魔女裁判後の日常119「聞きたいこと」
偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
シリーズの6作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
※
「アセス、おまえ今まで何処にいた!?」
ラーディア一族の一行が去ってもなかなか動こうとしないアセスの肩をヨースケは揺さぶった。
通行人たちはおそらくはアセスがラーディオヌ一族の総帥その人だと気が付いていない様子で、一人の物乞いが貴族の馬車の前に飛び出し、本来であれば処分されるところを見逃されたぐらいにしか認識しておらず、見物人たちは散り散りになっていく。
だがヨースケとナンスだけが、アセスの様子を心配して彼を目立たない裏路地に引っ張り込んだ。
「なんてことをさせてるんですか!?」
ナンスはやはり勘違いから取りつくすべもなく自分を非難してきて、ヨースケは頭を抱え込む。
「この方は、自由人のボスには理解できないかもしれないんですけど、ラーディオヌ一族の総帥なんですよ」
知っているよ。
誤解だ。
一言そういえば良いのだけれど、実際ヨースケもコミュニケーション能力については小学生並みに成長しておらず、どちらかというと説明するのが面倒になって途中で諦めるタイプなのだ。
特にナンスが子犬のように吠えているように思って、一から十まで説明してやる労力に辟易して、もう誤解されたままでも良いかもしれないとそっぽを向いてしまう。
アセスのやつも、心配して捜索していたけれど無事だったのだから、万事うまく言ったのだろうか。
面倒臭いという感情が最優先される今となっては、「まぁいいか」という心の声が大になってしまう。
「相変わらずやなぁ」
そんなヨースケの肩を馴れ馴れしく抱いてくる男が居た。
「久しぶりやんか、和木」
いつの間にその場にいたのか、懐かしい顔が自分の横に立って、目一杯背伸びしながら自分の肩に腕を回してくる。
「樫木か?」
「おお。サナレス殿下らは急いでいたけど、わいはおまえの顔見てちょっと話したくなって、後で追いかけることにして残ったで」
「なんでおまえがサナレス殿下といるんだ!?」
その暑苦しさで一番苦手なタイプのアキ・樫木が屈託なく笑っていて、ヨースケは嫌そうに顔をしかめた。
「後でラーディアにいる森君にも言わないといけないことだけど、おまえともちょっとミーティングしとかなあかんおもてな」
森のところに行くつもりだったらしいことを聞かされ、ヨースケは珍しいこともあるものだと少しだけ興味を覚える。
こちらに異世界転生して三百年になるが、ヨースケやリトウ・森のように、アキ・樫木は移住せず、最初に根付いたイドゥス大陸にずっと居続けていた。大陸を渡ってきたのも初めてのことで、いつも自分とリトウが彼の元を訪ねるのが恒例となっている。
「まさかクーラー壊れたとかじゃないよな?」
灼熱の大地イドゥス大陸は暑く、リトウ・森が科学によって再現した冷房器具のメンテナンスは、アキ・樫木にとっては重要事項だ。
でも、まさかそんなことで?
「ちゃうで。わいの雇用先、キコアインの総帥からサナレス殿下になってしもたから、今回はしゃあないねん」
はぁ!?
アキ・樫木はキコアイン一族の神官長に抜擢されていたはずで、その雇い主がサナレスになるということはどういうことか。
「キコアイン一族の総帥が死去したことは風の便りに知っているが……」
自分達が仲間内にだけでわかることで言い合いしていると、それを横目に見ていたアセスが言った。
「ラーディオヌ邸にこの者を招こう。私も知っておきたい情報があるかも知れぬ」
決して主張しない小声でそう言われ、ヨースケは決断してすたすたと前を歩くアセスに質問した。
「おまえっ……、だから今まで何処にいた?」
アセスは歩みを緩めながら、冷たい表情で一瞬自分の方を振り返る。
「貴方が一族の内情を知るためには、ーー時短したいなら、裸一貫でこの貧民街に住んで欲しかったのだと言ったでしょう?」
だからその翌日からそうして生活していたんだと、アセスは言った。
ヨースケはゾクっと身震いする。
こいつーー。
自分の愚痴めいた願いを愚直に受け取って、それを実行していたのか?
笑えてきた。
「樫木、うちの総帥が言うように、そっちの大陸で起こったこと聞かせてくれよ」
らしくもなく、ヨースケもアキに逃げられないように肩を掴んだ。
魔女裁判後の日常:2021年3月1日