を代行していただいたようだね、すまない」

 礼を言うと、ウインジンは掌を口元にやって、すこし笑った。

 アセスの体神が消えて、尋常ではないほど兄妹そろって取り乱してしまったのだ。だからこそ彼は、今まで沈黙を守って待ってくれていた。


 そもそもサナレスが二人現れ、そのうちの一人が突然黒髪の青年に姿を変え、更に人では在り得ない形でこの世を去ったのだ。ウインジンにしても聞きたいことは山ほどあったことだろう。


「まずは、彼はいったい何者だったのですか? 貴方とは違うが、旅の間ずっと強大な力を感じていました。あんな力を感じることは一族でも稀なことです。消える間際、彼が貴方の姿から漆黒の髪の青年に変わりましたが、ラーディオヌの貴族でしょうか?」

「ああ。彼はラーディオヌ一族総帥、アセス・アルス・ラーディオヌの体神だった」

「ラーディオヌ一族総帥の体神? あれほど強大な力を持つ分身など存在するのですか?」


 並外れた力だということは判っていた。しかしラン・シールドの一族の総帥を唸らせるとは、相変わらずあの男の力は規格外だな、とサナレスは思う。


「それでどうしてラーディオヌが彼女を護るのです? 私と同じような理由からですか?」

 サナレスは頭を振った。


「あいつはリンフィーナの婚約者だ。本心で彼女を護りたいと思っていた。――本人が今、動けない状態にあるから体神を遣したんだ」


 言えない事情は他にもあった。ウインジンもそれを察しているのか、それ以上は聞いてこない。

「彼女の婚約者だったのですか。だからリンフィーナはあのような状態に……?」


「ああ。今回ばかりは堪えたようだ。彼女は自分のせいで、周りが傷つくことをいつも恐れていたから」

 目の前で、彼女にとってはアセス自身の命が消えたのだ。こうなることは予想できた。


「しかし、リンフィーナ様がこのまま目覚めず、魔女に支配されたままとなることは、我々としては阻止しなければならないのです。何か打つ手はございませんか?」

 ウインジンの目的は魔女の支配を阻止することだ。それさえ出来ればリンフィーナに手を出すことなど望んでいない、と彼の気遣うような視線が語っていた。


 今のリンフィーナは、生きる屍だった。アセスやラディ、彼らを失った元凶は自分にあると責め続け、覚醒した魔女と一緒にその命を絶とうとしている。

 おまえのせいではないのだと、どう説明したら彼女に伝わるのだろうか。


 魔女が覚醒することも、その魔女ソフィア自体が強大な力を持っていることも、全ては天命であって誰かひとりの責任などであるはずがなかった。


「何としてもリンフィーナを目覚めさせようと思っている。だから今しばらくは、黙ってみていてくれないか?」

 ウインジンに救いを求める。この上ラン・シールドにまで狙われることとなったら、サナレス一人の力では護りきることができなかった。


「お心は十分理解しているつもりです。私とて望むことではない。けれど我が一族にことが知れることになれば、黙っていることはできないでしょう」

 監視役として、つかの間目を瞑ることはできても、とウインジンが言った。


「それだけでも、今は有難い。とにかくリンフィーナの体力が回復してくれたら、なんとかして彼女をもう一度生きる方向へ導いていくから。一時ソフィアの力を借りてでも、彼女を死なせたくはない」

「わかりました」

 ウインジンはサナレスの思いを汲み取ってうなづいた。


「ただし条件があります。私としても、期限なしにいつまでも魔女を放置しておくわけにはいきません。私自身の余命もそう長くはない、そして一族の長としての責務もある」

「何時までだ?」

「1カ月。次の新月まで、私はこのことを伏せておきましょう」


 執行猶予つきというわけだ、とサナレスは苦笑した。

「それで構わない。もし次の新月までに彼女が戻らなければ、だな」


 ということはそれまでに、リンフィーナを取り戻さなければならない。サナレスは瞳に力を宿した。

 ウインジンがふと微笑んだ。


「貴方方は、ほんとうに兄妹でいらっしゃいますか?」

 真紅の瞳が優しげに細められるが、声には呆れたような響きがあった。


「兄妹には見えないか?」

 サナレスが問うと、可笑しそうにウインジンはうなづいて、自分にも姉がいるがずいぶんと違う関係だと面白がった。


 観念してサナレスは真実を口にする。

 今まで決して口にすることがなかった事実は、おかしなところで告白することになるものだ、と思いながら。


「確かに私達は兄妹ではない。しかしまあ、あれに初めてあったのは、あれが1歳にもならない頃の話だ。妹として育ててきたのも事実なんだがな……」

「魔女裁判後の日常5」:2020年11月3日

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