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魔女裁判後の日常  作者: 一桃 亜季
120/121

魔女裁判後の日常120「前日」

 偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

シリーズの6作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


        ※


 ナンスもアキ・樫木も、特段サナレスから口止めされていることはなかった。だからヨースケやラーディオヌ一族のアセスに、自分たちが見聞きしたことを全て語る。

 ただ二人とも言い淀む共通の話題があった。

 ナンスはアセスと元婚約者殿であるリンフィーナのことは、何の気遣いかオブラートに包むように話すし、アキ・樫木ですら支離滅裂なことを口にしてくる。そういえばアキは昔から恋愛に対して不器用に振り回されるところがあり、ヨースケはため息をつく。


 リンフィーナとサナレスのことは、アセスが知りたいことの最重要項目に挙げられているのに、二人の遠慮が言葉を濁らせており、そのわりに彼女の名前を口にする回数が多く、言いたいのか言いたくないのかはっきりしない。他人事を聞かされる自分ですら釈然とせずに苛々した。


 アセスは細かく咀嚼するように全てを聞き取って表情を変えずにいた。

 やはりこいつも何を考えているのかわからないな、とヨースケは思った。


 結局、サナレスはリンフィーナとどうなっている?

 自分が確認するより先に、アセスは「その件についてはもういい」と言って中断してしまう。


「それは、サナレスと話してもうわかっている」

 サナレスと二言三言話したことを、アセスは誰の言葉よりも素直に聞いているようだ。

 思いのほか、サナレスとの信頼関係の厚さが伝わり、ヨースケは軽く口笛を吹いた。


「それよりも私はこの世の情勢を知りたい。第3エリアのことも未知の領域、ーーそしてヨースケ、おまえがラーディオヌ一族で民の気持ちを体感しろと言って未だ数日、私は命の平等性というものがわからないでいる」

 王族らしいアセスの言葉に、ヨースケは反駁する。

「全ての命が、別に平等だと言っているんじゃない……」


「そうするとヨースケ。ーー私が常日頃業務としている、行いによって人を捌く……、つまり裁判の名の元に命の処分をすることになるんだ」

 ヨースケは歯噛みした。

 違う、ということだけはわかるけれど、未だ確たる道筋を示せずにいる。

 

「それであんたが、裸一貫で体感しろといったことをやってみて、どうだったんだよ?」

 アセスは愚直にヨースケの言うことを聞いて実践していた。彼は驚愕するほど真摯に、自分が目にして欲しいものを見てきたはずだ。

 アセスは貧民街で拠点にしたエリアについて、やっと自分の問いに答えを返した。


「清々しいくらいに腹が立ったよ」

 憮然とした言いようにアセスの本心が感じられ、ヨースケは軽く笑う。

「あんたの言う通り、ーーわかっていたこととはいえ、私は……ラーディオヌ一族は、至極不条理ですね」


 不条理。

 道理が立たないとか、理屈が‘おかしいとか、アセスはそんな言葉を使ってきた。


「働こうにも仕事がない状態の大人。育てられないから、捨てられる子供。食べるものに困る貧民層体感して思うことは、貴族と等しく不幸で、ーー付け加えるなら無学だということだ」

 アセスは誰もが憧れる雲の上の暮らしである貴族社会を否定的に捉えていて、彼の目には貴族も貧民も諸行無常に感じられて認識されているらしい。


「ただ……、しばらくここに暮らしてわかったこともある。私は知識欲が芽生えれば、いつでもそれを満足させられる環境にあった。もしかすると無学は、環境が作るものかも知れない。ーーつまり環境や制度を整えてやることで、民は変わるのかも知れないな」

 ほう。

 ヨースケは及第点だと、アセスの成長を肌で感じて身震いし、心の中で安堵した。


魔女裁判後の日常:2021年3月3日

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